ディレクターズ・カットなのだから、オーディオ・コメンタリも必要だろう。
秋待諷月さん主催のペンギンSFアンソロジーを知り、まず最初に浮かんだのは「ペンギンを使役して海中で狩りをおこなう」というものだった。そのアイディアを中心に設定を膨らませていき、エウロパをテラフォーミングさせた水の惑星を舞台に、一人称視点の紀行文の体裁でいこうと決定。地球にかつて存在した不思議の国《日本》の風習をアメイジングでファンタスティックに描写しようと目論んだ。
日本の風習や遠い過去のことについては奇天烈な注釈をつけようとしたが、一万字の枷があり、断念。ここにオーディオ・コメンタリとして復活させることにする。
そもそも書き出すとプロットを無視するきらいがある。あたらしいアイディアに引っ張られて分量が読めなくなる。マリオン夫妻の設定も最初はなく、竹の開花については現地のメンマづくりの名人が説明するはずだった。本作のヒロイン・高倉ぼたんも名すら存在せず、唐獅子牡丹も彫っていなかった。エウロパペンギンも赤い飾り羽ではなく、背中に太極図の模様がある、縁起のよいペンギンだった。
どれだけ変わり、なにをしようとしたか、手の内をさらけだしてみようと思う。
【これほどの贅沢を知らない】
まず最初から嘘である。宇宙では水が貴重として、水の惑星エウロパとの差別化を図ろうとしたが、宇宙ステーションにおいてさえ水は潤沢にある。スペースシャトルには酸素と水素を反応させた燃料電池が搭載されており、電気を発生させる際、副産物として水が生成される。クルーの飲料用生活用に貯められるが、つかいきれないため宇宙に排出されるほどだ。
【小惑星帯の開拓団】
ひたすら外へ向かって開拓していくとして、加速スイングバイをつかった航路を採っても、銀河系外に一世代で到着するのは無理がある。かといって星々をテラフォーミングして前哨基地を足がかりにしていくのも時間がかかりすぎる。
まず数人のクルーが乗った宇宙船で近隣の小惑星に着陸し、資源などを採集。改修した宇宙船でより多くのクルーとより遠くの小惑星を目的地として飛びたつ。数世代くりかえせば、いずれは太陽系の外側にもたどりつく。ひたすら外へ外へと向かう。その使命を帯びたのが開拓団だ。
本来ならば片道切符しかない。ここにいる《ぼく》の物語はまたべつの話。
【鹿威し】
大型肉食獣シシを追い払うための音響兵器。
【内太陽系旅行情報網『ユリシーズ』】
雑誌ではなく、電脳情報網である。宇宙では紙こそ貴重品だろう。
ユリシーズは『オデュッセイア』の英語読み。登場する名詞はギリシア語で統一しようとがんばっている。
【ひとつなぎの大秘宝で有名な海賊島】
あの国民的長期連載漫画のこと。ひとつなぎの大秘宝とはなんだろうか。
【竜宮城】
浦島太郎がたすけた亀に連れてこられた神仙境。海神の宮。世界各地に同様の伝承がある。
【文化人類学者のマリオン教授】
オリバー・サックス『火星の人類学者』。
マリオン夫妻については執筆中に思いついた。ひとりは植物学者で確定し、あとひとりをどうするかで上記ノンフィクションから拝借した。
【侍】
将軍を頂点とする武装兵。とくに貴人につかえるものを指す。
ただ武装しただけのものは武士となる。
【日本】
ユーラシア大陸の東の果て。太平洋に浮かぶ島嶼国。独特の文化をもつ。
1541年、ポルトガルによって発見された。
【黒澤】
黒澤明。映画監督。
【キューブリックにカーペンター、スピルバーグ、キャメロン、スコット、富野、ノーラン、コスタンスキ】
スペースSF映画の巨匠たちという人選。ならばジョージ・ルーカスがいないのはおかしいわけだが、ぼくは『スター・ウォーズ』が苦手なのだ。
順にスタンリー・キューブリック 、ジョン・カーペンター、スティーブン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロン、リドリー・スコット、富野由悠季、クリストファー・ノーラン、スティーヴン・コスタンスキ。
