仮面聖女
第0話 私 トゥーリィ と申します。
プロローグ的に入れてみました。
街角で途方に暮れてしまった。道に迷ってしまったのよ。
統一性のない建物が並んだ通りが続いて、教え聞いていた道とは全然違うところを歩いていました。
到着したところの看板を読むと 'シュミット鍛冶屋' ガチムキの男所帯じゃないの。
帝都ウルガーターの城壁の外側に誰かが計画するわけでなし無秩序にできた街並み。道さえも城壁に沿っていたり、いきなり曲がったり、行き止まりにもなる。
あそこをまっすぐ行って二つ目の辻を左、すぐを右、それから二つ目の…三つ目、あれ、いくつだっけ? なんてやっているうちに迷子が1人できてしまう。
しょうがなく辻の一角に佇んで往来をボォーっと眺めていた。
キラっ…キラっ
すると視界に光が入ってくる。その光に目を向けると、子供が手に何かをもって歩いている。
日に翳すように持っていたんで、反射した光が目に止まったようだ。おっきい子と小さい子が一緒になってみてるんだ。
丁度いい、聞いてみよう。
「ねえねえ、光ってて綺麗なんだけど、それなにかな?」
頭の比較的高い位置に縁の黒い耳が出ている。顔つきから豹人族かとわかる。
周りを眺めていた時、往来にはヒト族、妖精族、ドワーフ族、獣人族、爬虫人族、多種多様に歩いている。
ここは、繁栄している帝都に入れないものたちが集まっている外縁都市なんだよね。
呼び止められて、こっちをみた子供が固まった。日に翳していたものを握り、胸の内に隠してしまう。訝し目にこちらを見てる。
そりゃあ、そうだ。私は、訳あって仮面をつけているのよね。額から目にかかるところが爛れていて痣にもなっている。隠すためにつけているんだけけど、程度の差はあれど怪しまれてしまう。
「ごめん、いきなりでごめんね。綺麗な光なんで気になっちゃって」
「これって僕のだからね。綺麗に光ってて。拾った僕のものなんだからね」
「そう、うん、そうだね。君のだよ。君から取り上げないから安心して」
未だに、怪しんだ目で見てくるんだ。
「本当に取らないから。実は、お姉ちゃんは道に迷ったの。よかったら教えて欲しいので す」
「なぁんだ、迷子なんだ。大きいのにだめなんだぁ」
くっ、この野郎。うっー。我慢。がまん。
「そっ、ダメダメ」
あっー、自己嫌悪。
「だから、助けて」
「うん、いいよ」
助けてもらえるなら、自分のプライドだって安いもの、捨てて見せます。
「パラスサイト教会ってわかるかな? この辺りって聞いたんだけど」
「知らなーい。それって美味しいの。お腹いっぱいになるの」
クゥー、この野郎。我慢、がまん。ギリっ
私は、歯を食いしばりながら首元から編紐を引き出して、常に身につけてないといけないタリスマンを取り出す。そして表面の刻印を見せてみる。
「ここに書かれている絵と同じのを見た時ないかな?」
豹人族の子供は、ジッとタリスマンをみて顔を上げる。そしてニッコリと笑って、
「知らなーい。見たことないや。ごめーん」
こっ、この野郎。まあ、でも仕方ないや。怒ってもしょうがない。
「もし、見かけたら教えてねー」
微笑み付きテでお願いをしておく。当てにはできないか。仕方ない。街の治安維持のために衛士の詰め所があるんじゃないか。そちらも探すとするか。
と、踵を返したところで、
「わたし、見たよ」
豹人族と一緒にいた子が言ってくれた。影に隠れていたんだね。大きい三角の耳が高いところから出ている。多分、顔つきから狼族かな。
「どこで見たのかな? えっとぉお名前は?」
