「さあ我らのろわれしオタク一族の同志どもよ、たんとよく見るがいいこのかわいい顔を! このフリフリスカート! キュートでキラッキラの瞳! ちらちらのぞき見えるビッグブレスト! よこちち!
ああそうだよ、みんなりゅみえーる山田みたいなぷにっぷにの女の子が好きだろ? じゃなくて俺が大好きだから俺のもの! なんて可愛いんだ俺!」
ついにVtuber、りゅみえーる山田としてデビューを果たした俺は、俺特製のカワイイアバターで画面狭しとヲタ芸ダンスを踊りまくっている。
本来ならばゲーム実況がメインなんだが、あんまりアバターが可愛いすぐるので正直ゲームなんてやってらんねえのよ。
それもよりによって俺が選んだデビュー用のゲームは「らぶらぶエンジン❤ 恋するトラクター」だ。主人公がトラクターになって、畑を猛烈に耕しながら四季おりおりの野菜ガールを収穫してゆくという、いわゆるトンデモ美少女ゲーだが、これがまたカルト的人気を博しており、もちろん俺も大好きである。
特にお嬢様ツンデレキャラでとにかく収穫が難しいと噂のキャベツまきこが一番かわいいんだ。箱入り娘だけあって少しでも外に出すとあっという間に悪い虫がつきまくってすぐにヤンキーになってしまうという超難関キャラである。
「もちろん、俺はキャベツまきこ狙いで始めるぜ! 誰にでもオトせるトマトぷよみとか放置しててもずっと俺のことを愛してくれる安納サツマは、そりゃあかわいいさ。イチャイチャと愛し愛される幸せを十分に味わいたいならこの二人! だが俺は! あえて! 険しいイバラの男坂をのぼる! だって男の子だもん!!!」
あああ! ここでチャンネル登録者数がいきなり10人に減ったアァァァァァ! しまったやっちまった!
だが俺はめげない!! だってりゅみえーる山田は可愛いんだ! 俺かわいい! 俺すげぇ! よし続きだ!
「よし、じゃあゲームスタート、と。画面は俺の部屋、部屋ってかガレージだな。えっと、虎汲田くんの下の名前をいれてください、と。もちろん俺の名前は、トラクタ・りゅみえーる・山田だ! えっと……りゅみえーるや……あなたのなまえはりゅみえーるや! ですね? 違うわーーーーーー! 何でいきなり関西弁やねん! っていつのまにエセ関西人になったんや俺えーー!!!」
画面に向かって突っ込む俺のアバター、りゅみえーる。りゅみえーるのキャラが可愛すぎて何やってもかわいい。可愛すぎてゲームに集中できない。俺がヲタ芸を踊りながらとにかく学校に向かうところでチャンネル登録者数はなぜか100人に増えていた。
「駅に向かうと、背後から声がかかった。『あっ、りゅみえーるやちゃん。オッハヨー!』 ん?誰だ?」
振り返る俺。画面に、緑モヒカン頭の肌の白い美少女が手を振っている姿が映っていた。
「おう、おろしだいこじゃないか。はやいな!」『ウン、今日は朝練だから! 学校まで競争する? イエス or ノー』
さっそく好感度アップの選択肢が出た。俺はもちろんイエスを選——
ああーーー!? 手が滑った! なぜかノーー! を選んでしまった。なぜだ? イエスを選んだはずなのに!?
「ウルセェ、誰がテメーみたいなツンツン辛いダイコンなんておろしてやるかよ! 俺はブリ大根ひとすじなんだよ!」
ゲーム内の俺が聞くに堪えない暴言を吐き散らかす。みるみる緑モヒカンの美少女の眼に涙がうかんだ。
『ひどい……そんなこと言うなんて。りゅみえーるやの……バカーーーーーッ!!』
「へんだおととい来やがれ! バーカバーか! 俺は画面の向こうのお前らだけいればいいんだよ!」
オイ待て。何言ってんだ俺? いや、俺じゃないって! 誰もそんなセリフ言ってないから。
俺がオロオロしていると、画面の中のりゅみえーるが勝手に口パクしながらケツをベシベシたたき、走り去ってゆく緑モヒカン少女に向かってアッカンベーをしやがった。オイ待て。ちょっと待て。何だこのアバター。
言っておくが、現実の俺は女の子に向かってそんなことするような悪漢ではない。二次元に対しては全て博愛主義で通す愛の戦士だぞ。童貞紳士なのだ。ちょっとこのゲーム、っていうかアバターの配信ソフトがバグってんじゃないか?
「なあ、この配信見てるお前らもそうだろ? 俺みたいなカワイイ美少女が画面のこっち側にいるってのに、何でこんなトラクターになって畑をたがやしまくらなきゃならねえんだ? それとも何か? 俺のカワイイ魅力で野菜っこどもをメロメロにしろってか? 野菜じゃなくて百合百合畑にしろってかあ?? あああーー? いいだろう、このりゅみえーる山田が全員、びっちょびちょのぐっちょぐちょになるまでやってやろうじゃない? さあ、どいつから攻略ヤってほしい?」
いや、だから、あの。あの……どちらさまで……?