インド系か南米系の監督をいれたかったが、スペースSFを撮っている監督を寡聞にして知らない。
コスタンスキは『ザ・ヴォイド』『サイコ・ゴアマン』の監督。どちらも地球が舞台だがスペースSFだと思う。宇宙を感じる。
『ガンダム』はきっと六世紀後にものこっている。
【『椿三十郎』】
黒澤明監督の不朽の名作。『用心棒』の続編でもある。どちらもエンタメの教科書。
『Sanjuro』は海外で公開されたときのタイトル。
【居合ともちがう独特の技】
弧刀影裡(ことえり)流居合術をもとに殺陣師・久世竜が考案したとされる。技名は「逆抜き不意打ち斬り」。
【電子立体ガイド】
宇宙人類はおおかた電脳化されている。吸収されない生成蛋白質を部品とした有機ナノマシンを埋めこんでいる。クローネンバーグの『イグジステンス』的な。
電子立体としたのは、映像よりももっと幻覚にちかい視覚作用だろうとかんがえられるから。現実の風景に電子立体が重なっているイメージ。
【カーマン・ライン】
宇宙空間と大気圏のあいだに引かれた架空の線。
【ゼウスガーデンの鮫入りプール】
小林恭二の傑作『ゼウスガーデン衰亡史』から。
【カメラ越しではない海はギラギラと光っていた】
嘘である。テラフォーミングしたとして、エウロパは南国のような気候になるとは思えない。むしろ寒いはずだ。そもそも氷結衛星なのだ。光が充分に届くかもあやしい。
人類は環境を暖めるのは得意だから、なんらかの技術を開発したのだろう。
南国的環境にしたかったのは、頭のなかでは鶴田謙二の絵だったからだ。氏の描く、かぎりなく天国や秘密基地にちかい南国のイメージが根底にある。
【旧式の電脳ゴーグルで海中を視ていた】
温泉島の住人たちは電脳化していない。ゆえに外部機器を必要とする。
筏の下に全周型スキャニングソナーがとりつけられ、採取したデータを電脳ゴーグルで視ている。ゴーグルには小型マイクがつけられ、ペンギンたちに埋められた受信機と同期している。
【エウロパの海水は地球にくらべてずっとつめたい】
水深が一定で高低差がなく、大陸も存在しないエウロパに海流が存在しない。木星の重力で強大な潮汐力が働いているから、海水は攪拌されているはずだ。太陽との距離もあるから、そうあたたかい海ではないだろう。
本来ならば、ぼたんはウエットスーツを着ていなければおかしい。しかし全裸で登場させたい。だから毛布があることにした。便宜上、毛布としたが、熱遮断効果のある吸水性の高いうすくて軽い素材でできている。なにかはわからない。
【高倉ぼたんは刺青を見せつけて、豪快に笑う】
鶴田謙二の絵で想像していたから、前述のとおりヒロインは全裸で登場する予定だった。
ただの全裸だと物足りないとヒロインが文句を言うから、唐獅子牡丹の刺青をいれた。椿に関して言及しているから牡丹だろうという安直さだ。唐獅子牡丹ならば、背中で泣いてる『昭和残侠伝』の高倉健だ。そこで名前も決定した。仁義を切るとは思わなかった。
【石村温泉郷】
日本にちなんだ宇宙船といえば、『DeadSpace』のUSG ISHIMURA(石村)。
あるいは『エイリアン3』に登場する企業ウェイランド・ユタニ(湯谷)。湯谷温泉郷だと「ゆや」読みで実在するから却下。惑星採掘船である前者に決定した。
怪物も出てくるし。
【ペンギンたちは浴場にも勝手にはいってくる】
『新世紀エヴァンゲリオン』の温泉ペンギン・ペンペンがもとになっている。
赤い飾り羽もここからきた。
当初エウロパペンギンは背中に太極図の模様があり、縁起がよいため島民からたいせつにされているという設定であった。後述する漁獲量のため、ペンギンはほかの地域できらわれていてもおかしくない。イルカのようなものだ。その時代・地域の人類の営みによって好悪は変わる。
【エウロパの一日は長い】
エウロパは自転公転ともに八十五時間。昼夜がどうなっているのか調べてもわからなかった。計算できない作者は、話の都合に合わせることにした。
