第5章

第1話

「起きてください」


 優しい声が鼓膜に届いた。瞼を開けると目の前には固い地面と何者かの足が見えた。視線を上げると、太股、腰、胸の順に目に映り、最後に声を掛けた人の顔が目に映る。ダンジョン管理人であるヒランさんが、しゃがんで僕を見ている。


「ヒランさん?」

「意識は大丈夫そうですね」


 頷くと同時に身体を動かそうとするが、思うように身体が動かない。自分の身体に目を向けると、身体がロープで縛られたまま地面に横たわっていることに気づいた。手足に力を入れるがびくともしない。


「待ってください。すぐに解放します」


 ヒランさんは一旦立ち上がり、腰に手を伸ばす。腰の左側には刀が添えられている。

 その刀を握った直後に風が吹いた。

 風は一瞬だけ起こったがすぐに止んだ。不可思議な現象に少し戸惑ったが、直後に身体を縛っていた縄が解ける。突然縄が解けたことに首を傾げたが、地面に落ちた縄を見て答えが浮かんだ。


「……斬ったんですか?」


 縄の両端が一組ではなく、何組も出来ている。しかも縄の切り口が、鋭利なもので斬られたかのように綺麗な断面になっていた。もしやと思って聞くと、ヒランは表情を変えずに頷いた。


「はい。その方が早いので」


 縄の太さは人差し指と同じくらいだ。それほど細い縄を、僕に傷をつけずに縄だけを斬る技量に身震いした。初めてダンジョンに入ったときに披露された腕前を見て強いとは思っていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった。


「身体に痛みはありますか?」

「えっと、大丈夫です」


 少し後頭部が痛かったが言うほどでもない。身体を起こして周りを見渡すと、見覚えのない場所に居ることが分かった。地面にはヒランが持って来ただろうランプが置かれているが、ランプの光が空間を照らし切れないほどの広さだった。何とか見えたのは、背後にある壁と少し離れた場所の地面に置かれている文字が刻まれた石版だけだ。

 一体僕はどこにいるのか。不安になってヒランさんに聞く。


「あの、ここってどこですか?」

「マイルス下級ダンジョン十階層の最深部です」

「……最深部?」


 思いもしなかった答えに、つい聞き返してしまった。「はい」とヒランさんは答える。


「マイルス下級ダンジョンの調査のためにここに来ました。本来は明日の予定でしたが、一日経ってもあなたが帰還しないことを心配したフィネとウィストから、あなたの探索を頼みこまれました。だから調査の予定を一日早めて、調査のついでに貴方を探すことにしました。

 しかしまさかこんな奥地で、しかも縛られているとは思いもしませんでした」


 表情を変えないまま、淡々と状況を説明してくれた。まさかずっと気を失っていたとは……。


「心配かけさせてすみません」

「心配はしてません。他の冒険者同様に、死んでいると思っていましたので」

「容赦ない言葉ですね」


 だがそうなっていてもおかしくないことだ。

 ダンジョンで一夜を過ごす準備もしていなかった冒険者が、翌日になっても消息不明と聞けば、経験のある冒険者なら誰だって死んでいると思う。上級冒険者だったヒランさんならそう考えるのも当然だ。


