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2つのゴールドスパイスと、3つ目のゴールドスパイス

たまには創作日記のようなものを投稿してみたいと思います。一種の備忘録とか、言い訳とか、分析ってヤツです。

マジの細かい執筆過程は省きますが、GS(GOLD SPICE)という作品自体は、当初から手続き的に進められてきました。とにかくキャラクターを置いてみて、それがアクションを起こすさまを見守ってみるという方法です。ハイハイわかってますよ。プロットを作らないのは怠慢だって言うんでしょう。

大筋はほとんど決まっておらず、唯一決まっていたのはクライマックスの部分だけでした。たしかに怠慢っちゃあ怠慢かもしれませんね。

でも、「クライマックスが決まっていたら後の話は逆算して作れる」なんて話は大噓で(すくなくとも最重要ではなくて)、最も重要なのは初期衝動だと僕は思っています。怠慢っぽく聞こえるかもしれないけど一応、考えはあるんです。ホントです。

必要なのはピュアな初期衝動ってやつです。「こういう話が読みたい」とか「こういうキャラが見たい」という、作品に対する期待とか憧れに似た気持ちですよね。それがあれば少なくとも"エターナル"はあり得ないし、ネット小説はそれだけで充分だというのが僕の見解です。

そういえば「憧れは理解から最もほど遠い感情」だという藍染惣右介の格言がございますが、この場合、自分の初期衝動を理解しようという試みは第一稿を歪めてしまうだけだと思います。われわれはもっとネームを書くべきなんです。もしも自分のクリエイティビティが枯渇しないと信じるなら、ですが。

偉そうだなと思いましたよね。偉そうだなコイツと。

まあ……たまには偉ぶらせてや。

話を戻しますと、GSには第一稿である「DIGESTER」と、第二稿である「鉱業プラント編」があります。

DIGESTERは、いわばクオリティの高いネームを公開してみるという試みといえましょう。もちろん単なるネーム以上のものになるようそれなりの努力は加えてありますが、本質的には行き当たりばったりです。プロット主義のご歴々はご立腹になられるでしょうが、プロットを書き下していなかったからこそ、有機的に展開を変えることができ、「サプライズ・ニンジャを延々と続ける」という、物語におけるある種の理想を目指すことができました。実際、テンポは良いと思います。

問題は、キャラクター主導を自分で掲げておきながらキャラが弱いということですよね。これは僕の今後の課題でもあります。世界の作り込みに対して、それぞれのキャラの設定がちょっと甘いんですよね。そういう意味では「でんたく」が一番立っちゃってて、ほとんどシローを食ってる。DIGESTER版のナイラは第三章からぐんぐん良くなっていくんですが、今のところは非公開状態にしてあるので、みなさんには知る由もなく。

シロー、こいつのスタンスがちょっとブレ気味なのも問題なんですよね。主人公だから、このブレが良い味になると思って書き始めたのですが、複雑すぎて中心が掴めない。第二稿の「鉱業プラント編」ではそのブレを良い方向にだけ出そうとして、結果として悪い方に出てしまったような気がしています。ずっとBad気味っていうか?

基本的にはジョーク好きの楽天家のはずなのですが、小難しい話もできてしまうので、口を開くと口論ばかりになってしまいます。気を許せる相手がでんたくしかいないってのが問題なんでしょうね。なんか顔が怖くなっちゃいました。

第二稿はそういうところがあります。つまり僕は初期衝動を理解しようとした結果、中心部分と思われるものを残してノイズを消していったのですが、最後に立っていたものは人間ではなくて、形ばかりの<キャラクター>だったというわけです。

第二稿の大きな変更点としては、シュナをバディにするというものがありました。

DIGESTERでは、シュナは第一章でちらっと出てきて、それから二度と画面に戻ってこないんですよね。これはさすがにもったいないだろ! と思って、第二稿ではシローの真横に置くことにしました。