【ガガガー】
求愛中のペンギンは「ガガガー」と鳴く。
【辻には筆と墨、短冊】
嘘である。平安時代の、ラップバトルよろしく、あらゆることを詩で表現する風習と勘違いされている。温泉島の住人も日本の末裔を名告っているが、歴史的正確性はおぼろである。
【天の川銀河に御座すという女神】
織姫のこと。厳密には仙女であり、女神ではない。
天棚機姫神(あめたなばたひめ)と同一視される。商売繁盛や縁結びのご利益がある。
【僧房がひっそりと建っている】
神様仏様というように、本地垂迹(ほんじすいじゃく)で説明するまでもなく、神仏習合は日本人の精神性に馴染んだシステムだった。頭に浮かぶイメージはひとそれぞれだろうが、おそらくは人格神ではない。初詣で祭神を思い浮かべないのと同様、光明遍照十方世界念仏衆生摂取不捨と唱えても阿弥陀仏を思い描かない。衆生からすれば、ぼんやりとした神や仏という上位存在である。いちばんしっくりくる概念は、お天道様だろう。
このあたりのことは『ドロー・ア・クラウド』という長編に書いた。
ちなみに宮司と住職は囲碁敵である。
【禅問答】
不条理な世界を理解するための不条理な問答。
ネットにころがっているものをざっと眺めたただけだと、納得を超えてシュールの域に達しているという感想しか出てこない。研究者の解説を読むと前提となる仏教知識があれば理解できるような気がする。
師に質問をし、その回答をかんがえることで悟りにいたる。師弟の関係性や人間性、そのときどきの流れで質問の回答は変わる。なぜ変わったのかをかんがえることこそが、この問答の本質である。「不立文字(ふりゅうもんじ)」という考えが根底にある。仏教の本質はことばや文字であらわすことはできない、というのが基本思想である。禅とはテキストではなく、セッションなのだ。
【天鳥船神】
あるいは鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)。国譲りで建御雷神(たけみかづち)の副使として同行したとも、船そのものであったとも。『日本書紀』では蛭児(ひるこ)を乗せて流した船ともされる。
艦内神社の祭神にしようかと画策するが、船霊(ふなだま)信仰と混ぜたほうが都合がよいと思い直し、船と鳥の字が充てられた神様を探した結果。船霊は女神であるし、ヒロインともつなげやすい。
石村温泉郷という船を守る女神(人鳥匠)という図。
狛犬ならぬ狛ペンギンを配置するか迷ったが、やめた。神使はペンギンであってもよいだろう。御守りにはペンギンが刺繍されている。
【共通貨幣】
ドラクマは古代ギリシアで用いられた通貨の単位。
貨幣とは国家などの権力を後ろ盾とした「価値を持つとされる紙や金属」である。万人が「価値を持たない」とかんがえれば、ただの紙や金属にもどる。
宇宙時代における貨幣は仮想通貨であろう。ビットコインの創設者が目論んだように、それはあらゆる権力や統制を必要としない自由な通貨になっているだろうか。それとも、もっと厳格なシステムが構築されているだろうか。
【牡蠣オムレツ】
浅瀬のすくないエウロパでは貝類を採ることがむずかしい。
牡蠣は筏式垂下法で養殖されており、遺伝子改良で貝毒も除かれている。
オアチェンは台湾屋台の代表的な料理。おいしい。
【『ねぎまの殿様』】
古典落語のひとつ。おなじ構造をもつ『目黒の秋刀魚』とおなじく、殿様が庶民の料理に舌鼓を打つ滑稽噺。『美味しんぼ』ではじめて知った。
後述する『愛宕山』の唐突感をうすくするために、前もって落語の話をふりたかった。一万字バージョンでは、このあたりをごっそり削除したため、一対一の決闘をもりあげる『椿三十郎』の前振りも宙に浮いてしまっている。
【ジョン・カーペンター監督の『光る眼』】
傑作か駄作かの二択しかないカーペンター監督の作品中でも駄作寄りの侵略SFホラー。目を光らせるこどもたちは怖いのかどうかちょっとわからない。
【煙管】
煙草は贅沢品としてエウロパ内で流通している。
