第2話 デート
人のことを嫌でも知る破目になってしまうわたしは、直哉のステータスももちろん見えてしまう。知ってしまう。知りたくないと願っていたとしても、知ってしまって情報に感情を踊らされ結局わたしが疲れる。
彼が今、他に好きな人がいることも、何人彼女がいることだって分かってしまう。目を逸らしたって、彼はわたしの事情を知らないので、「こっち見ろよ」とわたしを誘う。その甘い誘惑に勝てない。理性はことごとく敗北し、本能が完全勝利を収め、現実を見る。
なんて、わたしは弱いのだろう。結局彼に頼ってしまう。
「ハナ、明日会えない?」
というメールに何と返事したのかはっきりしない。
履歴を見て、鼻の奥がつんとして溜息がこぼれた。まただ。また、直哉に会うことになる。
そして、真実を知るのだ。
直哉は眉が再び薄くなって髪の色も赤っぽくなった。付き合い始めたときの彼の原形をとどめていない。
「受験勉強、頑張りすぎんなよ」
わたしの頭を撫でた。また背が伸びたんじゃないか。
彼を見れない。
「直哉は、就職って、どうするの」
「受験したくないだけ。別に、就職とかそんなの決まってねえし」
――なあ何で俺のほう見ないの?
遠回しに言われているような気がして、声が震えそうだ。
「そっか。わたし、勉強頑張りすぎかな、目が赤いんだ。だから」
恥ずかしいという言葉を飲み込んだ。
直哉がそっと頬にキスをした。そして、自分のほうにわたしを向かせて優しく言ったけど、ステータスは嘘をつかないし、嘘をつけない。
――他の女にもキスしてるんでしょ。
そう、わたしは臆病者。現実から目を逸らし続けている自分はなんと弱いのだろうか。
【
年齢:十五
属性:人間
タイプ:ペテン師
特徴:ペテン師タイプは真実を言わず、表向きの言葉ばかりで思ってもいないことを言うのが特徴。真偽を注意深く見分けること。このタイプに惑わされる女性は数多くいる。本命の恋人は作らない、全て遊びという恋愛観】
最初はこれくらいだったのが、親しくなるうちに情報は膨れ上がり、今では交際人数・キスした回数・交友関係まで見えるようになっていた。
出会った時、このステータスは間違っていると確信していた。髪の色はまだ黒だったし、チャラチャラしていない真面目そうな、いざとなったら頼りになりそうで優しい人だと思っていた。
優しいという点では、現在でも大して変わりない。
浮気していることをわたしに隠してくれているから。彼は優しい。
とあるドーナツ店で時間を潰して、ただただ喋っていた。
友達に聞き上手、と言われたことがある。それは、見えるステータスがどれ程正しいのか見分けているからであって、わたしが聞き上手なのかは定かでない。
すれ違う人、店の前の歩道を歩いていく人のステータスが宙に浮かぶ。他人のステータスを確認するのが日常化してきている。きっとこれからも繋がりがないはずの人まで、気になってしまうまでになった。
直哉が熱心に自分の友達について語る。彼がこんなにも楽しそうに話してくれる友達は、女の子かやんちゃな男性だろう。わたしには関係ない人であり、きっとこれからの長い人生の中街ですれ違うことはあっても、決して仲良くならない人たちだ。
「美田高行くんだろ? あそこの制服可愛いよな。ハナに似合いそう」
「違うよ、わたしは大二高校に行くんだよ」
「それは残念だなー。大二高って制服ダサいじゃん。可愛くない、あ、制服も女の子もレベル低いしな。頭だけだよ、ガリ勉集団」
背中を椅子にどっかりと預け、身をそらす。こんな人が彼氏だなんて、恥ずかしい。
「それが本当なら、ブスがブスに埋もれるから丁度いいよ」
もう帰ろう、と直哉に声をかけて二人で歩いた。会計は直哉がしてくれて、自分の財布に千円札が一枚しかなかったのが恥ずかしかった。彼は優しかった。まだあの頃とそのところは変わっていない。
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