第4話
ミノタウロスは右手で古びた斧を振り下ろす。その照準は真っ直ぐと私を捉えている。馬に乗って避けようとするが、このタイミングでは間に合わない。私は馬から飛び降りて避けた。
馬が悲鳴を上げて地面に倒れ込む。倒れ込んだ地面には血だまりが出来ていた。借りた馬を死なせてしまい後悔の念が浮かぶ。
目の前にいるミノタウロスは、主に中級ダンジョンに生息するモンスターだ。さっきのゴーレムよりかは弱いだろうが、私より強いことに変わりはない。冷静に戦わなければ、勝つどころか逃げる隙さえ作ることができない。
ゲノアスはいつの間にかこの場から去っている。追いかけたいのはやまやまだが、このミノタウロスを何とかしない限り追いかけるのは無理だ。今追いかけても、ミノタウロスが追ってきて後ろから攻撃されるのがオチだ。つまり何とかしてミノタウロスを撒く必要がある。
しかし、その手段が思いつかなかった。
「どうすればいいのよ!」
思わず、苛立ちが言葉に出るほどだった。
ミノタウロスは中級ダンジョンに生息するモンスターのなかでも、危険な部類に入るモンスターだ。体格に見合ったパワーと、体格に似つかわしくない俊敏さがある。また獰猛な性格なため、目に入った人間を必ず仕留めようとしてくるのが厄介だ。ミノタウロスに見つかったときの選択肢は、戦って倒すか、戦って死ぬかの二択だけとも言われている。
しかも個体によっては、上級冒険者も倒すものがいるという話だ。目の前にいるミノタウロスがどれほどの強さを持っているのか分からないが、どちらにせよ戦うことしか選択肢は無い。
問題は、どうやって勝つかだ。
ミノタウロスは右手で斧を振るい続ける。隙だらけの大振りではなく、当てることに重点を置いた小さい振りだ。しかしミノタウロスほどの巨体から繰り出す攻撃は、たとえミノタウロスからしたら軽い攻撃でもこっちにとっては致命傷になる。一撃一撃に油断が出来ない。
そのうえ、攻撃するのにも一苦労だ。敏捷さはこっちが上回っているが、速さにそこまでの差が無い。だから攻撃を潜り抜けて反撃しても、すぐに下がられるため致命傷を与えられない。かすり傷が精一杯だ。
不幸中の幸いとして、広い場所で戦えているため、狭いダンジョンとは違って存分に動けることくらいだ。ダンジョンで戦うときは壁が気になって大きな動きが出来ないが、これだけ広いとミノタウロスの攻撃を避けやすい。ただ、ミノタウロスもその恩恵を受けているので、攻撃を当てにくいのが難点である。
時間をかければ隙を見つけて、その隙を突ければ勝つなり逃げるなりできるだろう。だが本来の目的はゲノアスを捕まえることだ。時間をかけてしまえば森から出てしまい、行方を見失ってしまう。一番近くにいる私が早く追いかけるべきなのだが、目の前のミノタウロスが倒せない。
じりじりと身が削れる感覚がした。時間が経てば経つほどゲノアスの思い道理になっている気がして腹が立つ。向こうの方が追い詰められていたはずなのに、なぜ今は逆の立場になっているのか。
苛立ちが、一瞬だけ私の気を逸らす。その隙をミノタウロスは逃さなかった。突かれるように振るわれた斧が私の目の前に出現する。避ける動作が間に合わない。
咄嗟に剣を盾代わりに使ったが、剣に伝わる衝撃に身体が押し出される。そのパワーに耐えきれずに後ろに吹き飛ばされ、地面に転がりながら勢いを殺した。反射的にとはいえ、上手く受け身を取れたことを自分で自分を褒めたくなる。腕の痺れさえなければ、自画自賛していただろう。
「最悪っ―――」
自分の間抜けさが嫌になる。油断してはいけないと自分に言い聞かせていたというのに、この様とは……。
吹き飛ばされて地面に仰向けで倒れている私に向かって、ミノタウロスの追撃が襲ってくる。腕を使って立って逃げたかったが、腕に力が入らない。身体を捻らせて、転がりながら攻撃を避ける。攻撃を避けた後、すぐに身体を起こして立ち上がろうとするが、即座にミノタウロスが再度追撃する。跳ぶように避けて、また地面に転がった。
腕のしびれが取れない状態では、地面に転がった身体をすぐに起こすことができない。一・二秒だけでも時間を作れれば、腕を使わなくても身体を揺らした反動で起き上がれるが、目の前のミノタウロスはその数秒の隙すら見せてくれない。だがこれはチャンスにもなる。