これが正直……予想外のことが次々に起こりました。なんというか、おもしろい現象だなと思います。

当初は、DIGESTER版とまったく同じプラントにシローとシュナを送り込む予定だったのですが、そうすると話が硬直してしまうことに気づいて、より大規模な構造体の中の話に変える必要性を感じたんですね。そうやって積み上げていくと、巨大な小惑星帯を、主星である「荒鉄星」まで進んでいく、ロードムービー的な話が思い浮かびました。

もともとDIGESTERで「アンダール宙港」が犯罪者の掃きだめみたいに言われていたのは据え置きで、小惑星帯全体をそういう施設と見做したわけですね。

これ、いかにも上手くいきそうじゃないっすか? 僕も思いついたときは、「ああ、これで電子書籍にしたらGOLD SPICEは完成するかもな」と予想を立てたくらいです。

しかし蓋を開けてみたら、シローはなんかずっとモジモジしてるし、シュナは顔色悪いし、妙に道のりだけ長そうで小惑星帯は罪人だらけで嫌な感じだし、なんというか……なあ、これっておもしろいんか?

おもしろくないんです。

刑務所ってのは長居する場所じゃないんだなと思いましたね。いっそジェイルブレイクものとして振り切っちゃえば楽しいんでしょうが、ゴールドスパイスの舞台は特殊な設定なので、単に魅力のない港の一つになってしまっている。他に面白そうな星がいくらでも浮かんでいるのに、どうしてこんな場所にいなければならないんだという話ですよ。まだそこまでのストレスに付き合う準備がこっちにはできてないって話です。

喜び勇んで書いてみたらコレで、僕は感心しましたよ。なるほど、こんなふうになるの?って。イラストで言うと、ラフの上からペン入れした後、ラフのレイヤーを消してみたら、なんか全然印象の違う絵になっちゃった——ってカンジです。

どうしても思入れの差ってもんがあるんでこんなボロクソに言ってますが、もちろん第二稿にも良い部分はあります。まず間違いなく、シーン間のテンポが良くなっている。でんたくの登場が早いのでバディ感が伝わりやすいし、シローの目的意識も判明して、第2章は結構メイクセンスしてます。シュナとの掛け合いはちょっとまだ安いかな。第三稿では変える気がします。

今ちょっと第三稿の話をしたので軽く触れておきますが、もしかすると第二稿はこのまま閉じて、第三稿に切り替えるかもしれません。思いましたか。「コイツ、削除癖がある——?」「もしかしてTwitterアカウントとか定期的に削除してる?」と。

いや……まあ確かに否定はできませんわね。
してませんけどね?

ただまあ、読者の皆様からの信頼とかがメリメリ低減していくとしても、単により良いものを作るためにはどうすればいいのか、実験して確かめていきたいという気持ちが今は強いってのは——ありますよね——。

今思ってるのは、第三稿はもっとポジティブで愉快な文体を意識してみようかなということです。ロードムービーってアイデア自体はよかったと思うんですよね。

「まったく新しい——」なんて考えてはいなくて、第一稿を補填する形で書けたらいいのかなと思っています。たとえば、テンゲットに行く前の道のりに何個か中継の港を設けたりとか、あるいは目的地自体をテンゲットではない別の港にしてみるとか。ほら、ちょっとワクワクしますよね。

そんで話を戻すと、結局はこういう初期衝動が大事なんですよ。これがないと、「鉱業プラント編」みたいな迷路に入ってしまうことになる(実際、シローとシュナは迷路みたいな牢獄に降り立ったわけですが、僕の精神状態そのものを表しているように思えてなりません)。

当初はただ単に文体を整えたり、シーンの位置関係を揃えるだけにするはずだった第二稿がこんな状態になってしまったのは、ひとえに著作者としてのエゴが原因だなと思います。ちょっと大層な話に聞こえるかもしれませんが。

すこしでも自分の力を過信し、自分の手で何かができると思うと、円周一億キロの牢獄に迷い込むはめになるわけです。結局のところ、僕のような人間は初期衝動の召使に過ぎず、それが赴くままに書くことを一切抑制しないことこそが正義なんですよね。それをしみじみ実感します。

第三稿とはいっても、このままやり始めるとなると、当初の第二稿に近い形になりそうですね。謙虚におのれを戒めていきたいと思います。こらっ!