「私、シュリンっていうの。よろしくね」
小さくて可愛くて赤い毛皮がモフモフなんだよ。手がワキワキしてしまいます。
「じゃあさ、シュリンちゃん。いつ頃見たのかな。ここから遠い?」
私は屈んでシュリンちゃんと目の高さを合わせて、聞いてみた。すると彼女は手を挙げて私を指差す。そのまま、指先を上に持って行ったところで、左側へ動かしていった。
私も、それを追いかけて視線を動かしていく。あっ。2件先の軒先に刻印と同じ意匠が見えた。なんのことはない行き足りなかっただけ。行き方は合っていたよう。私が抜けていただけなの。とほほっ。軒先の意匠も隣の店舗の看板に隠れて、丁度、屈んでみると見えるんだ。もう、私が見落としただけじゃん。がっくしと肩を落としました。
「ねえ、お姉ちゃん。シュリンは偉い?」
「うん、えらい、偉い。シュリンちゃんどえりゃあ」
えへへ
私は彼女の頭の毛をモフモフしてあげる。
そんな事をしていると視界に光が入ってくる
キラッ…キラッ
豹人族の子が、また、さっきと同じ物を掲げて光を反射して遊んでいるんだ。ダメだよ
そんな事をしてると光り物好きなカラスに取られるぞって思った矢先に、空から黒光するものが降下してきた。
羽を広げて、羽ばたいているから鳥かな?
鳥にしては、大きかった。よくみると体にモヤが付いている。瘴気だよあれ。瘴気を纏った鳥ってことれは魔族、悪魔………えーと、座学の試験で出たっけ、そうだラウムだよ。光るものが好きで集めるんだ。ななな
「なっなに!。これ僕のだよ。取らないでよぅ。痛い、痛い!突かないで、引っ掛けないで」
もう一体が降下してきた。豹人族の子供にラウムが上から集って来てるんだ。反射して光るものを取りに来たんだ。ライムは脚の爪で豹人族の腕や肩、背中なんかを引っ掻き、掴んだりしている。合間に嘴で光るものを取ろうとしたり、頭を突きー啄んでいく。
「お姉ちゃん、あの子痛かってるの、助けて」
立ち上がって見ていた私のトュニカの裾を引っ張ってシュリンちゃんは、私に助けを乞うてきた。縋ってくる円らな目、私の心が疼く。でも、まだ赴任の挨拶前なんだ。一悶着なんて事になったら、役立たずで返品なんて事になるかも。諦めの話をしようと彼女を見ると、涙を浮かべて私を見つめてくるんだ。私の心が動く。私はしゃがみ込み、彼女の瞳を覗く。
「エィゴウ・コンフィレェ 受託した。シュリンちゃん私がなんとかしくみるよ」
「お姉ちゃん ありがとう。お願いね」
彼女は私のトゥニカの袖に自分の額を擦り付ける。それは感謝の仕草かな。
私は両手を組み、主に乞い願う。
「フォセレ ・ヴェレ」
我は乞い願う
そして言霊を送る。
「エレクトゥリシティ<アングュラ>
雷撃
送った言霊に、どうやら主が願いを聞いてくれた様、全身の毛が総毛立つ。未だに獲物を襲っているラウムに向かって私は走り込んでいく。
そして豹人族を捕まえているラウムの足に私は、自分の手で殴りつけた。これやると全身ビリビリってしびれるのよね
パシンッ
鮮やかな火花が散っていく。それに驚いたラウムたちは翼を羽ばたかせ、高く舞い上がり獲物を残して逃げて行った。
「痛いよぅ、痛いよぅ」
腕の毛皮に血を滲ませて、豹人族の子は頭を抱えて縮こまっている。頭からも血が滲み出ていた。
「もう、大丈夫だよ、あいつら、どこかあっちへ逃げて行ったから」
「本当に?」
彼を覗き込んでいた私に顔を向けて、円らな目に涙を溜めて彼は聞いてくる。にっこりと笑って答えてあげる。
「うん、大丈夫」