何度も攻撃をしているにもかかわらず私に攻撃を当てれないミノタウロスは、徐々に攻撃の精度が荒れてきて隙が増えている。狙いが甘く、振りが大きくなっているのが避けながらでも分かった。苛立ちが募っているのだ。そういうところは冒険者だけではなくモンスターも同じだ。腕のしびれが取れた時にもこの状態が続いていれば、隙を狙って反撃ができる絶好の機会だ。
思いがけないチャンスに頬が緩むが、さっきの失敗を思い出してすぐに気を引き締める。まずは腕の状態が元に戻るまでミノタウロスの攻撃を避け続けるのが優先だ。望みを持ち続ければ、好機は訪れるはずだ。
五秒、十秒、二十秒。ミノタウロスの攻撃を必死に避け続けた。最初は鋭くて避けづらかった攻撃も、今では目が慣れた上に、動作が大きくなって読みやすくなっている。ミノタウロスの鼻息も大きくなっていた。
そしてとうとう、ミノタウロスが隙だらけの大振りな攻撃をしたとき、
「よしっ」
腕の痺れが取れた。腕で地面を強く突き、身体を起こしながら攻撃を避ける。剣を握りなおして、隙だらけのミノタウロスに接近した。
双剣から繰り出す乱れ斬りをミノタウロスの右足にお見舞いする。全斬撃に手応えがあった。頭上からミノタウロスの呻き声が聞こえた。
直後に左手で掴みかかってくるが、寸前にミノタウロスの足元を前転しながら抜けて手を躱す。すぐに立ち上がって、がら空きの背中に斬撃を浴びせた。ミノタウロスの呻き声が一層大きくなる。
戦闘の流れは、今私が掴んでいた。ミノタウロスの動きはよく見えているうえ、私の攻撃も通じ始めた。このまま油断さえしなければ、ミノタウロスを倒せる。そんな手応えがあった。
だが、
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!」
ミノタウロスの雄叫びが一帯に響いた。その声量は周囲の木々を揺らすほどだ。鼓膜を破りそうなほどの大声に、たまらず手で耳を塞いでしまう。
私が耳を防ぐことを狙ったのか、その隙を狙ってミノタウロスが左手で掴みかかってくる。咄嗟の連撃に驚いたが、なんとか後ろに跳んで避ける。しかし一度目は躱したものの、続けて掴みかかってくる左手を避けきれずに捕まってしまった。
身体全体を包むほどの掌に恐怖を感じた。懸命にもがくが、腕も一緒に掌の中に捕えられているので碌な反撃ができない。
「は、放してっ! 放しなさい!」
思わず、通じないはずの言葉を使って命令した。当然通じるはずもなく、放す気配がない。
必死に力を入れて抜け出ようとするが、ミノタウロスの手はビクともしない。ミノタウロスとの力の差を感じてしまった。
目の前にいるモンスターは上級ダンジョンに居ても可笑しくないモンスターなのだ。下級冒険者の私がどんだけ頑張っても、調子が良くても、勝てるわけがない。そう、思ってしまった。
ミノタウロスが私を掴んだ左手を持ち上げる。このまま地面に投げ落とす気だ。そんなことをされたら、何もできずに死んでしまう。だが、逃げ出す手段が思いつかない。
「誰か……助けてっ―――」
一緒にいた冒険者達は、まだ馬車の近くにいる。ソランは上級モンスターを相手取っている。誰も助けに来れる状況ではない。
頭では理解していた。しかし分かってはいても、誰かに助けを求めずにはいられなかった。
だから、
「その手を」
その声を聞いたときは、とても嬉しかった。
「放せぇ!!」
馬に乗って参上したヴィックが、跳び上がりながらミノタウロスの左手を深く斬りつけた。
左手を斬りつけられたミノタウロスは痛みに耐えきれず、私を握る力が弱まった。その隙を逃さずに脱出する。地面に着地するとすぐにミノタウロスと距離を取った。
ヴィックは跳び上がって攻撃した後、地面に転がりながら着地する。起き上がった後、ヴィックは私の方に向かって、
「怪我はない?」
と心配した様子で聞いてきた。頭を左右に振ると「良かった」と安堵した表情で言った。
「待たせてごめん。ちょっと馬に初めて乗ったから慣れなくて……」
「……謝る必要なんかないよ」
そもそも、ヴィックか来るとは思いもしなかった。マイルスから離れた場所で、しかも入ったことがないはずの森の中に助けに来るなんて、想像すらできない。
しかしヴィックは私の下に来て助けてくれた。そんな命の恩人に対して、謝罪を求める訳がない。ただ、ヴィックらしいと言えばらしい発言だった。
「それにしても、よくここが分かったのね」
