第2章(2)

 主任の勢野が現れたのはそれからすぐのことだった。


「みんなご苦労。徹夜の人もいると思うが、体調を崩さないよう気をつけながら仕事に取り組んで欲しい」


 いつもの朝礼の時間が始まった。勢野の声には何か特殊な周波があるのかと思わせるくらいに体がシャキッとする。


 勢野は前方の大型モニターの前に立ち、部屋の奥まで届くくらいの大きな声で朝の挨拶をしている。ここにいるすべての人たちの目が彼女のほうに引き寄せられていた。


「理由はわからないが、最近、レベル1、レベル2の能力者の発生が非常に多い。ということは、当然もっと高レベルな能力保持者が現れる可能性も高いということだ。油断すれば時間退行可能なレベル5を見過ごすことになるかもしれない。承知しているとは思うが、我々は何としてもそれを避けなければならない」


 能力のレベルについては現在、急ピッチで研究が進められている。今はあくまで時空の歪みの大きさから暫定的にレベルを分けているに過ぎない。


 どういう過程でレベルが変化していくのか。同レベルでも何か違いはあるのか。どんな人が能力を身につけやすいのか。


 挙げていけばきりがないほど疑問点はたくさんある。だが、わからないからといって手をこまねいてもいられない。何も対策をしなければ、どんどん時間退行可能な人間が増えていってしまうのだ。


「そのためにも集中力を切らさずに取り組んでくれ。では……」


 勢野が締めの言葉を言おうとしたときだった。


 ――ビィー、ビィー。ビィー、ビィー。


 モニターの両脇にある赤いランプが点灯し、警報音が鳴った。高レベルな能力者が現れた合図である。指令室内には焦りと緊張が走った。


「確認を急げっ!」


 勢野の命令が下る。技術者たちが一斉に解析を始めた。


 少し経って、解析結果が次々と上がっていく。


「レベル3の時空の歪みを観測しました。発生場所を表示します」

「データベースと照合した結果、ここ数日レベル2を維持していた人間のものと断定できました。時空の歪みの変化を表すデータがあるので表示します」


 報告とともに、前にある大きな画面に情報がどんどん追加されていく。


「ターゲットの基本情報です。名前は中里進士なかざとしんじ。男性。十八歳。大学生。現在は一人暮らしをしている模様。住所はこちらです」


 名前や写真、住所などの情報が表示される。それらを確認した勢野は手帳を取り出し、素早くメモを取っていた。


「おい、お前たち。集合だ!」


 そして、大きな声で呼ばれ手招きをされる。集められたのは俺、空岡、節原、世良の四人だった。俺たちは彼女の前にピシッと横一列に整列させられる。


「聞いての通り、レベル3の人間が現れたようだ。お前たちに対応してもらう。命令は一度しか言わないからよく聞け」


 勢野が鋭い目つきで俺たちの顔を見る。


「間庭と空岡。お前らは中里の家に向かえ。近隣の住人から話を聞き、それから本人に会って能力の発動原因を探れ。節原と世良は彼が通う大学に行って話を聞いてこい。そして、何かわかったらすぐに間庭たちに伝えてやれ。もちろん本部にも報告を忘れるなよ。しっかりと協力体制を築いて仕事に当たってくれ。一つの判断ミスが破滅に繋がりかねないからな」

「はい!」


 四人分の返事が重なる。俺たちは互いに目配せをし、グッと気合を入れた。

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