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外伝 才能限界クソザコナメクジ一般現地冒険者の憂鬱①

 ■前書き
 6話ほど外伝。
 文明崩壊世界で才能のない一般人現地冒険者がどう生き足掻いているかを書き出します。

 ■注意事項
 作風が理不尽系ギャグ漫画日和にメタモルフォーゼします。
 主人公が才能限界クソザコナメクジ一般現地冒険者です(無能ではありません)

 ■登場キャラ
 鏡(かがみ)則之(のりゆき):一般無才現地冒険者。Lv.5(成長現界。才能ガチャ逆UR。無才の中の無才)。21歳。広いおでこが特徴。通称パッチ。外伝主人公。
 名瀬(なぜ)勇希(ゆうき):一般才能有り現地冒険者。Lv.12(才能ガチャSR)。17歳。火のように赤い髪が目立つ天真爛漫元気娘。荒谷の弟子。
 荒谷(あらや)迅路(じんろ):転生者。Lv.27(才能ガチャ確定UR)。39歳。前世からの酒カス。割とダメ人間。主人公ではない。敢えて言うなら前■■■■。

 ◆

 Fランクダンジョン、《形無き者どもの塒》。全3階層。パーティ基準の攻略推奨Lv.は3。ボスは水子霊(Lv.5)。それ以外はスライム、魍魎、木霊などが多い。
 最高位のAからFまでランク付けされた迷宮攻略難易度の基準では最低ランク。だが一般人にとっては野犬よりも危険な脅威が多数潜む魔窟である。一般人ですら可能な討伐法を確立したスライムも油断すれば呼吸器等を塞がれて死に至る危険生物なのだから。
 難易度と反比例するように数が多く、全国各地に多数点在するFランクダンジョンは一般人が最も身近に感じる迷宮災害の象徴。衰退しつつある地方過疎地にとって洒落にならない脅威だった。
 その一つ、《形無き者どもの塒》に今日も冒険者の悲鳴が響く。

「ッッッギャアアアァァァ――!! 死ぬ、死ぬぅぅぅぅ――!?」
「スライム如きで死なねーよパッチは大げさだなぁ……ヒック」
「あんた(Lv.27)は死ななくても僕(Lv.5)は死ぬんだよ酒カスゥ!?」

 ただし悲鳴に含まれる成分は大分ギャグ寄りであった。
 ゴロゴロと転がる合体スライム球に追いかけられ悲鳴を上げる真面目そうな雰囲気の青年、鏡(かがみ)則之(のりゆき)。その奮闘を他所に酔いに淀んだ目をした巨躯の男が野次を投げ、赤金色に輝く和風の具足をガッチリ着込んだ小柄な少女がハラハラと心配そうに見ている。
 これは彼ら、《東北ダンジョンライバーズ》の日常的な攻略風景だった。

:スライムに追い回されるパッチくんクソ雑魚過ぎてワロリンヌw
:いや無理だろ。スライムが集まりすぎてデカい球になってる……。
:古代遺跡に仕掛けられた謎の鉄球トラップみたい(直球)
:この酒カスこの期に及んで徳利片手にはたから見物とかマジで酒カスやな。

「あんたが横着してスライム誘引剤を使い過ぎたせいでこんなことになってんだぞ責任取って何とかしろぉ――!?」

:パッチが地味に真面目にスライム一匹ずつ潰してた最初は良かったんだが。
:カス「かったりぃなぁ。もっと景気よく行こうぜ(誘引剤ドバー)パ「ちょっ、おま……」
:配信者的には撮れ高。冒険者的には最低のカス。

 と、視聴者達から容赦のないコメントが酒カスこと荒谷(あらや)迅路(じんろ)を襲う。

「なおこの展開期待して視聴してた視聴者(トーホク民)いるー? 先生怒らないから手を上げなさい」

 が、迅路は徳利をあおりながら平然と視聴者へ逆質問を返した。面の皮が厚い。
 180㎝を超えるガタイの良さ。腰の帯に挟んだ鉄心入りのゴン太の木刀。この男、一見は逞しく精悍な冒険者に見えるがその実筋金入りのダメ人間だった。

:('ω')ノハイ!
:('ω')ノハイ!
:('ω')ノハイ!
:ひ、人の心……。
:東北ダンジョンライバーズは地方救済に勤しむ聖人パッチの苦難を眺める理不尽系ギャグ展開が持ち味だから。
:なお苦難の八割は仲間からもたらされるものとする。

