第一章 レッツゴーミカンセイ
[完結]1-A 彼女は頭の上にミカンを乗せていた。
[完結]1-A プロローグ ミカンセイを砕くミカン
一人の少女が壁の前に立っている。
壁は彼女の行く手を
(うーん……もう中に入ってるのに壁があるってことは)
彼女は自らのあごに手をやり、壁に背を向け距離を取る。目当ての遠さまで来たのか、その場でくるりと半回転。不確かな壁へと向き直った彼女の手には、オレンジ色のナニかが握られていた。
(もう誰かがいるってことだよね)
壁を眺めながら、手の中にあるオレンジ色の物体に力を込める。するとその物体がひとりでに回転を始めた。彼女が指を動かしているでもないのに、しゅるしゅると手のひらの中で回転を続ける。
(なら、今回の『』は……あまり時間に余裕は無さそうかな)
回転を続けるオレンジ色の物体はさらに回転を速め、ついには光を放ち始めた。
オレンジ色の物体は自らを中心にして周りの大気をかき乱すように、大きな力の渦を作り上げていく。渦は勢いを増し、彼女の長い黒髪や、オレンジ色のマフラーをたなびかせる。
「それじゃあ手早くいきましょう」
大きなうねりとなった光の渦は、一気にオレンジ色の物体内に引きこまれ集束していく。彼女は光が失せたオレンジ色の物体を強く握り締めると――
「いっせーのー……」
片足を上げ、投てきするための準備体勢に入った。その体勢からタメを作り――
「せっ!」
全身を使った投球。彼女からオレンジ色の物体が投げ放たれたれる。
勢い良く放たれたオレンジ色の物体が壁に激突するや、辺りに衝撃が走った。
直撃した壁は波打ち、
「さて」
まるで彼女は、この後どうなるか確信を持っているかのようだ。オレンジ色の光に包まれ、存在が揺らいでいる壁の方を見ようとはしない。あくまでマイペースに、腰を折りつつ地面に向かって手を伸ばす。
彼女が地面に置いていた『あるモノ』を小脇に抱える頃。壁はたわみが限界に達したのか、少し遅れて壁全体にヒビが走りぬけ――あっけなく砕け散った。
「行きますか」
役目を果たし、ぽてりと音を立てつつ地面に転がったオレンジ色の物体。その物体は自ら意思を持つかのように空中を浮遊し、彼女の手の中に帰っていった。彼女はこれにも驚いた様子はない。彼女にとっては、それが当たり前であるかのようだ。
壁の崩壊にも、オレンジ色の物体の浮遊にも。彼女は気にも留めずに乱れた着衣を直しながら、破砕した壁を通りぬけていく。
「どこにいるかなー」
ただの一撃で目の前にあった壁を破壊した、その物体は――
一見なんのへんてつもない、ただのミカンだった。
「高梨君」
こうしてミカンと一人の彼女は、新しい世界へと踏み出していった。
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