「お礼は二人に言ってください。あの子達が言わなければ、私はここには来ませんでした」

「そう、だったんですね」


 フィネさんの心配している表情が頭に浮かび、心が苦しめられた。

 彼女の笑顔を取り戻せたと思ったら、自分の失態で彼女の顔を曇らせてしまった。フィネさんの笑顔が好きなのに、どれだけ迷惑をかけてしまうんだ。

 なんて情けない男だ。

 自分の不甲斐なさに自己嫌悪していると、


「落ち込まないでください。今はそんな暇はありません。一刻も早く、ここから出る必要があります」


 ヒランさんが急かすような言葉を口にした。焦っている様子が見て取れる。


「……そんなに危険な状況なんですか?」


 ヒランさんの言葉を聞いて緊張が走る。助けられた僕が言うのもなんだが、元上級冒険者でマイルスダンジョンを知り尽くしているヒランさんがいれば安全だと思っている。

 だがその表情には余裕の「よ」の字も浮かんでない。少し嫌な予感を感じた。


「油断しなければモンスターは大丈夫です。問題はこの状況を引き起こした者についてです」


 僕の手を取って立たせながら、ヒランさんは説明を続ける。


「八階層以下の様子とあなたの状態を見て確信しました。あなたの状況を含めて、これまでの騒動は撒き餌です。そして私は、まんまとおびき寄せられました。あまり長居するべきではありません」


 途端に気を失う前の光景を思い出す。

 八階層では多くのモンスターと冒険者の死体があった。あまりの凄惨さに尻込みする程の光景だった。それをヒランさんも確認しているようだ。あの光景は、やはり異常なものだったらしい。

 早く去ろうとする理由に納得し、いざダンジョンを出ようとした時だった。


「御名答です」


 ぱちぱちと手を叩く音が空間に鳴り響いた。音が鳴る方を見ると、忘れたくても忘れられない人物がそこにいた。

 フェイルが薄ら笑いをしながら、拍手をしていた。


「さすがダンジョン管理人で、英雄の友人ですね。なかなかの推理力と、間抜けさです」


 フェイルが皮肉交じりな言葉を投げかけた。そのときの表情は見ていて不愉快だった。

 一方のヒランさんも眉間にしわを寄せて、鋭い目つきでフェイルを見ている。まるで嫌なものを見るような目だ。


「……久しぶりですね、フェイル」


 見るだけで人を殺せそうな眼力だった。気迫に驚いて僕の身体は硬直してしまうが、フェイルの表情は変わらない。


「えぇ、お久しぶりです。相変わらずの恐い顔ですね。せっかく美人なのに、そんな色気のない顔をしてるからモテないんですよ」


 フェイルは煽り言葉を交えながら話す。明らかな挑発だが、ヒランさんは平静を保てているだろうか?

 ちらりと表情を覗くが、相変わらず険しい顔をしている。


「あなたも相変わらず、へらへらとした顔をしていますね。そんな顔をしながら、今度は一体何を企んでるんですか?」

「企む? くくっ、やはり間抜けですねぇ」


 楽しそうにフェイルはくすくすと笑う。その表情を見て嫌な予感がする。まるでフェイルの掌の上で、事が動いていたような感覚に陥った。


 笑い声を止めたフェイルは、喜々とした表情で言った。


「もう企みは終わってますよ」

「どういうことですか?」


 ヒランさんの口から疑問の声が出る。不愉快そうな顔をするヒランさんに対して、フェイルは愉快に笑みを浮かべる。


「えぇ。あなたをギルドから遠ざけた時点で、作戦は実行されてます。馬車が出発してから既に二時間経ってます。今頃、依頼を受けた冒険者は襲われているでしょう」

「依頼って、もしかして……」


 動揺した表情をヒランさんが見せた。フェイルはニヤリと笑う。


「今日から隣街に向かう馬車の護衛依頼ですよ。その馬車に乗った人達と護衛依頼を受けた冒険者達がターゲットです」


 耳を疑いたくなる言葉が聞こえた。今日の隣街へ向かう馬車の護衛依頼。それはウィストさんが受けたものだ。しかもウィストさんだけではなく、多くの冒険者も受けているはずだ。


「襲われているって、どういうことですか?!」


 思わず声を荒げてフェイルに問い質す。フェイルは視線を僕に移した。


「聞きたいかな、ヴィック君?」


 フェイルは僕の嫌いな眼を向けている。その眼は僕が初めてフェイルに会った時と同じ眼だ。

 最初はその目から、僕の事を心から心配した慈愛を感じたが、改めて見るとそうは思えない。むしろ蔑みの感情が伝わってくる。


 フェイルが今、意地悪くその眼を見せていることが分かっていても、腹立たしい気持ちが湧いてくる。


「今回の作戦は、僕だけじゃなくゲノアスと一緒に立てたものなんだよ。ヴィック君は知らないから説明するけどゲノアスっていう野郎はね、冒険者ギルドで騒動を起こしたり、たいしたことない癖に偉ぶっていたり、冒険者だけじゃなく一般人にも恐喝や暴力を振るったりしていた、クソ冒険者のことだよ」


