第4章

第1話

 四階層目を歩き回り、やっと都合のいい場所を見つけた。たくさんの鉱石を集めてる依頼を受けていたため、リュックの中はパンパンだった。二十kg以上の鉱石が入ったリュックを担いで歩くのは、慣れているとはいえきつかった。


 担いでいたリュックを下ろして、早速準備に取り掛かる。用意していた罠をリュックから取り出して道に真ん中に設置し、罠の上に砂利を撒いて罠を隠す。

 罠はララックさんが働いているアルチから買ったものだ。ギザギザの刃が対面に二枚付いているもので、刃と刃の間にある金具を押すと、金具を押したものを刃で挟むように動く仕組みだ。

 しかし刃がモンスターの歯に似ているため、刃に気付いたモンスターは警戒して寄って来なくなるという欠点がある。だから刃を隠せられるものがある場所を探して歩きまわっていた。


 重い荷物を持ったまま三十分以上歩き回ることで、最適な場所を見つけた。そこは砂利道になっているうえに、明かりの無い薄暗い場所。絶好の罠ポイントだ。

 罠を上手く隠せたところで、次は餌を置く場所を決めなければならない。だが餌を置く場所はすでに考えていた。


 人差し指と親指を開いて、罠から餌までの距離を測る。一回、二回、三回と、手の位置をずらしながら距離を計測する。六回までずらすと、その場所に目印として剣を置いた。

 標的のモンスターの鼻先から後ろ足までの距離分は、事前に頭の中に叩き込んでいる。その場所に餌を置くことで、罠が発動した時にはモンスターの後ろ足を捕まえるはずだ。

 剣を回収すると同時に持参した餌を置く。この餌もアルチで買った物だ。特定のモンスターが好む匂いを放つので、目的外のモンスターが匂いに釣られることは少ない。

 罠と餌を設置したところで、荷物を纏めて少し離れる。丁度良い岩があったので、岩陰に隠れて罠の監視を始めた。


 今回請け負った依頼は二つ。一つは鉱石集め、もう一つはフォラックというモンスターの確保だ。

 フォラックは四足歩行の臆病なモンスターだ。身体は他の四階層のモンスターに比べると小さいが、俊敏性と嗅覚がするどいという特徴を持っている。また集団になると、自分達より二回りも大きなモンスターを狩れるほどの狩猟能力を持つ。

 臆病で逃げ足が速い。そのうえ捕まえようにも集団でいることが多いため、下手したら逆に狩られてしまう危険がある。だからフォラックの素材が市場に出回ることは少ない。フォラックの毛皮を気に入る愛好家が多いため、常に需要はある人気モンスターだ。


 フォラックを狩るためには、今みたいなやり方が一番安全だった。餌で釣って、罠で捕まえて、毛皮を汚さない様に一撃で仕留める。これがフォラックを捕まえる定石と言っても良い。僕もこれを踏襲することにした。

 心配なのは、餌に釣られて他のモンスターがやって来ることだった。フォラック以外のモンスターが釣られたら、そのモンスターを倒す必要がある。しかし倒した際に血の匂いが広まり、フォラックが匂いに警戒して近寄って来なくなってしまう。

 そうなってしまえば、また一から罠の設置場所を探さなくてはならない。考えるだけで気が滅入ってしまいそうだった。しかし、今となってはフォラックが早目に罠にかかってくれることを祈るだけだった。


 食事をとりながら待つこと二十分、モンスターの足音が聞こえてきた。食べかけの補給食をリュックに入れ、代わりに剣を握りしめる。

 警戒しているのかゆっくりとした足音だった。だがそのお蔭で、向かって来るモンスターの数は一匹だと分かった。二匹いればもう少し騒々しいはずだ。


 岩陰からこっそりと覗き見る。うっすらとだがモンスターの輪郭が暗闇から浮かび上がってくる。その形は目的のモンスター、フォラックのものだった。

 自然と剣を握る手に力が入る。正直言って、かなり運が良い。フォラックの主な生息階層は五階層目だ。最近は四階層目でも見られるが、数は圧倒的に五階層目の方が多い。僕はまだ五階層目に留まれる力が無いから、四階層目で罠を張った。発見数が少ないので長時間待機することを想定していたが、一発目で来るとは良い意味で予想外だった。

