この記事はギガントアーム・スズカゼ第4話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
ミスカの正面には大きな机があり、飲み物などいかにも会議する準備が整っている。
しかしてジットや一郎達が居るのは部屋の左手側、衝立で区切られた談話用のスペースだった。
「何をしているんだ」
「あ、フォーセルさん! 待ってましたよ!」
「おう遅いぞフォーセル。大分盛り上がってたから良いけどさ」
「それは申し訳ない。だがこちらも色々とやる事があってな」
あるいは、わざと泳がされていたか。少なくとも先程の通信は傍受されているだろう。そもそも現在の身体の再構成に使った魔力自体、ジットからの提供なのだ。自主スキャンでは特に問題は無かったが、それでも何か身体に仕込まれている疑いを、ミスカは外すつもりは無かった。
「そっか、すっかり忘れてたけどビジネスマンだもんなフォーセル。かかせないよなあ本社への連絡」
うんうん、と勝手に納得する一郎。その横では黒いスーツを隙なく着こなした男が、てきぱきとゲーム機やらティーセットやらを片付けていた。青い髪を後ろになでつけるこの男の名は、アルグ・セロ。やはりジットの部下の一人だ。
「にしてもスゲーよな、このトラック。住居として普通に快適だし、物理法則を無視してとんでもなく広いし。何よりスズカゼが丸ごと収まってるのが信じられねえよ」
一郎の言に嘘はない。昨日、トーリスを退けた後。十分ほどして現れたのが、ジットの所有するこの巨大車両ウォルタールだったのだ。
思い出す。未だスズカゼから降りられず、途方に暮れていた一郎。ジットの指示でその前に停車したウォルタールは、牽引ユニットの上面に巨大な魔方陣を発生させた。そしてその中から現れた巨大な作業用アームが、スズカゼごと一郎を内部へ引き込んだのだ。
「正確には空間接続魔法を応用して、ウォルタール内部の格納庫へ移動させたんですけどね」
「まあー大変だったのはその後じゃがなあ。特殊形状じゃから普通のギガントアーム用ハンガーは使えんし。精神融合型のギガントアームからズブの素人を引き剝がさにゃならんし」
「いやホントその節はお世話になりました」
そう一郎が頭を下げたのは中年男性の名はマッツ・アリン。年季の入った作業着から分かる通り、ウォルタールに所属するメカニックである。
「さて。フォーセルさんもいらした事ですし、頃合いでしょう。皆さんご着席ください」
宣誓するジット。いつの間にか部屋中央の大机に座っていた彼の身なりは、先日とは全く違ってる。軍服なのだ。深緑を基調とし、要所へ金色の刺繡が入る高級な装い。胸にはアクンドラの国章とディナードの家紋、それから特別大尉を示す階級章。皆が座るのを見計らった後、さりげなく軍帽を机上へ置く。気品が透ける仕草。
「では、改めて。僕はティルジット・ディナード四世。アクンドラ共和国、ディナード公爵の三男です」
そう名乗るジットの姿は、以前ミスカが資料映像で見たティルジット・ディナード四世、まさにその人であった。痛感する。あんな格好だったとはいえ、最初に気付いておくべきだった、と。
「……」
「加藤さん?」
「……えっ、えっ!? 次俺? じゃあえーと、加藤一郎、日本人、二十三歳。立場は、あー……今は職が無くて」
しなびて消える一郎の声を、ミスカは最初から聞いていない。公爵。世が世ならば、そんな肩書ではあるまいに。