 見たことも聞いたことも無い冒険者の陰口を聞かされる。その人物の事をよく知らないが、フェイルの話だけを聞けばかなり嫌な冒険者だ。


「ゲノアスのせいで冒険者のイメージはかなり悪くなっていた。だというのに、冒険者ギルドが何でゲノアスに何もしないのかというと、当時の冒険者ギルドの局長がゲノアスの親でね、彼がゲノアスを庇ってたんだよ。だからゲノアスは調子に乗っていたってわけ。ゲノアスの腕っぷしが強いことも加えて、恐がって誰も文句を言える人がいなかったんだ。

 だけどそれは、ヒランがダンジョン管理人なるまでの話だ。以前はコネを使ってゲノアスがダンジョン管理人になると思われていて、本人もその気だった。けれどゲノアスの親が失態して局長を辞めさせられると、ゲノアスは後ろ盾を失った。さらにヒランがダンジョン管理人になると、ゲノアスを冒険者ギルドから追放した。数え切れないほどの罪を犯していたから、簡単にできたんだよね?」


 同意を求める言葉をヒランさんに投げかけるが、当の本人は黙ったままだ。返答を諦めたフェイルは話を続ける。


「追放された恨みを持つゲノアスと、残った数少ない手下を使って今回の計画を実行した。まずはゲノアスの手下を使って、冒険者の情報を集めた。その中で現状に不満があり、かつ一人で行動する冒険者を狙った。彼らを使って何をしたかは……分かるよね?」


 頭の中にツリック上級ダンジョンに連れられた記憶が甦る。あのとき僕は知らず知らずのうちに犯罪に加担しそうになり、そのうえ死にかけた。僕以外にもあんな目に遭った人がいたのかと思うとフェイルへの憎しみが増した。


「彼らを狙ったのは、冒険者ギルドのお偉いさんにギルドのサポートの甘さを伝えるためだ。これでギルド職員、特にダンジョン管理人のヒランにプレッシャーがかかる。

 するとこんなことをしでかした僕を捕まえようとするはずだと予想した。捕まえられるとは思わなかったけど、僕が動きにくくなるのは明らかだった。だから捜索が始まるまでに、すでに違う手を打ったんだ。それがマイルスダンジョンの生態系を狂わせることだ。

 生態系を狂わせることで、冒険者から不満の声が上がる。その声を聞いた冒険者ギルドは、管理がなっていないとさらにヒランに圧力をかける。真面目なヒランは圧力を受けて焦ったはずだ。

 するとそれ以外に目が行かなくなって視野が狭くなる。そのときを狙って、あの護衛依頼を出した。

 ああいう大型の依頼は、いつもなら君が入念な調査をしてから募集を掛けるはずだ。しかし今回はすんなりと通った。じっくりと調べればおかしな点があったというのに、ねぇ」


 嫌味な話し方に苛立ちを覚える。だが僕以上にムカついているはずのヒランさんは、フェイルの話にじっと耳を傾けている。今にも殴りたかったが、怒りをぐっと我慢した。


「後は依頼の日に合わせて、君をギルドから離すだけだ。そのために君を利用させてもらったよ、ヴィック君」

「……昨日の騒動の事ですね」

「その通り。君はフィネというギルド職員と仲が良かったからね。丁度良い餌だったよ。フィネを糾弾すれば君が庇うと思ってね。それを狙って、マイルスダンジョンの七階層に行かせるようにした。そこで君を捕えて人質にすればヒランが来ると思ったんだよ。ヒランは身内には甘いからね。同じギルド職員のフィネから必死に頼まれたら、多少無理をして頼みを受けてくれると思ったんだよ。