 興奮して少し息が乱れてしまう。気づかれない様に手で口を覆った。


 フォラックが餌に近づくにつれ、胸の鼓動が激しくなる。間近まで近づくと、餌の匂いを嗅ぎ始めた。

 餌自体は毒物は入っていない安全なものだ。餌には僕の匂いが付かない様に袋に包んでいたうえに、取り出したときには清潔な手袋を使った。故にその餌は、フォラックにとっては安全な食料だと思わせることができる。警戒深く餌の周りを歩き回りながら匂いを嗅いでいるが、それこそがこっちの狙いだった。

 餌の周辺を歩き回ったことで、フォラックの後ろ足が罠の設置場所を踏んでしまう。同時に、罠が作動した。

 フォラックが悲鳴を上げると同時に、僕は岩陰から飛び出して近づく。長時間鳴かれると、声を聞いたフォラックの仲間が助けに来る恐れがある。だから早く仕留めなければならない。

 動けなくなったフォラックの身体を地面に抑えつける。左手で顔を抑え続け、右手で剣を持って喉を切り裂いた。一瞬身体をピンと伸ばすが、すぐに身体から力が抜けたようにぐったりとする。


 一安心し、僕の身体からも力が抜ける。しかし四階層目に長居するわけにはいかないため、すぐに撤収する準備を始める。罠を片付け、準備した布でフォラックの毛を汚さない様に身体を包み込んだ。

 用心のためモンスターの奇襲に備えて周辺の音を聞き取って作業をしていると、ドタバタとした足音が遠くから聞こえてくる。同じ冒険者がモンスターを狩っているのかと思い、無視して作業に没頭していたが、徐々にその足音が近づいて来る。しかも冒険者の足音だけではない。軽くテンポの速い別の足音も聞こえてくる。

 モンスターと冒険者が走っている足音だというのは明らかだった。問題は、どっちが逃げているかだ。


 逃げたモンスターを冒険者が追っているのなら適当にやり過ごすが、逆なら僕も逃げる必要がある。四階層で活動する冒険者が逃げ出すほどの事態を、四階層に来たばかりの僕が対処出来る訳が無い。

 緊張で次第に身体が強張るが、両方の事態に備えて右手で武器をしっかりと握りしめ、左手で布で包んだフォラックを脇に抱える。


 直後に向かって来る者の姿が見えた。奇遇にも、その姿はついさっき見たものだった。

 一匹のフォラックが走りながら向かって来ていた。何かから必死に逃げるように走っている。

 その必死さにビビり、つい道の端に避けてしまう。だがフォラックは僕の思惑を知らずに、避けたはずの僕の方に向かって来る。同時に牙を剥いて跳びかかってきた。


「んなぁ?!」


 つい声を上げながら、握っていた剣を振るってしまう。驚いた拍子で振るった剣先は、偶然にもフォラックの顔を切り裂いた。走ってきた勢いのままフォラックは僕の身体にぶつかり、同時に血が僕の身体にべっとりと付いてしまう。


