吸血鬼さん、吸血鬼さん!

しばの晴月

第1話 ステータス



 ――そう、わたしでも、全てが見えるわけではない。




(あの人のHP減りそうだな……)


 きっかけはあったのだろうか。物心付いたときには人という人のステータスバーが見えていた。


 わたし――八月一日華ヤブミハナは塾帰りの帰路についていた。半年後には大事な高校受験を控えたわたしは、午後十時まで駅前の塾へ通っていて、先ほどコンビニに寄り道して、梅昆布を買った。

 ――ステータス画面。九割以上の人のそれが見えてしまう。見えないのは、両親のものだけだ。

 梅昆布を口に含む。脳が喜んでいるような気がして、よくよくかみ締めた。

 携帯を見ると、メールが来ている。華は短文を送信した。

 差出人は、一年前から付き合っている直哉ナオヤだ。彼はそのまま就職すると言って、受験勉強に励むわたしを置いて頻繁に連絡をよこす。実のところ、大して嫌ではなかった。


 コンビニ袋をシャカシャカ言わせて、歩いて約十分経って自宅に着く。駅からそんなに遠くないけれど、街灯はぽつりとしかなくて、寂しい風景が広がっている。


 他人のステータスが見えること、両親は知っている。母も小さい頃見えていたと教えてくれた。うちの家計はそうなのよ、と。

 でも、母はその不思議な力を祖母からほとんど受け継いでいない。



「お祖母ちゃんもね、そのお姉さんも妹も見えてたのにね。お母さん、一年くらいしか見えなかったのよ」



 彼女は少し残念そうに言った。でも、



「人の全てが見えちゃうのは怖いから見えなくなって、お母さん、良かったかも」



と晩御飯を作りながら話す。それがどこまで本気で言っているのか、力をしっかりと受け継いでしまった自分には悟れなかった。



「お母さんは、見えなくて本当によかったと思う? 後悔はない?」

「うん、ないかな。しいて言えば、健ちゃんの好意を逸早く知れなかったことくらいかなぁ」



 健ちゃんというのは、父親のあだ名で、小さな電気関係の会社を営んでいる。両親が結婚していない時からの、あだ名みたいだ。



「大丈夫、きっと華なら上手にできるよ」

「急に何?」

「見たくないものまで、見えてしまうのは苦痛だろうけど、頑張りなさいよってこと」

「ありがと」



 思わず笑みがこぼれた。この声が野菜炒めをしている彼女には聞こえなかったことだろう。

 それが何となく残念にも思えたが、わたしはイヤホンで耳に蓋をした。

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