「うん。ソランさんが馬を借りてくれて、一緒に乗って来たんだよ。二度も助けられて、ほんとに頭が上がらないよ。ゴーレムが殴りかかろうとしたときに、ソランさんが馬から跳び上がって止めたんだけど、僕は馬から降りれなくて……。何とか馬を操れるようになったときには、ウィストさんが馬に乗って森に入っていくのが見えたから―――」
話の途中で、ミノタウロスが斧でヴィックに攻撃する。ヴィックは冷静にその攻撃を避けて話を続けた。
「すぐに追いかけて森に入ったんだけど、ウィストさんを見失っちゃったから……。けど探していたらモンスターの声が聞こえたたから、それを頼りにここに来たんだ」
「そっか……来てくれてありがとう。けど、ここからは早く逃げた方が良いよ」
ミノタウロスは私達を交互に見る。数度見た後、私の方に向かってきて斧を振るう。しかしまだ冷静になれていないのか、かなり大振りな攻撃だったため避けやすかった。攻撃を見切って避けると、すぐ傍にヴィックがいた。
「ミノタウロスはかなり強いモンスターだから、さっきの馬に乗って逃げた方が良い。二人で乗って逃げれば助かるかもしれない」
「それは……ちょっと無理かな」
ヴィックが即反対する。妥当な案だと思ったのだが、何か不安があるのだろうか?
「何で? 二人でも勝つのは難しいよ」
「確かに逃げれば一番いいんだけど、このミノタウロスを放って他の冒険者に退治を任せたら、退治されるまでの道中の安全が保障されないでしょ?」
想定していなかった言葉に驚いた。だが言われてみれば最もな言葉だ。
このミノタウロスを含めて、ゲノアスが解き放ったモンスターは私達を襲うために用意されたものだ。そのモンスターを放置していたら、私達のときと同じように隣街に行く人々を襲う可能性がある。
ゲノアスを追うことばかりを考えていたが、冒険者の役割の一つは、人々を襲うモンスターを討伐することも含まれている。そんな大事なことを忘れていたとは……。
「だから倒すとはいかないまでも、深手くらいは負わさないと皆が安心できない。だから戦うしかない。まぁ、乗ってきた馬がどっかに行っちゃったから、逃げたくても逃げれないというのもあるけどね」
最後に間の抜けた言葉を口にした。そういえばヴィックが乗ってきた馬が、いつの間にかいなくなっている。最後までかっこつけられない様子に思わず笑ってしまった。
「まったく、肝心なところで抜けてるんだから」
「ははは……そういうわけだから、一緒に戦おう」
「もちろん!」
私の言葉と同時に、ミノタウロスが再び斧を振るう。振りが小さく、素早い攻撃はヴィックを標的としていた。ヴィックは盾を使わず、大きく飛んで避けた。さっきまでの大振りな攻撃と違うので、驚いた顔をしている。
「大きく避けたら次の攻撃を避けれないよ!」
ミノタウロスの連続攻撃を思い出して忠告する。ヴィックは「分かった」と頷いてミノタウロスの動きを注視する。運が良く、ミノタウロスは連続してヴィックに攻撃しなかった。さっきと同様に、私とヴィックを交互に見ている。その隙に接近するが、感づかれて逆に攻撃される。何とか避けるが攻撃するのは失敗した。ヴィックもミノタウロスが攻撃した隙を狙って近づくが、すぐに反応されて攻撃される。なかなか接近するのは難しそうだった。
ミノタウロスがどちらかを攻撃した隙を狙って、狙われなかった方が攻撃を仕掛けるが、ミノタウロスに瞬時に反応されて近づけない。分かってはいたはずだが、二人でも倒せるイメージが浮かばない。
強靭な肉体に鋭い反射神経、私達の動きに対応できる程度の身体捌きと剛腕から繰り出される攻撃を攻略するのは難しそうだ。時間を稼いでソランさん達に任せれば一番良いが、それまで私達が耐えられるとは限らない。何とかして突破口を見つけて倒したかった。
思いつくことと言えば、ヴィックに囮をして、その隙に攻撃するという手段だ。ヴィックの盾を使って耐えてもらえば、その間で攻撃するチャンスが生まれる。ヴィックと組んだ時にやっていることなので要領は分かっている。ヴィックもそれを考えているのか、私がミノタウロスに攻撃されているときに、ミノタウロスの動きに合わせてタイミングを取っているように見える。あとはヴィックの準備ができるのを待つだけだ。
しかしこの方法に懸念が無いわけではない。それは、相手が今まで敵対したことが無い程の強いモンスターだということだ。受け流しが出来るとはいえ、ヴィックがミノタウロスの剛腕による攻撃を無事に受け流せるのか?