医療技術が進み、癌が未然に塞がれるような未来において、現代の健康を害する酒や煙草や脂たっぷりの炭水化物料理はまた復権していてもおかしくない。代替品となる、お手軽な電子ドラッグもあるため、富裕層への贅沢嗜好品になっている。
【浮島式】
船を島としてとどめる。移動しないのであれば、深海七十キロの海底にアンカーを打ちこんでいるはずだ。熱水噴出孔から吸引する技術があるのだから可能だろう。
肝要なのは波をどうするかだ。
エウロパには海流が生じにくく、代わりに木星の重力による潮汐力が働いているから、波はある。おおきな波は驚異だ。資源採取船は消波振動を起こすことで、周囲の波をうち消している。
【竹】
塩水につよい竹はマングローブのように塩を濾したり、葉に貯めて本体から落としたりしている。塩の貯まった葉は料理の味つけなどにつかわれる。
竹の使い途は作中で示したとおり。
【竹の花】
開花による枯死は嘘である。嘘とまでは断言できないが、あやしい説だ。
専門家の著書によると、開花の周期が長くなるのは土中の栄養状態と関係しているのではないかという説がある。開花による枯死は淡竹で起こるとされているが因果関係は不明。迷信俗説の類いだろうとかんがえられる。
有性生殖を選択したゆえに枯れる、というのが本作にぴったりであったため、こう表現した。
【『愛宕山』】
古典上方落語のひとつ。
はじめて聞いたときから、竹の大仕掛けを使いたくてしかたなかった。島田荘司ばりの物理トリックだと思う。もちろん、竹をしならせてもどる力で谷をのぼるというのは現実的ではないが、エウロパの低重力ならばあり得るのではないか。
おなじ理由で『メリーポピンズ』のように傘で谷を降りるのも不可能であろう。作者は不勉強なので、この映画を観たことがない。
【孵卵器】
人工子宮でもよかったが、受精卵を着床させずに成長させるのだから、孵卵器が妥当だとかんがえた次第。
【デザインされたこどもたち】
基礎能力のいずれかを飛躍的に向上させた人造人間。
この基礎能力の向上とはなんであるか。たとえば「頭をよくする」として、なにを向上させるのか。記憶領域を拡大するならば、外部記憶でもまかなえる。ひとことで学習能力といっても、なにを差すのかわからない。発想力を向上させるのは先天的に可能なのか。
けっきょくのところ現代技術では強化人間はつくれない。家畜がそうであるように、優れた能力を持つ種(語弊がある。ある一定の評価をもつが妥当だろうか。身体能力が優れているもの同士であれば身体能力が優れた子が産まれやすいといった曖昧さ)をひたすら掛け合わせるしかない。天才とはバグである。
【アキラ、アシュリー、ジョイス、ダコタ、ローレン、マリオン】
男女兼用の名前から選んだ。マリオンの名を持つものは頭脳明晰。
【地球文明遺産】
マリオン教授の主要研究テーマ。宇宙進出した人類の文系学者はこの問題にぶちあたるだろう。かといって、地球文明を否定することもできない。そもそも独自の文化なんて存在するのかという脱構築も含めて喧々諤々たる議論を捲きおこしているにちがいない。
【フォボス・プラント】
火星の衛星フォボスにある植物栽培実験施設。
【第二アレクサンドリア】
火星にある学術都市アレクサンドリア。大灯台はないが図書館はある。
【地衣類や腐生蘭】
地衣類とは菌類ではあるが藻類と共生しているものを差す。苔や黴のように見えるが、まるでちがう構造をしている。あるいは光合成をする黴とかんがえることもできる。
腐生植物とは、種子植物ではあるが光合成はおこなわず、菌類に寄生するものを差す。ギョリンソウが有名。とくに腐生蘭は種類が多い。葉緑体をもたないため、まっしろであったりまっくろであったりする。まるで森の幽霊のようだ。
マリオン医師は、この共生と寄生の研究者としてマリオン博士を評価している。
【『アダプテーション』】
マリオン博士の主著のひとつ。
意味は「適応・順応」、あるいは「小説などを改作すること」。
