3階から上がるエレベータには幽霊が出るらしい

3→

じゃなくて(わかりづらいな)


ある女性が、深夜、3階に止まったエレベータに一人で乗ったそうなんですよ。すると、だあれも乗ってないはずなのになぜか、すう……とすきま風が吹き込んできて、と同時に、
なんだかやたら臭いにおいが、ぷうん、と漂ってくる。
何?この臭い? となってエレベータ内を見回すけれども、やっぱり誰もいない。
たいていのエレベータの奥側には鏡があるでしょう?
じーっと見つめてはみるけども、やっぱり自分しか写っていない。

おかしいな?
でも、まあ、気のせいでしょ?

と思って鏡から目をそらしたら、こんどは後ろから

ぷすぅ?
って音が聞こえる。

間違いない。オナラの音ですよ。あら、やだ、しちゃった?
んなあわけない。なんでほかに誰も乗ってないのに、オナラの音がするのか?なんて。

まさか、直前に乗っていた誰かがオナラの置き土産を置いていったのかな、とか、ずいぶんくだらない嫌がらせもあったもんだわ、なんて思いながら、さすがにちょっとイライラして、臭いをすいこまないようハンカチで鼻を覆ったり。

でも、いったい誰がこんな嫌がらせを?

もちろん本人のわけはない。いくらなんでもオナラをしちゃったかどうかぐらいは自分でわかりますよ。
そしたら、また、ぷっ? ぷっすぅう… ?
って聞こえてくるわけ。

うそ、何、どういうこと? 今の何? もしかして、まさか。

なんて感じで、だんだん嫌ぁな心地になってきてですね。

変な臭いはしてくるし、変な音は聞こえるし、もう、とにかく早く、目的の階にたどり着いてほしい。

そう思って、行き先の階のボタンを何度も押す。押す。すると、上に参ります、ってエレベータの音声がいう。パネルのオレンジのランプが点灯する。あとは閉じるボタンを連打。
エレベータが動く間はどうしても手持ち無沙汰になって仕方がない。で、カウントアップしていく頭上の階数表示を見上げたりしていると。


ぷぅ?
ぷぅう?

誰かが、連続で、オナラする音が聞こえてくるんですよ…

それも、ぷぴっ!とかならまだいいけど、ときどき半分お腹を壊したような、ぶぼんぼべちゃゔぉばー、みたいな半あぶく噴出放屁だったときにはもはやパニック。


……とある町の、とあるビルには、恐怖のオナラエレベータと呼ばれるエレベータがある。

そのエレベータに一人で乗ってしまうと、本人がしてもいないオナラの臭いがとつぜん立ち込めるのだそうだ。

臭いは我慢すればどうにかなるが、問題は降りるときである。
だれにも会わなければいいのだが、ぷぅんとオナラの臭いがするときに限って、どういう運命のいたずらか、止せば良いのにかならず誰かが途中で乗ってくる。

それも片思いの相手と二人きりになる時に限って、である。

嘘、いやだ、何この臭い…まさか…こないで!誰も乗ってこないで!だめ!やめて!止まらないで…いやぁぁぁ…!

こだまする悲痛な叫びを飲み込んだまま、エレベータは無常にも◯階です、とか言いながら、強烈なオナラの匂いを解き放つべくドアを開く。
そこに立っているのは、ああ、なんという悲劇であることか。会いたくて会いたくてオナラして震える片想いの相手。

ドアが開いたその瞬間の顔ときたら。
ああ、もう、お嫁にいけない…!!!

恋する相手を前に、残酷なるオナラの残り香をくゆらせるエレベータ。

知らぬこととはいえ、ああ、何と皮肉な運命のいたずらであろうか。オイディプスならぬオナラぷすぷすの悲劇もかくやとばかり。人知れず恋に身を焦がすはずが、ドアを開ければオナラの臭いがもわぁぁんもわああん。

違う!これはわたしのオナラじゃないの!と、どんなに心で主張しようとも、そこはうら若き乙女が自らオナラだの放屁だのお鳴らしだのと尾籠なる言葉を口にすることは痛切にはばかられ。


後から乗り込んだ方も乗り込んだ方で、傷ついた相手をフォローしようにも、大丈夫ぜんぜんくさくないよー♪などというガラスの女心を粉々に粉砕する余計な気づかいこそ問題外。臭わぬそぶりをするにはときすでに遅かりし。

どうにもならず、互いに、ただ、誤解と絶望にさいなまれ、もんもんといたたまれぬ時間が過ぎてゆくばかり。
オナラとエレベータと彼とわたし。公開処刑とはまさにこのことである。


恐怖のオナラエレベータ。
オナラで恋心がダダ漏れという悲喜劇に、心折れる女子が続出したという。

繰り返される惨劇の連鎖に、これはきっと幽霊の仕業にちがいない、という都市伝説がまことしやかに流布されるようになった…



「というわけなの」

 と、シャーロックホームズが女体萌え化したような外見の美少女がいう。もちろん彼女が優秀なオカルト探偵であることは君にとって既知の事実だ。
さらに言うと、君は幽霊である。ピザ屋のピザを食い尽くすという、悪の限りを尽くした君は、彼女の霊力に導かれ(ぶん殴られて)更生し、今は彼女の助手として働(かされ)ている。という設定だ。思い出せたかな?

「エレベータにいるのが本当に幽霊かどうかわからないじゃないですか? って? もしかしたら本人がすかしっぺしちゃったのをごまかすために幽霊話をでっち上げた可能性だってあるでしょうって? あなた、バカなの? 節穴なの? 優秀なるチャネラーであり霊媒師でもありオカルト美少女探偵であるこのわたし、オカルト探偵Qが、霊眼で一目見ればわかるに決まっているじゃない。わかってどうするの? っていちいちうるさいなこの幽霊。わたしの口を使って勝手に喋るんじゃないわよ」

幽霊の考えていることを勝手に決めつけてしゃべっているくせに何が霊媒師だこのおしゃべりサギ師め。と、君は少々心外に思いはするものの、下手なことを言えばトゲトゲメイスの一撃を食らう。余計なことは言わないに限る。






なんとかして除霊してください。と頼まれたオカルト探偵。すかさず空気リフレッシュナーを片手にエレベータに乗り込むのであった。

そして、凄絶なオナラvs消臭剤の戦いが始まる…

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