それに、さっきの失敗が頭をよぎっていた。先頭のペースを掴んでいたというのに簡単にひっくり返されるほどの敵が相手だ。今までと同じように闘っても大丈夫なのか?
頭によぎる不安が判断を曇らせる。このままでいいのか? それとも別の手段をとるべきか?
どうこう悩んでいる間に、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。ヴィックと目が合って頷かれると、釣られて頷いてしまった。
どっちが正解かは分からない。だからまずはできることをやるべきだ。そう自分に言い聞かせてヴィックと合流した。ヴィックが私の前に立って盾を構える。
「大振りな攻撃は避けるけど、それ以外は止めるから。攻撃は任せるね」
「分かった」
一言二言話すと、そのタイミングでミノタウロスが攻撃してくる。小さく当てるだけの攻撃を、ヴィックは盾で受ける。盾で受け流して体勢を崩させた後、私が接近して攻撃するはずだった。
しかしミノタウロスの攻撃を受けた瞬間、
「いっ―――!」
とヴィックが短い苦痛の声を上げる。堪らず後ろに下がる姿を見て、背後で待機していた私も自然と後退する。
後退することは別に構わない。以前組んだ時でも、モンスターの攻撃を上手くいなすために後ろに引いたことがあった。だが、ヴィックの悲鳴を聞くのは初めてだった。
今まで重い攻撃を受けているのを見たが、決して悲鳴は上げなかった。下級モンスターの攻撃とはいえ、人間の何倍もの威力がある。その攻撃を何度受けても、苦しそうな声を聞かせなかった。
以前そのことを聞いたとき「心配かけさせたくないから」と答えられた。私とたいして変わらない体格でありながら、自分よりも大きいモンスターの攻撃を受けて泣き言言わない姿勢に尊敬の念を抱いていた。
そんなヴィックから、痛みに耐える声が出てきたことには驚いた。全力には程遠い攻撃にもこの様子なら、長時間何度も攻撃を受けるのは無理だ。
案の定、ミノタウロスの追撃を受けるごとに大きく後ろに下がっている。
「ヴィック、一旦離脱する!」
「分かった! ごめん」
ヴィックの後ろから離れて、大回りしてミノタウロスに接近する。ヴィックが注意を引きつけていたお蔭か、すんなりと懐に入ることができた。気を引くために足に剣を突き刺すとすぐにその場から離れる。ミノタウロスが気づいて私に攻撃しようとしたときには、既に射程圏外にまで移動済みだ。私に気を取られた一瞬に、ヴィックは大きく後ろに下がって距離を取った。
一応、ヴィックが囮になって、その隙に攻撃をするという、狙い通りの動きが出来た。しかしヴィックの顔色を見て、二度目は出来無さそうだと悟った。腕の痛みを必死に我慢している表情を見て、もう一度やろうと言えるほど非常にはなれない。
対してミノタウロスの状態は変わりない。何度か身体に傷を入れたものの、大したダメージになっていないようだ。やはりもう少し斬り込んで深傷をつけなければならない。
しかしその機会を作れない。今も私とヴィックを交互に見て、どっちを攻撃しようか選ぶほどの余裕がある。そんな風に見えた。
だが何度目かのその仕草を見て、違和感を覚えた。
最初のうちは、突如現れたヴィックの動きを知るために私と見比べていたのかと思っていた。しかし今に至っても一向にその動作を止めないのは少し変だ。私達の位置を確認するためかと思ったが、だとしても何度も交互に見比べるのはやり過ぎにも見える。慎重な性格だと言われれば納得できるが、少なくともこのミノタウロスはそうは見えない。
しかも何度か見比べた後、ミノタウロスは痛みが腕に残っているヴィックではなく、私の方に向かって来る。こういう場合、多くのモンスターは弱った方を先に倒そうとする習性がある。だが目立った怪我をしていない私を狙った。
