バレンタインデーの積み本を消化できていないのに、つい別の本を買ってしまいました。
さて、『海と毒薬』や『沈黙』などで知られる遠藤周作氏の本書ですが、実は実話ものが読みたくて買いました。というのも著者が同じく小説家の三浦朱門氏と熱海の旅館を訪れた際に体験したとされる幽霊譚(ほかにもありますが)が載っているのです。
実話のいいところは、フィクションみたいに目に見えてヤバい展開がなく(ヤバい実話もありますが)、その代わり体験者のナマの恐怖を感じることができるというところではないかと思います。
たとえば「寝ていたら金縛りに会い、部屋の隅に人影が立っているのを見た」という話も、フィクションとしては地味すぎですが、実際に体験するとなると「滅茶苦茶怖いだろうな」と想像がつくわけです。これが醍醐味ではないでしょうか。
本書でも、めっちゃくちゃ怖い怪奇現象が起こったわけではありません。しかし、この時本人たちが感じた恐怖、体験者のビビり加減には、実にグッと来るわけです。
ぜひ皆さんにも、本書を読んでグッと来ていただきたいです。
あと、同じ旅館を検証のために再度訪れる話も載っているのですが、「怖くてトイレに行けなくなったら、このドンブリを使いなさい」とか言って同行者にドンブリを渡すシーンが好きです。ドンブリかぁ……。
あと幽霊が出たとき、三浦氏がクリスチャンの遠藤氏に「こんなときは十字を切ったらいいんじゃないか」と言ったら「そんなもんきくかい」と言われた、というのも好きです。