概要
『浮気した父親を家に入れなかった夜』
物語紹介
父が帰ってこなくなった。
私は別に困らなかった。
むしろ、少し静かになってよかったと思った。
困ったのは母だった。
毎晩、三人分の夕飯を作る。
午前二時になっても父を待つ。
玄関の鍵もかけない。
私はそんな母が、ずっと情けなかった。
ところがある日、近所のおばさんが母に言った。
「ねえ、お宅の旦那さん、浮気してるよ」
母は知らなかった。
その日の夕飯も、大根を切る音だけはいつもと同じだった。
とん。
とん。
とん。
そして数日ぶりに父が帰ってきた。
謝りもしない。
説明もしない。
ちゃぶ台に座って、
「ビール」
いつもの父だった。
だから母も、いつもの母に戻るのだと思っていた。
――戻らなかった。
ちゃぶ台に包丁が刺さった。
父
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