2件のコメント

  •  キャラ設定が弱いという文を読んだ時は、『キャラ設定が弱い!?』と強烈な疑問に襲われましたが動かしている方からすると弱く感じるのかも知れないとなんとなく想像できる気がします。

     それこそでんたくやナイラ(後半から)はキャラがバリバリ立ってますし、スカイマンやらハイネカインやら、ヌッタ、トルバート爺、ロージー、みんな魅力溢れるキャラばかりだと読者としては感じていました。
     サプライズニンジャマジックだったんでしょうかね?いやしかし、やはりそれを差し引いても魅力的でした。

     それからシローに関しては、私は最高の主人公だと感じてますね。というのも一人称視点で描かれる小説の仕様上、感情移入先としての主人公への矢印はかなり大きなものになると思うんです。
     そうなると、読者としてはキャラが尖ってたりするより、ブレていたりした方が、より深く深く感情移入というか自己投影しやすいんじゃないかなと。
     極端な例で言うと、RPGの主人公が『はい』『いいえ』しか喋らないみたいな、余白みたいなものがあった方が“キャラ”としてというより“主人公”として強いんだろうなと。
     まあ完全に読者都合なんですけどね。

     それからシーン間のテンポの良さですが、それは私も感じていました。ですがそれは、私のゴールドスパイスという作品への好印象を一部剥がしてしまったなという寂しさを個人的に抱いていてしまいました。
     テンポが良くなった事による重厚感の喪失です。ゴールドスパイスの良い所は、展開は重厚で一見テンポが悪いようだけれど、シローの語りの軽やかさがすべてのマイナスを打ち消し、結果盛り上がりが尋常じゃないくらい激しくなるといった点です。
     言葉が下手ですが、テンポの悪さは読んでいてまったく気になりませんでしたし、濃い分、味わいが非常に豊かでした。私はその読みごたえの満足感が病みつきになったんです。

     私は、でんたくがラトナハヴィスのコックピットでようやく目を覚まし、その後ラトナハヴィスが起動するあそこのシーンで完全にぶっ壊されたんですけど、正直でんたくはあそこまで眠っていた方が良かったと感じています。
     先生は一番初めの存在の匂わせ方が巧いんですよ。あの初めの部分だけで、でんたくという存在が登場していなくてもシローにとって、イコール読者にとって重要な存在だと刷り込まれる。そして、引っ張って引っ張って、ドン!からのドドン!でラトナハヴィス復活!マジで痺れましたね。
     まあしかし、ここら辺は完全に好みの話ですから、先生の理想とは違うんでしょうが、私の感想としてはこんな感じです。
     それからシローの目的意識ははっきりはしてましたけど、ダイジェスターを知ってる身からするとちょっと強引だなと感じてしまいました。

     あとの第二稿に対する見解はほとんど一緒で、やっぱり先生も窮屈は感じていたんだなというのは納得する所がありました笑

     先生は初期衝動の持続力と、表現をする上での実力的な土台が明らかに非凡ですよね。“サプライズニンジャを延々と続ける”とおっしゃっていましたが、普通そんなことできないでしょ!
     ニンジャほど脈絡が無いものが出てきてる訳では無いんです、つまりもうほぼ地でやってるんですよサプライズニンジャ以上の展開を。つまりナチュラルボーンバケモンですよ。凄すぎませんか?しかもただ展開が面白いだけじゃなくて、描写が美しいんですよ。マジでバケモンだなこの人と、思いながらいつも楽しく読ませていただいていますよ。

     そして、ここだけの話、読者としてガチのわがままを言わせてもらうと、『第一稿で完成させてくださいよ!』です。
     なれるものなら、先生の初期衝動になりたいですね。

     第三稿!楽しみにしております!!!!!
  • なるほど……。貴重な意見ありがとうございます。大いに参考にさせていただきます。
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