エピローグとして考えていた最終話。
クリスマスでもあるし、眠らせておくのももったいないかと、コッソリ公開。気が向いたら本編の最終話として公開するかもです。
ではどうぞ……。
§
春の気配も漂いだした新宿。
幾分過ごしやすくなったものの、明け方の冷え込みはまだまだ油断ならない。
「今日はお別れを言いに来たんだ。長いこと世話になったな」
伸び放題だった髪やヒゲを切り揃えた男。
ブルーシートの出入り口から、仲間の家を覗き込みながら別れの挨拶を告げる。
「たまげたな。どうしたよ、その身なり。いい仕事でも見つけたのかい?」
「いやぁ……恥ずかしい話なんだが……。息子に厄介になることになってな……」
男は気まずそうに頭をかきながら、仲間に事情を話す。
最底辺の生活から、自分だけが脱出することが後ろめたい。黙って姿を消すことも考えたが、やはり世話になった手前、筋は通すことにした。
「帰れる家があるなら、帰った方がいいに決まってらあ。こんなホームレス生活には、二度と戻ってきちゃいかんぞ」
「実は、ちゃらんぽらんだと思ってた息子が、立派になりやがってよ。よその国なんだがな、大臣だとさ」
「そいつはたまげた。上手くやんなよ。達者でな」
仲間に見送られ、家とは呼べない粗末な居住空間を後にする男。
そのすぐ外では、男の息子が挨拶を済ませるのを、今や遅しと待ち構えていた。
「もういいのか?」
「ああ、待たせたな。それにしてもよ、大臣なんて、えらく出世したもんだな」
足早に歩く親子連れ。背中を丸めて歩く父と、背の高い息子。
ぎこちなく話しかけた父に、息子はぶっきらぼうに答える。
「大臣ったって、王国じゃねえっし。国王に反乱を起こして作った、新しい国だし」
「いや、大したもんだよ。昔の俺たちとは大違いだ。何しろ俺たちゃ、一日ももたずに鎮圧されちまったからな……」
自虐的な薄笑いを浮かべ、思い出話を語り始める父。
そんな父に、息子は呆れ顔で口を挟む。
「失敗に終わったからって、行方をくらますことなかったっしょ。探し出すのに、どれだけ苦労したかわかってんスか?」
「本当にすまねえ。あの時は、どの面下げて帰ったらいいかわかんなくなって、外界に飛んだものの……。余計に気まずくなって、帰る機会を逸しちまった。でもいまさら、俺が帰ってもいいのか?」
不安げに尋ねる父。だがその心配をよそに、息子は頼もしく答える。
「――当たり前っしょ。親父の帰る場所を、ずーっと空けてみんなで待ってたし。『家の主のお帰りだ』って、大手を振って帰ればいいんスよ」