スパイク・ジョーンズ監督とチャーリー・カウフマン脚本の映画『アダプテーション』から。蘭コレクターを扱ったノンフィクションの映画化で、脚色するはずのチャーリー・カウフマンが、原作の起伏のなさに執筆で行き詰まってしまうというメタ映画。双子を演じたニコラス・ケイジの怪演が光る。
バカにしていたハリウッド脚本術の講演にて、主人公のカウフマンがおおきな影響を受けてしまうくだりが大好き。
【アスクレペイオン】
WHOのマークである蛇の巻きついた杖をもつ、医学の守護神アスクレーピオスを祀る神殿であり治癒所のこと。
作中世界では巨大な宇宙船で、内太陽系随一の医師・研究者たちが勤めている。どこにも所属せず、ゆえに法律も届かない医学船。国境なき医師団のようにイデオロギーに左右されない医療活動をおこなっている傍ら、違法な高額治療をも請け負う。
デザインされたこどもたちの発祥の地でもある。
【曾祖母が率いる一族だけ】
このあたりのエピソードはうまく収められなかった。物語上、《ぼく》が記者という部外者である必要があるからだ。できれば、べつの物語として呈示したい。
小惑星帯の岩石惑星の窖で、自身のクローンだけで構成した一族を率いる彼女の年代記だ。タイトルはそれとなく作中に示した。
彼女がたいせつにする赤い押花の正体もわかることだろう。
【青いドラゴン】
黒い墨も年月が経つと青くなる。だから、本来は黒龍である。
燃える蛇体をくねらせて剣に食らいつこうとするさまは、倶利迦羅竜王(くりからりゅうおう)の図柄だ。いわゆる博徒やヤクザの刺青を差す「倶利迦羅紋紋(くりからもんもん)」はここからきている。
【竹蜜酒】
竹の樹液を使った酒。自然発生するらしい。
タンザニアに「ラウンジ」という竹の樹液が発酵した酒があるという。酸味と甘味のある、微炭酸のお酒らしい。味はマッコリにちかいとも、カルピスのようだとも。いつか呑んでみたい。
【『子連れ狼』】
英語タイトルは『SHOGUN ASSASSIN』。若山富三郎主演の一作目『子を貸し腕貸しつかまつる』と二作目『三途の川の乳母車』をまとめたものをロジャー・コーマンが販売したとされる。
【お控えなすって】
仁義を切るとは、ひらたくいえば自己紹介の挨拶である。
身分証明であり、こまかな所作や作法ある。すこしでもまちがえてはいけない。
参考にしたのは『昭和残侠伝』の池部良の芝居。厳密にいえば、ぼたんの仁義はだいぶまちがっている。語呂のよさ、わかりやすさを重視した。
もちろん仁義を切る際に和太鼓は打たない。
【伝統的な宇宙服】
大気圧潜水服と宇宙服は似ている。
【花】
地球の熱水噴出孔に群生するチューブワームを差して、深海の花畑と評した文章があり、それが記憶の片隅にのこっていた。赤い触手がふわっとひろがるさまは花のように見えなくもない、と。スケーリーフットがもつ硫化鉄の鱗を外殻形成に充てたアイディアと併せたら、この形になった。
あとちょっと筍っぽくもしている。単体でふわりと海中に浮く筍。
エウロパの微生物があらゆる種と共生しようとしているというアイディアは、ジェームズ・キャメロン『アバター』の設定から着想を得た。ミトコンドリアが例として出てきたときは我ながら「おお」と思った。説得力。
【諸行無常、盛者必衰】
『平家物語』の冒頭に呈示される仏教の教え。なにごとにも終わりがある。
【侘び寂び】
茶道に代表される、日本の美意識。無常のなかに見いだされるうつくしさ。
“Wabi, Sabi and Shibui”とはイギリスの陶芸家バーナード・リーチが紹介した日本的美意識の概念。
【いつか地球の海が見てみたい】
これも作中で示せなかったが、ぼくの未来宇宙では地球は孤立している。軌道エレベータ爆破テロによってスペースデブリが帯状に蔓延し、通信こそできるものの、脱出も侵入もできなくなっている。
プロットだけはある『月を盗む』という中短篇のお話とリンクしている。いつか書きたい。いつかなんてこないかもしれない。しかし憧れは推進力である。