「……うわぁ、ひどい」


 元々薄汚れていた服が、血でさらに汚くなった。このまま街に帰れば、人々から白い目で見られることは避けられない。街に戻る前に川で洗濯をしよう。

 帰る算段を立てていると、フォラックが来た方向から足音が聞こえてくる。おそらくフォラックを追っていた者だろう。その方を見ると、顔見知りの姿があった。


「あれ、なんであんたがここにいるの?」


 フォラックを追っていたのは、四人組冒険者の女性だった。珍しく一人だけの様だった。

 彼女は怪訝な表情で僕を見るが、僕の身体から足元にいるフォラックに視線を移すと、途端に表情を曇らせた。


「あぁ、あんたが倒しちゃったのかー……」


 予想通り、フォラックを追っていたのは彼女のようだった。彼女の獲物を狩ってしまい、罪悪感が湧いて来る。


「えっと、いる? 僕はもう一匹狩ってるから」


 依頼された分は一匹いれば十分だった。それにこのフォラックは彼女が追い立ててくれたお蔭で狩れたので、彼女にも得る権利もある。だから譲ることには躊躇いは無かった。

 だが彼女は首を横に振った。


「別にいいわよ。偶然見つけたから狩ろうと思った程度だから。それに、あんたに譲ってもらうほど落ちぶれてないわ」


 予想外の辛辣な言葉に少し傷つく。確かに彼女達ならいつでも狩れるだろうが……。


「じゃあ、僕が持って行くね」

「はいはい」


 だが貰えるものは貰っておくつもりだ。プライドを優先して頂ける物を放って置くほど、僕には余裕が無い。念のために持ってきていた予備の布を取り出して包み始める。


「ねぇ、あの噂ってホントなの?」


 包み終わると、待っていた彼女が声を掛けてきた。


「噂って?」

「あんたがハイエナって呼ばれてる事よ。最近ギルド内で噂になってるのよ。実際のところどうなの?」


 そういえば、最近冒険者ギルドに行くと冒険者達が奇異なものを見るような目で僕を見ていることを思い出した。

 ハイエナの意味は知っているうえ、心当たりはある。しかしあれは、咎められるような事ではないはずだ。

 自分の行為を思い返していると、僕の言葉を待ち切れずに彼女が喋りだす。


「あー、やっぱりいいわ。さっきの質問は忘れて」


 バツが悪くなったのか、背を向けて去ろうとする。直後に、「けど」と口に出す。


「紛らわしい行為は止めてよね。あいつがあんたと仲良いから、同類に見られるのは嫌なのよ」


 最後まで自分の言いたいことだけを言って立ち去って行った。あいつとは、おそらく以前一緒に酒を飲んだ彼の事だろう。

 別に反論とかは無いのだが、こうも言われ続けるとあまり気分は良くなかった。


 だがこういう事は慣れっこだ。サリオ村に居たときは謂れのない罪を責められ続けていた。

 それに比べればまだマシだ。



 *



 依頼で集めた鉱石を渡すために冒険者ギルドに戻ると、すぐに受付に直行した。受付にはヒランさんがいる。何やら事務作業をしているようだ。

 ずっと手元を見ていたが、僕が前に立つとごく自然な動作で顔を上げる。まるで最初から来ることを予想していたかのような自然さだ。

 僕は鉱石の入ったリュックを受付台に載せる。


「依頼で集めてきたものです。確認お願いします」

「畏まりました。少々お待ちください」


 事務的な言葉で対応される。

 すぐに確認は終わるだろうが、それでも待っている間は手持無沙汰だった。今のうちに他の用事も済ませておこう。


 周りを見渡すと、フィネさんが食堂のテーブルを拭いていたのが見えた。


「フィネさん、ちょっと良いですか?」

「はい!」


 近づいて声を掛けると、いつも通りの元気な声で返事をされる。毎度のことだが、フィネの声を聞くと元気が出る気がする。


「あ、ヴィックさんだったんですね。お疲れさまです!」


 僕に気づくと、より一層嬉しそうに喋る。この表情に何度心が癒されたか。


「預けてた毛布なんだけど、今大丈夫なら持って来れますか?」


 冒険者はダンジョンや依頼に行く前に、ギルドに荷物を預けられることができる。

 昔、普段持ち運びする道具が依頼に不必要だったり、ダンジョンに入る前に仲間との打ち合わせで不必要になった武器を持って行くのは面倒だという声があった。その悩みに対応するために、ギルドで一時的に荷物を預かるサービスを始めたらしい。

 少量の荷物なら冒険者活動に関係無い物でも預かってくれるので、ここ二ヶ月はララックに貰った毛布を毎回預けていた。


「はい! 少し待ってくださいね」


 フィネさんは慌てた様子で荷物を取りに行った。フィネさんが離れると、周りの冒険者の話し声が耳に入った。


「なぁ、あれがハイエナか?」

「らしいぜ」

「きったねぇ服だな。替えの服すら持ってねぇのか」

「あーあ、いやねぇ。あんな風にはなりたくないわぁ」


 耳障りがする嫌な声だった。好き勝手言っているが、反論する気はない。サリオ村に居たときと同じだ。こういうときは相手にするだけ無駄だ。気分は悪いが、放って置くしかない。


