しかし半壊状態だったとはいえ、これ程の短時間で無人機の制御を乗っ取るとは。舌を巻くオーリス。とは言えそれ程の腕利きでなければ、こんな所で単身調査なぞ出来ないか。
「だが、これで!」
「そう、終わりだ」
突如割り込む無線。トーリスの駆るグラウカは、弾かれたように振り向く。
果たして、そこにあったのは。右腕から光の刃を展開した、ギガントアーム・スズカゼであった。
◆ ◆ ◆
その、少し前。
「ク、ッソ! 何か手は無いのか!?」
「無い訳ではないが」
一郎へぞんざいに返事する傍ら、ミスカはスズカゼのシステムを調査する。
――そもそもミスカ・フォーセルは、どうやってスズカゼに乗り込んでいるのか?
答えは単純だ。一郎がスズカゼへ己の意識を投射した時、生じた魔力の流れに相乗りしたからだ。
無論、相当に強引な相乗りである。セキュリティが機能していれば弾かれただろう。だがスズカゼは二カ月前から魔力を放出し続けていた上、それを浴びた加藤一郎が動かせてしまっていた。何らかの理由で制御系に隙間があるのでは、と最初に見た時から薄々踏んでいた。本当に相乗りが成功するとは、ミスカ自身も驚きであったが。
どうあれ一郎がどうにか立ち回る間、ミスカはギガントアーム・スズカゼの駆動システムをざっと調べた。機体そのものの特殊性。搭載された武装の数々。何より厳重なプロテクトのかけられた巨大なデータ。分からない事だらけだ。だが、今必要なデータは一つだけ。
それを、ミスカは見つけ出し。
「今すぐ、かつ加藤でも扱いやすそうなものは、コレだな」
一郎に、それを理解させた。
「なる、ほどッ!」
手刀を構えるスズカゼ。上腕部、変形前は刃を構成していた部分が、魔力の光を帯びる。
折りしもこの時、トーリスはジットが制御するグラウカへの対処に意識を割かれていて。
スズカゼの右腕。手甲部分から光の刃が生じる一部始終を、見事に見逃した。
「だが、これで!」
丁度この時、トーリスの声が無線越しに聞こえて。
即座に、ミスカは一計を案じた。
「そう、終わりだ」
断言による横紙破り。必然、グラウカのカメラアイがスズカゼを捉える。認識する。新たな武装。光の刃。近接兵器。
即座にスラスター噴射し、斜め後方へ距離を取るトーリス機。入れ替わるように全てのフェアリーユニットが集結し、銃口を向ける。見事な引き撃ち。
しかし。それこそがミスカの狙いだったのだ。
「加藤!」
「応!」
一郎が応じると同時、スズカゼが光の刃を振るう。放たれたのは斬撃、だけではない。
弧を描く、指向性を帯びた稲妻だ。
斬撃の軌跡から飛び立った幾筋もの光芒は、狙い過たず全てのフェアリーユニットへと着弾。事ここに至り、トーリスは理解する。
アレは、ただの剣ではない。
魔法を行使する能力を持った、複合攻撃装備なのだと。
そしてその読みは、確かに正解であり。
ミスカによって発動された身体強化魔法が、スズカゼのスラスター推力を瞬間増幅。吶喊する鋼の巨躯は、暴風を伴ってトーリス機と交錯。着地。ばきばきと、氷を盛大に抉りながらスズカゼは停止。背中合わせになる二機。
一秒。
二秒。
三秒。
不意にトーリス機が、胴体から火花を散らした。
「ち! ここまで、か!」
緊急レバーを引くトーリス。爆裂。振動。炸薬によってコクピットブロックが強制分離したのだ。頭部を含む胴体の一部が宙に浮き、一拍置いた後凄まじい速度で空の彼方へと飛んでいった。
その一部始終を、一郎は見ているしかなかった。スズカゼの魔力容量は既に限界だったからだ。
「なんだ、ありゃあ」
「脱出装置だ。あの様子なら、パイロットは無傷だろうな」
「パイロット……?」
ほとんど無我夢中でスズカゼを操っていた一郎は、ここでようやく思い至る。
向こうにも人が乗っていたと言う、ごく単純で、動かしがたい事実に。
「そりゃ、そう、だよな」
呆然とする時間は、しかし一郎には無かった。スズカゼの待機状態への移行システムが起動したからだ。
「えっ」
と一郎が驚く頃には、スズカゼは三つのパーツへ分離していた。ギガントアーム形態を維持する魔力が無くなったため、待機状態である日本刀形態への強制変形が始まったのだ。
「いや、ちょっと、待って」
一郎の抗議も空しく、スズカゼの変形が逆回しに再現される。具体的には頭部、上半身、下半身の三部位に分かれた。
「うわーっ!! 人体切断したァ!?」
「落ち着け加藤、スズカゼが自動で待機状態に戻ろうとしているだけだ。リンクを解除すれば良い」
「そ、んな事言われても解き方なんて分からうわーっ!! ニンゲン手も足もそんな角度には曲がらないと思ってたんだけど曲がっちゃったァーッ!!」
「……しばらくかかりそうだなあ」
呟くジット。パイロットの抗議を完全に無視したスズカゼが日本刀形態への変形を終えたのは、その少し後の事だった。
氷を割り、まっすぐに突き立つ鋼の刃。陽光を弾く巨大な刀身は、いっそ荘厳ですらあった。
「いや、ホントにさあ。これどうしたら戻れんの?」
未だ狼狽えているパイロットの声さえなければ、の話だが。
◆ ◆ ◆
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