「ありがとう。お姉ちゃん」
こんな円らな瞳で感謝されるなんて、キュンとしちゃいます。
「それはそうと、もうちょっと我慢できるかな」
「えっ何するの?」
豹人族の子は、何かされると思い、傷ついている腕で頭を隠す。
私は、それを見ながら、片手の指で簡単な印を組み、
再び、主へ乞い願う。
「ホセェレ・ヴェレ」
そして、言霊を送る。
「ヒール<クラティオ>」
「君の傷を治すのさ」
主に願いが届いた様、印を結んでいない方の手に淡い光が纏われる。私はそれを彼の頭と手に鍵していく。光が彼に注がれて、傷が小さくなり出血も止まり、治っていった。
「えぇっ、痛くなくなった。えっー傷もないよお。なんでぇ」
「へへん、それはねえ……」
「聖女の奇跡じゃよ」
私の喋りが途中で盗られた。いつのまにか、私の隣に初老の男性が立っている。
私と同じサフラン色のトゥニカを纏っている。首からは簡易のスカプラリオを下げている。白髪の混ざったブルネットの下には、年輪の様に刻まれた皺が顔を飾っている。
「奇跡?」
「そう、聖女様が主に祈願して初めて起こせる施術なんだよ」
「神様にお願いして治してくれたんだ」
「そう、施すのに対価として、どれほどの奉納がいるのか?」
「僕、お金なんてないよ。どうしよう……」
「それは、」
今度は私が話に割り込んだ。
「君の笑顔とシュリンちゃんの円らな瞳の可愛さに免じて……痛っいたたた」
私は男に耳を引っ張っられて通りの端まで連れて行かれた。
「お主、トゥーリィというのではないか?」
いきなり聞かれた。
「はい、トゥーリィです」
「聖協会本部から話が来ておる、聖女が行くからよろしくと」
「という事は、あなたはタダイ神父様ですね」
「いかにも」
「報告が遅れました。私が聖女………痛っいたた」
また耳を引っ張られる。痛いって耳が千切れちゃう。近くにある壁近くまで引きづられて、
「赴任前に無断で施術をしよって、奉納が取れぬではないか。往来で施術をしてサービスだなんて言ってみろ、全てがボランティアなんて言われた日には、聖協会が干からびるぞ。そなた、どうする気だ?」
「いえ、あの、それに、たとえばですね」
だめた。現実を突きつけられて言葉が出ないよ。
「まあ、良い。今回のはお前の給金から引いておく」
「えっー、そんなぁ」
てっいうか。給金なんて出てたの。もらった時ないんだけど。
すると、タダイ神父は私の耳を更に引っ張り、くっつくぐらいまで引き寄せて、小さく囁いてきた。
「わしにも教会主の責任もあるんだ。こういう時は、せめてわしの目が届かぬところ、人目のないところでやれ。小さい子とか、年老いたものとかじゃあ貰いようがないのもわかるのでな。教会も守銭奴ではあるが銭ゲバではないぞ」
私はタダイ神父から体を離して凝視した。
「生きるものすべてに遍く愛をが教義なんじゃよ。わかっておろう?」
神父はウインクまでつけて私を諭してくる。キモっ。
「わかりました」
狐に摘まれる感じがします。
「では、ついてきなさい」
私はタダイ神父の後について通りを横切り聖教会へと向かう。
そして途中にいる豹人族の子が聞いてきた。
「お姉ちゃん、名前は? 名はなんて言うの?」
「私かい。私はトゥーリィだよ」
私は腰に手を当て、腕を広げて、町の人たち届けと名乗りをあげた。
「本日付で、このパラスサイト聖教会に聖女として赴任します。トゥーリィと申します。以後、よろしゅう」
おっと、忘れちゃいけない。
「未だ、見習いの若輩者であります」
もちろん拍手などありませんでした。