 間もなくしてフィネさんが毛布を持ってくる。フィネさんが戻ると、冒険者達は別の話題を話し始める。

 内心ほっとしていた。さすがにフィネさんがいる前でそういう話をされたらいたたまれなくなる。

 毛布を受け取ると同時にヒランさんに呼ばれた。荷物の確認が終わったのだろう。

 「ありがとう」とフィネさんに礼を言ってヒランさんの元にに駆け寄る。既に依頼の報酬金を用意していた。


「鉱石集めの依頼完了を確認しました。こちらが報酬金なので確認してください」


 出された報酬金は、提示されていた金額と同じだった。問題が無いことを伝えて報酬金を懐に入れる。


「それから、依頼とは関係ない話ですが……」


 渡していたリュックを返して貰うと同時に、ヒランさんが話を切り出した。


「何ですか?」

「今日はモンスターを倒さなかったのですか?」


 どきりとして、一瞬だけ視線を自分の身体に向ける。さっと見たところ、目立つところにモンスターの血は付いていない。匂いが残っていたのだろうか。


「えっと……倒したんですけど、鉱石が重かったんで持って帰るのは諦めたんですよ。いやー、残念ですよ」

「……そうですか」


 適当な言葉を口にして誤魔化そうとしたが、ヒランさんの瞳は嘘を見通しているような気がした。居辛くなったので、荷物を持ってすぐにギルドから出ることにする。

 外に出ると胸を撫で下ろしたが、まだやることは残っている。北の城門に向かおうと思い、歩を進め始める。


「待て、ハイエナ」


 不意に背後から声を掛けられた。振り返ると、見覚えのある人物達が居た。食堂で毎日騒いでいる、ガラの悪い冒険者達だ。


「ちょっと面貸せや」


 三人いる内、一番小柄な男に呼ばれる。彼らのにやにやと笑っている様子を見て、この後の展開が予想できた。

 ここで渋っても事態は進展しないのんで、大人しくついて行くことにした。


 三人に連れられて、冒険者ギルドから離れる。三人は僕が逃げない様に、囲みながら移動している。先頭に小柄な男、後方に太めの男と髭の濃い男が並んで歩く。

 冒険者ギルドから歩いて三分、薄暗い路地裏に着いた。奥に入っていくと、髭の男が「さて」と話し出す。


「金を出せ。依頼の報酬金、貰ってんだろ?」


 意外性の全くない、予想通りの言葉だった。

 この連中の事は噂で聞いていた。普通の、所謂真っ当な活動をしている冒険者には手を出さず、立場の弱い者だけを狙う奴等だと。


 立場の弱い冒険者は、襲われても同情する者が少なく、ギルド職員も対応がおざなりになる。それを知ったうえで、この三人は今みたいな恐喝を行っている。

 今回の標的は僕のようだ。今の僕は、ハイエナ冒険者と呼ばれている立場の弱い存在だ。三人に狙われても可笑しくは無い。


「さっさと出しな。痛い目にあいたくないだろ?」

「ぐふふ、そうそう。武器は見逃してやんだから、早くするんだな」


 薄気味悪い顔で笑いながら、髭と太めの男が脅す。

 こんな厄介事は、たしかにさっさと終わらした方が良い。金を払えば見逃すというのなら、気が変わらないうちにそうした方が良い。この後も用事があるのだから、無駄に時間を浪費すべきではない。

