デタラメ高校変人部の最新話「カスパロフの鏡」で、一九九七年のガルリ・カスパロフvsディープ・ブルーの第三戦について言及してますけど、これについていいわけさせて下さい。
本文中で「ある本によると、この時のカスパロフの手は、まるでシシリアン・ディフェンスの白と黒の手を入れ替えたようであったという。」と書きましたけど、ある本というのは具体的には、牧野武文氏の「レトロハッカーズ合本第2集」収録の「機械との心理戦に破れたチェス世界チャンプ」です。この本によるとこの第三戦でカスパロフは後手(黒)であり、「本来なら白が使う」シシリアン・ディフェンスの布陣を敷いたと書かれています。
ところがwikipediaの「ディープ・ブルー対ガルリ・カスパロフ」の記事を見ると、一九九七年の第三局でカスパロフは先手(白)であり、「イレギュラー・オープニングの1つであるミーゼス・オープニングを選択した」とあります。シシリアン・ディフェンスが「本来なら白が使う」布陣とは考えにくいため、牧野氏の記述の方が何かの勘違いである可能性が高いです。
ではなぜ、私は勘違いである可能性の高い記述を引用してこの話を書いたのか、といえば、wikipediaに書かれているミーゼス・オープニングというのが何なのかわからなかったからです。わからないものを元に書くことはできないので、理解できる方を採用したというわけです。
wikipediaと牧野氏の記述が一致していて、ほぼ事実と確定できる事は、次の二点です。
・カスパロフは第三局において、イレギュラーなオープニングを採用することによりディープ・ブルーの定跡データベースの無効化を狙った。
・最終的にこの局は、双方の同意の上の引き分けとなった。
いずれにせよ、拙作において三輪由明が行ったように、『相手の手を、白黒逆転のシシリアン・ディフェンスに誘導する』なんてことが可能なのかどうか、私は知りません。まあ、所詮はフィクションですのでそのつもりで読んで下さい。