 なにもかも、君があの子と友達だったお蔭だ。ありがとう」


 フェイルが僕に礼を言う。これほど嬉しくない礼を言われたのは初めてだ。しかも僕だけではなくフィネさんも利用されてしまったことに腹が立った。


「ヒランがギルドから離れ、馬車が出発して街から十分離れたところを見計らってモンスターに襲わせるのが計画だ。これで馬車四台に乗った一般人と冒険者達が全滅する事態になれば、君の信用は失墜し、ダンジョン管理人から降ろされる結果になるだろう。いやぁ、愉快な限りだ」

「モンスターに襲わせると言いましたけど、そんな都合よくモンスターが馬車を襲うとは思えませんが?」

「動くさ。僕が直々に調教したモンスターだからね。今回はゲノアスに動かせるけど、僕以外の人間からの命令でも聞くようにしてあるさ。上級ダンジョンのモンスターでもね」

「上級っ?!」


 僕の驚く声にフェイルは「あぁ、そうだよ」と当たり前のように答える。


「冒険者を確実に仕留めるのならそれくらいのモンスターを用意するさ。依頼を受けた冒険者のほとんどは下級冒険者だからね。成す術も無く全滅される姿が目に浮かぶよ。いやぁ、愉快愉快」


 最後の言葉を聞いて頭に血が上った。必死に感情を抑えて話を聞いていたが、我慢の限界だった。人が死ぬような事態を引き起こしたというのに、いっさい悪びれない態度を目の当たりにして耐えられるわけがない。

 フェイルに向かって足を踏み出す。あのへらへらした顔をぶん殴りたかった。


 しかし間髪入れずに、肩を掴んで止められる。見なくてもヒランさんが止めているということは分かった。


「止めないでください。せめて一発だけでも」

「無駄です。あなたがいくら必死になっても、フェイルに攻撃を当てることはできません」

「だけど!」


 怒りが納まらなかった。ヒランさんの言う通り、上級ダンジョンに慣れたフェイルに僕の拳は届かないかもしれない。

 だが分かっていても、握った拳を緩める気にはなれなかった。


 いくらウィストさんでも、上級ダンジョンのモンスターが相手ではタダで済むとは思えない。他にも依頼を受けた冒険者がいるが、フェイルはそれを見越してモンスターを用意している。それを知って、無事に生還しているイメージが全く浮かばなかった。

 だからせめて、その痛みを思い知らせるためにフェイルの顔をぶん殴りたかった。


 だがヒランさんは肩に手を掛ける力を一切抜かない。いくら前に出ようとしても、ヒランさんは頑なに僕を行かせない。


 するとヒランさんは両手を使って僕を近くに引き寄せると、僕の耳に顔を寄せた。


「あなたに、お願いがあります」


 囁くように、ヒランさんが小声で喋る。こんな時に一体何なんだ?


「今の話の内容を、すぐに冒険者達に伝えてください」

「……何言ってんですか?」


 思いがけない言葉に、苛立ちを隠せなかった。遠ざけようと振り向いて手を突き出したが、避けられて逆に手を掴まれる。また手を引かれ、顔を近づけられた。


「今ならまだ間に合います」

「間に合うって……何がですか?」


 はっきりしない言葉に、反射的に聞き返す。聞きながら隙を探して、手を振り解こうと考えた。


「冒険者達は、まだ無事です」


 ふっと身体の力みが抜けた。ヒランさんの眼は、真っ直ぐと僕の眼を見つめていた。


「彼らはまだ街を出ていません。今から向かえば助かります」


 思いがけない言葉だった。


「ほんとうっ……ですか」


 大声で聞き直そうとしたが、途中で唇に人差し指を添えられたので、小声で聞き直す。フェイルに会話を聞かれたくないのだろう。


「はい。ここに来る前、北門で依頼を出した方々が居たので様子を伺ったのですが、馬車が壊れて代わりのものを用意するため、出発時間が遅れるということです。そのことをフェイルは知りません」