 だが、頭では分かっていても、この三人が気に食わなかった。


「おいこら」


 待ちきれなくなったのか、小柄な男がイラついたように言う。


「早く金を出せ。こっちも暇じゃな―――」


 言い切る前に、小柄な男の顔を殴った。全く予想していなかったのか、受け身も取れずに吹っ飛んだ。


「てめぇ!」


 髭の男が激昂する。振り向きざまに髭の男も殴ろうと思ったが、おそらく防御されるはずだ。だから拳ではなく、脚を使う。

 振り向くと同時に、その勢いで右脚を振り抜く。右脚は髭男の左脚の膝に当たった。蹴る直前に、髭男は腕を上げて防御の姿勢を取っているのが見えたが、下半身はがら空きだった。

 髭男は呻き声を上げて膝を着く。直後に、太めの男が殴りかかってきた。蹴った動作の後なので、さすがに避けることはできそうにない。

 殴られる直前、両足で踏ん張って腕を顔の高さまで上げる。太めの男の拳を受け止めるが、予想以上に重い拳だった。たまらず後ろに退いてしまう。

 太めの男が前に出る。タイマンでの殴り合いは僕が不利だ。

 だから僕は剣を抜いた。

 剣を持った僕を前にし、太めの男は立ち止まる。


「お、お前、剣を使うなんて卑怯だぞ!」


 焦った様子で、太めの男はおののいた。


「うるさい」


 短い言葉で返し、剣先を太めの男に向けた。


「三人で襲っておいて、何を言ってるんですか? こっちは毎日生きるのに必死なんです」


 ここで金を渡せば、味を占めた三人はまた僕を脅してくる。そうなれば、それこそ時間の無駄だ。だからここではっきりと拒絶すべきだ。

 必死に集めたお金を渡すことは絶対にしたくなかった。


「僕の邪魔を、しないでください」


 目に力を入れて、太めの男をじっと睨んだ。太めの男は一歩下がると、髭の男を立たせて一緒に逃げ始める。彼らが去ると、後ろにいる小柄な男の様子を見る。さっきと同じように地面に横たわったままだった。


 長居はしたくなかったので、すぐに路地裏から出た。大通りに出たがまだ安心できない。足を止めずにその場から離れる。

 連れ込まれた路地裏が見えなくなるまで離れて、やっと一安心した。今頃、殴った手から痛みが伝わってくる。殴られたり、モンスターを武器で攻撃することはあったが、素手で人を殴るのは初めてだった。


 昔、僕を殴っていた従兄と従兄の友人達は、楽しそうに僕を殴ったり蹴ったりしていた。初めて人を殴った今でも、彼らが楽しそうに僕を嬲る気持ちは理解できなかった。


「……知らなくてもいっか」


 僕は冒険者だ。相手にするのはモンスターで、人と戦うことではない。だから他人を殴る喜びなど理解できなくても問題無い。


 村にいたときの記憶を頭から追い出し、本来の目的を思い出して歩き始めた。

 不幸中の幸いで、連れられた場所は北の城門に近かった。城門に着くと街の外に出て、近くにある施設に向かう。

 そこは運んできたモンスターを一時的に預かる、冒険者や傭兵の御用達の施設、預かり所だった。

 預かり所の受付をしている人に声を掛けた。


「あのー、さっきフォラックを預けたヴィックですけど」

「引き取りかい?」

「そうです」


 事務的な手続きをしてモンスターを返して貰った。

 布に包まれたフォラック二匹。依頼で集めた鉱石をギルドに提出したので、今なら楽に二匹を持てる余裕があった。二匹を抱えて、次の目的地に歩き出す。


「あら、二匹も捕まえたの? すごいじゃない」


 突然、聞き覚えのある声に呼びかけられた。声の方を向くと、ララックさんが平然とした態度でそこにいた。


「ララックさん、流石に街の外に出るのはまずいですよ!」


 街の近くとはいえ、街の外はモンスターが生息している場所だ。武器を持たない一般人が護衛もなしに出るのは危険だった。というより、それを止めるための守衛だというのに何をしているのだ。


「大丈夫よ。外で護衛が待ってると言ったから、ね。それより、行くのでしょ?」


 呆れて溜め息が出そうになった。しかし、手間が省けたのは良いことだ。


「はい。お願いします」


 フォラックを抱えて、ララックさんと一緒に歩き出した。

 ここからが、フォラック捕獲依頼の一番の難所だった。

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