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なろうでこそっと

 なんか聖教会本部から、お叱りに来られた。上位の文官で私が今回、やらかしたカタルシス、そう浄化の失敗(?)を咎めに来たんだと思う。



「いーですか、今回、あなたが施したのはカタルシス<浄化>ではなくてですね、メモリアルサービス<供養>なんですよ」



 小さい場末の建屋なんで、会議室なんてものはない。キッチン兼ダイニング兼リビングのテーブルに、私とタダイ神父がつき、反対側に高級そうな濃いビロードのベールとスカブラリオの肩衣を着た会計担当次官がついている。



「今回レベルの慰霊だと正聖女様が、最低でも3人でおこなうもの、お布施がいかようになるか、ご存知?」



 文官は額にできた皺を伸ばすように、指でグリグリと伸ばしながら、話を続けいく。



「しかも、ハンドベルひとつで行うなど'主と啓示受けし聖女様'への申し訳たちません。リラハープすら扱えないなんて、だからあなた見習いから成長できないのですよ」



 聖女となるには聖句に合わせて、奏でる楽器を弾くことが必須になっている。私は、それができないでいる為か、見習いのまんまなんだ。教会備え付けのオルガンは、かろうじてのレベルで弾けるんだけど、屋外で奏でる楽器なんで、てんでダメなんだよね。だから初級も初級のハンドベルを使って奏でたんだよ。



「と、諌めに参るはずだったのですが、事情が変わりました」

「「また、なんで?」」



 タダイ神父と私は声を揃えて上位文官に尋ねる。



「なんと、辺境公、ナヴァール公爵家、コールマン侯爵家から寄進があったんですよ。この施術に対する寄進です」



 途端に、上位文官の声質が変わり喜びの混じったものになっていく。



「王妹からも、トゥーリィあなたにお言葉をと、賜っています」



 私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。



『曽祖父と話ができた。奇跡も良きことだ。ありがとう』



 ほっとして、胸が熱くなって唇が綻んだ。



 聖女見習いである私の行いが、みんなに小さくても幸せを送ることができたんだ。



「それで本日は、このパラスサイド教会へ、おさげ渡しとして、これをお持ちしたのですよ」



 上位文官はデーブルの上に皮袋を置き、閉じていたも朱紐を解いていく。そして開いた袋の口から、金貨が数枚こぼれ落ちてきた。



「この金貨は教会の臨時維持費として、お渡しします」



 目に眩しい、汚れなき金色の輝きを見て、私は思わず、



「はじめてみましたよ、金貨なんて。スゲェー眩しいんですね」



 いつまでも見たい欲求から目を引き剥がしていく。



すると、上位文官はタダイ神父に尋ねた。



「あの聖句が載りし1枚、どうやら'啓示受し聖女'の自筆らしいのですが、タダイ神父、なぜあの者のパサールに挟まっていたのでしょう。本部からも問えとの連絡ありましたよ」

「そんなの分かりかねると伝えてくれ、パサールは見習いとはいえ聖女が自分のものへ書き記す書であるからな」



 タダイ神父は上位文官を見て、

「それこそオリジナルであるんだ。紛れ込むなんてありっこない。これは、それこそ」

「それこそ」



 文官がつなげる。タダイ神父も続ける、



「奇跡なんだろ、あの日、あの時に使いなさいという、'主'の思し召だね」



   はー



 文官は両の手で顔を覆い、息を吐いていく。



「本部、教導部でも同じでしたよ。じゃあお渡ししましたんで帰ります」



 そそくさと上位神官は部屋をて出て行った。帰ってしまう。



 「お見送りを」



 と私は文官を追いかけた。なんとか追いついて、少しがたつく玄関を開けた。



 途端に外から馬の蹄鉄の音、車輪の音が傾れ込んできた。



「なんですかぁ」



 慌てて、外を見ると4頭立ての見慣れたキャリッジが滑り込んできて停止したら、ドアが開き、



「トゥーリィ、聞きましてよ。昨日、大きな施術を叶えたと」



 文官の横で私は顔を手で覆ってしまう。できれば、会いたくない方なんである。みんな呼ぶ、レディ・コールマン。寄進をしてくれた侯爵家の魔法使いが出てきた。



 今日は、ブロンドの髪をきっちりと編み上げて外出用のドレスを着ている。如何にものお姫様だったりする。 



「お亡くなりになっているお婆様、目の前にあらわれて、私の髪を撫でてくれたのよ」

 

 彼女も昨日の興奮覚めやらないようで、興奮気味に捲し立てている。

 キャリッジの御者台から、



「俺んとこには、師匠が来たよ。なくなって久しいんだが、やはり頭を撫でられた」



 そこには正式な礼服を着こなしている、ナヴァール公爵家次男のロード・フィリップが馬車の手綱を持って座っていた。

キャリッジのドアからレディ・コールマンが言い出した。



「これで、これから除霊のお仕事も受けられますわ。頼みましてよ」



 私はげんなりした。なんせ、お化けとかは苦手なんですよぉ。

横で呆然と顛末を見ていた文官が、



「あなたも、大変かと思われますが、両爵家から多大な寄進を聖教会は受けています、不手際など無いようにお願いしますよ」



な、なな、なんですとぉ。あんたらグルかい。



 私は手を合わせ、祭壇の方を向いて、'主と啓示受けし聖女様'へ祈った。



「これも試練なのでしょうか?」







 後の話なんだけど、翌年から、この日は[イクノクショ]の日として、聖女が『メモリアルサービス<供養>』を行う日として決まった。なんか出汁にされた気がする。

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