「知ったうえで、あんなことを言った可能性は?」

「もう一つ理由があります。今朝、護衛する馬車の数が四台から五台に変更されました。しかしフェイルは四台と言いました。知っていたのなら、五台と言うはずです」


 フェイルの言葉を思い出すと、たしかに四台と言っていた気がする。つまりフェイルは、予定が変更されたことを知らない。

 怒りが収まり、身体に力が湧いて来た。今ならウィストさんを助けられる。ならば一刻も早く向かう必要がある。

 ただ、一つだけ懸念があった。


「けど、僕の足で間に合うのですか?」


 各階層の最短ルートを全力で走っても、次の階層に着くのに二十分ぐらい掛かる。十階層あるので約二百分だ。途中で遭遇するかもしれないモンスターの事を考えると、それ以上時間がかかる。それだけ時間がかかってしまうと、間に合うかが不安だった。

 しかしヒランは「大丈夫です」と囁く。


「ダンジョン管理人しか知らない隠し通路を教えます。少し険しい道ですが、そこを使えば一時間程度で出られます」

「そんな道があるんですか?」

「はい。私の後ろにある石版を見てください」


 視線をヒランさんの後ろにある石版に移す。文字が書かれている以外は、何の変哲もない石版だ。


「石版の下に穴があります。石版をどけてそこを通ってください。明かりも無い道なので、そのランプを持って行ってください」

「……分かりました」

「各階層に繋がっています。あなたの荷物は八階層の入り口にありますので、途中で拾って行ってください」

「はい」

「合図をしたら行ってください。隠し通路をフェイルに見られない様に、私はフェイルと戦闘します。その隙に行ってください」

「……はい」

「最後に」


 ヒランさんは僕から少し離れると、笑顔を向けた。初めてダンジョンで見せた無邪気な笑顔ではなく、優しく見守る様な笑顔だった。

 思わず息を呑んで、その笑顔に見とれてしまった。


「こんなことを頼むのは、ここにあなたしかいないからじゃありません。騙されて酷い目に遭ったというのに、めげずに冒険者として生き続けた、あなただからです」


 ヒランさんの言葉が、強烈に胸に響いた。

 上級ダンジョンに入ってしまって以降、ヒランさんからは見放されたと思っていた。ギルドのルールを破ったんだから、失望されても仕方がないと納得していた。

 だけど、それは違った。ヒランさんは僕を見てくれていた。冒険者であり続けた僕を評価してくれた。

 それがとても、嬉しかった。


「では、任せますよ?」

「はい。任せてください」


 僕は意気込んで返事をすると、ヒランさんが合図を出す。

 「行きます」という言葉と同時に、僕は石版に、ヒランさんはフェイルに向かって走って行く。走り出した瞬間に、僕は地面に置かれていたランプを取った。


 石版のある場所に着くと、金属がぶつかり合う高い音が聞こえる。おそらく二人が戦っており、その際の剣戟の音だ。ヒランさんの刀についていくフェイルの腕前が気になったが、それよりも自分に任せられた事を優先した。

 石版を横にずらすと穴が現れる。入口は人が一人通れる程度の大きさだが、ランプの明かりで道を照らすと、その先は三人横に並んでも歩けるほどの広さだと分かった。


 地面は凹凸が激しく、明かりがランプしかないため視界が悪い危険な道だ。足元を見ずに歩けばすぐに転んでしまいそうな程に。ランプを持たずに進もうとしていたらどんな目に遭っていたか想像するのは簡単だった。


 走ることを躊躇いそうになったが、不安な気持ちはすぐに払いのけた。ウィストさん達の命が懸かっているのに、そんな事を気にしている場合じゃない。

 意を決して、僕は走り出した。

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