一つ、確かめたいことができた。ミノタウロスの攻撃を避けた後、私はヴィックの下に向かう。そしてミノタウロスが私達の前まで来ると、また同じように私達を交互に見始める。私はそのときのミノタウロスの表情を観察した。
余裕を持って攻撃する対象を考えている様には見えない。私達の様子を観察している風にも見えない。だが素早く交互に見る動作は、どっちを攻撃しようかと焦りながら選ぼうとしている姿に見えた。
ある仮説が頭に浮かんだ。それを伝えようとヴィックの方を見ると、ヴィックもまた私を見ていた。
「あのね、ヴィック」
「ねぇウィスト」
ヴィックの言葉と見事に被ってしまった。続けて言おうとするが、寸前にミノタウロスの攻撃が襲ってくる。ヴィックと同時に後ろに跳んで距離を稼いだ。ミノタウロスが来る前に考えを口にする。
「もしかしたらなんだけど、あのミノタウロスの弱点が分かったかもしれない」
「奇遇だね、僕もだ。おそらくだけどこいつは」
「頭が悪い」
お互いが至った仮説を同時に発言した。同じタイミングで言おうとしていたのでもしかしてと思ったが、やはり同じ考えだったようだ。
「私達を交互に見比べるのは、どっちを攻撃したらいいのか分からないから」
「焦って攻撃するのは、二人掛かりで攻撃されたらどうすれば良いのか分からないから」
「怪我をしたヴィックじゃなくて私を攻撃したのは、複数人相手の戦い方を知らないから」
「つまりこいつは、力は強いけど戦闘経験が少なく、戦い方の教授もされたことが無いモンスターだ」
答え合わせをするように会話をする。ヴィックの考えていたことは、私の考えていたことと同じだった。ヴィックも私の言葉を聞いて頷いている。
攻め所は判明した。あとは攻め方だ。弱点が分かっても、それを突けなければ意味が無い。
考えている方法はある。しかし、それをヴィックに説明し辛かった。
この方法で攻めれば、ミノタウロスの弱点を攻めることができる。これには私だけではなく、もう一人の力が必要だ。だがこのやり方をヴィックが出来るかと聞かれれば、すぐに肯定できなかった。その遠慮があって、口に出せなかった。
悩んでいるうちに、ヴィックが口を開いた。
「思いついた方法があるんだけど、いいかな?」
ヴィックも何か思いついたようだった。私は躊躇うこと無く頷いた。私が考えた方法だと、ヴィックが深手を負う可能性がある。だから別の方法があるのならば、多少私の危険度が上がろうとも賛成する気だった。
ヴィックの案を聞くために耳を傾ける。しかしヴィックが考えたやり方は、私の考えたものと同じだった。
「本気でやるの?」
「うん」
ヴィックは迷わずに答える。だが私は納得できなかった。
「もしかして、自分が危険な目に遭っても良いって思ってる?」
私が無事ならば、自分はどれだけ怪我をしても良い。ヴィックはそんな事を考えそうな性格だ。本人は良いかもしれないが、他人に慣れないことをさせて危険に晒しておきながら、私だけ安全に戦うのは嫌だった。ましては相方がヴィックなら、余計承諾は出来なかった。
しかしヴィックは動揺することなく、変わらぬ調子で答える。
「いや、この方法が一番良いと思ったからやるんだよ。攻撃が得意なウィストの力を存分に発揮できるからね」
「けどヴィックは、そのやり方で戦ったこと無いんでしょ?」
「うん、無い。けど大丈夫。ほとんどの攻撃はウィストに任せるから。それに」
ヴィックは不敵にも笑いながら答えた。
「さっき、これ以上に無い程のお手本を見たから」
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