ピンポンがなって出てみるとおとなりのおばちゃんがクリスマスのプレゼント然とした箱を抱えている。
さすがにちょっとぎょっとしたけど、話を聞くと、犬を買ったのだという。わんちゃんですか?ときくと。違うという。
箱のなかには動く犬のおもちゃが入っている。
息子が休みなので使い方を教えてもらおうと思って待っていたが息子が今日はこれないというのでどうやったら電池を入れられるのか教えて欲しいと
うわあ、って思った。
何度目のうわあだろう。違う。そういう意味じゃない。お隣のおばちゃんはいい人なのだ。あかるくて面白い親切なおばちゃんなのだ。寒いんで玄関に入ってもらって、わんわんのおもちゃの電池ボックスを探す。
おなかにあるはずだけど、開け方が分からないという。
うん、ちょっと難しいけどうおりゃあってマジックテープの毛皮をはがすと下から電池ボックスとスイッチが出てくる。
ちいさいドライバーを持ってきて電池ボックスを取り出し、乾電池をいれ、スイッチオン。
わんわんわんわんくうーーんわんわんくーーーんごろごろろーん尻尾ふりふりーーー
可愛いよ。可愛い。確かに可愛いさ!うちの2階でわがやのわんこがぎゃんぎゃん吼えている。あれはよそ様がくると噛み付くのだ。キケンなのだ。それにくらべて話しかけるとクーンって言うおもちゃ。ちょっとごつごつしてるけど、物音を聞きつけると動き出すのだ。
かわいい。
一人暮らしってそんなにさびしいのか、と思った。
外に出てもいつも畑仕事してる元気なおばちゃんなのだけどなあ。ちょっとショックを受けた。
生きた犬はね、責任を持って飼わないといけないからね。いろいろ考えてムリだと思ったんだろうし、それは正しい。
譲渡会に行くと、年齢ではねられるお年より夫婦がいる。
犬は15年も生きるのだ。も、じゃない。たった15年しか生きない。それでも15年だ。いつか、なんてことを思うといつも涙が出てくるが、まいにちの楽しさがすべてを忘れさせてくれる。10年後の絶望のことなんか考えたくない。毎日が幸せだ。ずっと幸せでいたいし、ずっと幸せだと思っててほしい。
人形だから悲しまなくてすむし、もしかしたら自分が先に、みたいな万が一のことを心配しなくてもいい。正しい判断だ。犬を飼うのってバカだ。だってバカだもん。好きだし。犬のおなかと股間に鼻をつっこんでくんくんするの好きだし。バカだからさ!
でも、正しい判断をしたはずのその箱を見つめるのは、そのむこうにいろんな見てはいけないものが見えるような気がして、他人ごとながら何かこう、胸につっかえるものがある。
ありがとーねおばちゃんこういうの全然分かんないからねえ息子に頼もうと思ったんだけど来てくれなかったから捨てようかと思ったんだけど頼んでみてよかったわーーと笑ってくれて、おばちゃんは箱の中でわんわん言ってるおもちゃを抱っこして帰ってった。ええよええよいつでも言うてーーこっちこそお世話になっとるけん~~と門まで送っていく私。
さすがに、おばちゃんが私にわんわんのクリスマスプレゼントくれるのかと思った、とひそかにおびえたことだけは絶対に秘密にしておこう、と心に誓う私であった。