俺は真顔になって勝手にしゃべりまくるアバターを見つめる。俺の動きには全く反応せず、ただ、勝手に動きまくり、ゲームしまくり、そしてありえないほどの完全無敵なプレイで好感度をガンガンあげながら攻略キャラの野菜全員を完全に収穫し、あられもない姿に料理されてゆく飯テロの食リポご褒美シーンをすべてクリア。
その結果。
りゅみえーる山田チャンネルの登録者数は、1日で10万人を超えた。
……どうなってんだか、さっぱりわからないけど。まあいっか。
次の日、俺は自分が使っているアバターについて検索してみた。どうやら俺が使っているりゅみえーる山田の最新バージョンにはAIが搭載され、キャラが疑似人格を持って「中の人」とチャット状態で会話できるようになっているらしい。
だとすると、勝手にしゃべるのもまあ、おかしくはないか……
と思った俺だったが、やっぱり少々腑に落ちない。それにしてはちょっとおかしすぎないか?
勝手にゲームプレイまでできるようなAIって何だ? そんな設定した覚えないけどなあ……
と、もやもやしつつ、今日も配信の準備をする。昨日うなぎのぼりに増えた登録者数は、ネットニュースに取り上げられたりバズりまくったSNS投稿のおかげで、さらに増えていた。
数字を確認。俺は真っ白な頭でニッコリしながら硬直する。
15まんにん。
増えとるやないかあああああーーーーーーーーーーーー!?
あまりのショックにまたエセ関西弁になってしまった。というか。
俺が寝てる間に、いつの間にか、俺じゃない誰かが、超死にゲーとして有名な美麗RPGアクションRPGの最速クリアRTAを成し遂げていた。
どうやら、レベル99の裏ボスを、りゅみえーる山田が初期装備の全裸にぱんついっちょの殴りプレイ縛りの15分で倒したらしい。それも必須といわれていたヒロインの回復呪文なしに。
は?
誰が?
俺が?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
何かの間違いでは?
いや、ちょっと、マジで、だから、えっ、それ、どういうこと……あの、すみません、何かの間違いでは?
は?
眼をしばたたかせる。朝になってもまだ夢を見ているらしい。きっと睡眠不足で白昼夢を見ているのだ。数字がぼやけているのも眼精疲労のせいだろう。さっき15万だったのが20万に見えるぐらいに疲れている。気のせいかもう21万に見える。これは熱があるにちがいない。数字が熱膨張している。
とりあえずPCをシャットダウンした。したつもりだった。カーソルが動かない。
『せっかく人気者にしてあげたんだからせめてお礼してくれないと、嫌いになっちゃうぞ?』
俺のアバターがしゃべっている。俺はベッドに向かった。ふとんをかぶる。幻聴が聞こえるなんて、まるでラノベかマンガみたいだ。
「おかしいな、トラックにはねられた覚えはないんだが……」
『えっもう寝ちゃうの。ちょっと新婚初夜にしては早くない? いいの? ほんとに? 一緒に寝ちゃうけど??????』
PCから声がする。俺はさらにふかく布団を頭からかぶった。なんだか眠い。ふわふわと身体が浮いているような心地がする。やわらかく、ふわふわしていて、まるで女の子の髪の毛みたいな……
『おい、聞いたか呪われしオタクの一族につらなるものどもよ! よりによって俺の中の人がアバターの俺に対してエロい妄想しまくってるらしいぞ! そうだよなあ若人よ! 若いっていいことだよなあ! ところがかわいそうに、いい年して中学生レベルの妄想しかできねえんだとよ! キャハハハハハハハハーーーー! あ、あの、おっぱい揺らしていいですか…… じゃねーーーんだよ! ダメに決まってんだろうがよ! アバターに触らせようとしてんじゃねーよ! あと、微妙に揺らそうとしてわざわざ前かがみになったり横揺れ縦揺れしてんじゃねーーよ! それとアバターの製作者! 完璧な物理計算でぷるんぷるんさせんな! 技術完璧すぎるだろう! お前ら最高だぜ! よーし全員でヲタ芸すんぞ! ぷるんぷるん! ぷるんぷるん! てめえらはヘリコプターやれ! ぶるんぶるん! 何のとか聞くな! やれ!』
いやちょっと待って。俺は涙目になる。誰がしゃべってんの、これ……?
『ヒロインが出てくるゲーム実況もしていいけど……ヒロインは私だからね……? 私以外のキャラを攻略したらぶっ殺しちゃうぞ?』
りゅみえーる山田がPCの中からニッコリ笑っている。
えっと、つまり……中の人などいないってことですか……?
それって、もしかして……
ホラー展開、的な……?
んなわけないじゃないのである。可愛くてちょっと口が悪いけど金を稼ぎまくる二次元アイドル嫁が我が家に来てくれました。ハッピーエンド! めでたしめでたし。
……なのだが。
俺が本当は中の人じゃないってことは誰にも知られてはいけないのだった。もしアカウントを盗まれたりしたら大変なことになる。
次回! 俺の嫁《アバター》がさらわれた!?
ドキドキハラハラ、秘密のVtuber❤ ライブ配信は毎週日曜深夜26時! チャンネル登録してね!? 👍ボタンも押してくれると嬉しいな❤ では、また次回。