吸血鬼さん、吸血鬼さん!
しばの晴月
第1話 ステータス
――そう、わたしでも、全てが見えるわけではない。
(あの人のHP減りそうだな……)
きっかけはあったのだろうか。物心付いたときには人という人のステータスバーが見えていた。
わたし――
――ステータス画面。九割以上の人のそれが見えてしまう。見えないのは、両親のものだけだ。
梅昆布を口に含む。脳が喜んでいるような気がして、よくよくかみ締めた。
携帯を見ると、メールが来ている。華は短文を送信した。
差出人は、一年前から付き合っている
コンビニ袋をシャカシャカ言わせて、歩いて約十分経って自宅に着く。駅からそんなに遠くないけれど、街灯はぽつりとしかなくて、寂しい風景が広がっている。
他人のステータスが見えること、両親は知っている。母も小さい頃見えていたと教えてくれた。うちの家計はそうなのよ、と。
でも、母はその不思議な力を祖母からほとんど受け継いでいない。
「お祖母ちゃんもね、そのお姉さんも妹も見えてたのにね。お母さん、一年くらいしか見えなかったのよ」
彼女は少し残念そうに言った。でも、
「人の全てが見えちゃうのは怖いから見えなくなって、お母さん、良かったかも」
と晩御飯を作りながら話す。それがどこまで本気で言っているのか、力をしっかりと受け継いでしまった自分には悟れなかった。
「お母さんは、見えなくて本当によかったと思う? 後悔はない?」
「うん、ないかな。しいて言えば、健ちゃんの好意を逸早く知れなかったことくらいかなぁ」
健ちゃんというのは、父親のあだ名で、小さな電気関係の会社を営んでいる。両親が結婚していない時からの、あだ名みたいだ。
「大丈夫、きっと華なら上手にできるよ」
「急に何?」
「見たくないものまで、見えてしまうのは苦痛だろうけど、頑張りなさいよってこと」
「ありがと」
思わず笑みがこぼれた。この声が野菜炒めをしている彼女には聞こえなかったことだろう。
それが何となく残念にも思えたが、わたしはイヤホンで耳に蓋をした。
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