「テメーら全員覚えてろ! 特にお前だ酒カスぅ!?」
「おう覚えとく……ふぁ~あ」
「師匠が大欠伸を……寝ちゃダメです、配信中ですよ!?」

:全く堪えてねえ。めっちゃ眠そうw
:蛙の面に小便で草。
:配信事故に慌てるユウキちゃん可愛い。
:もうとっくに配信事故(現場猫)だぞ。

「二人とももう配信始まってるんですから! 仲良く、笑顔で!」
「ユウキちゃんも注意より先にすることがないかなぁ!?」

:空気感ズレてて草。
:ユウキちゃんも見捨ててて草。
:このロリJK天然過ぎだろ草。
:お前ら草生やしてないでパッチの体張ったギャグに目を向けてやれよ。

「ギャグじゃねーよ命の危機ですっっっ!」

:その割には余裕じゃねーか。命懸けの逃走中なのでは?
:足を取られたら終わるな。
:パッチはレベル5で成長頭打ちのクソザコナメクジなのでやむなし。

「酷いですよっ! 確かにパッチさんはちっとも才能はないけどみんなのために精一杯ダンジョン攻略を頑張ってるんですから!!」
「ぐふっ……」
「あ、転んだ。ユウキがトドメを刺したか」
「ええっ!? 何故っ!?」

:背中から撃たれて草。
:本人は悪気がないの草。
:一番ダメージ入ってて草。
:パッチがスライムに呑まれて触手プレイされてしまう。

「――ってあああ! パッチさんがいつの間にかスライム大玉に飲み込まれて!?」
「ちっ、ああなっちゃしょーがねー。助けてやれ、ユウキ」
「はい、師匠! ユウキ、突貫します!」

:迷いがない。
:命令が出てから一秒でハルバード構えて突っ込んでるの怖いよ。迷いなさすぎ。
:師匠命令に忠実な暴走特急。

「パッチさん、いま助けます!」

 †《属性権限:火》†《ブースト》†《ステップ》†

:足裏から噴き出す炎を推進力に一気に前進!
:全身を鎧でガッチリ固めている癖に恐ろしく速い。
:東北ダンジョンライバーズの切り込み隊長は伊達じゃない。

「このまま、ぶった切りますっ!!」

 †《斧槍術 (初級)》†《属性権限:火》†《憤撃》†

:そのまま炎を纏ったハルバードを打ち下ろし!
:飲み込まれてビクンビクンしてるパッチを的確に避けてスライムを分割。
:下手すれば巻き込みかねないのに全く躊躇がないのすげえけど怖い。

「燃えろ!」

 †《炎弾》†

:分割したスライムもキッチリ焼いていく。
:分割体を放置したら挟み撃ちされるからな。
:あ、小さくなったスライム球がパッチを吐き出した。

「……………………っぶはあぁぁぁぁ! し、死ぬかと思った!?」
「気を付けろよパッチ。呼吸器塞がれて窒息死はスライム事故死あるあるだからな……ヒック」
「あ、はい気を付け――じゃねえ! そもそもあんたがやらかさなきゃ僕が死にかけることもなかったんだよ!?」

:パッチ、渾身のキレ芸。
:ツッコミ自体はマジで残当。
:酒カスも酒カスでLv.以外が問題ありすぎる。

「ちっ、あの程度のトラブルで根性が足りねーな。そんなだからハゲるんだよデコッパチ」
「ハゲじゃねぇぇぇ――!? 僕のは富士額だっっっ!?」

:文字通りツッコミに命を賭ける男。最近は額の生え際も賭けてる。
:本当なら迷宮災害に苦しむ地方再生に人生を懸けるはずだったのに……。
:どうしてこうなった。

「……はぁぁぁ。組むパーティを間違えたかな」
「そんな……私、力不足でしたか?」
「いや、ユウキちゃんじゃなくてね? 問題は君の師匠の方――」

:ユウキちゃん泣かせてんじゃねえぞデコッパチぃ!
:デコの生え際引っこ抜くぞハゲ!
:そのデコはただの飾りかデコぉ!?

「デコハゲうるせぇぇぇぇ――!? 僕のは富士額ですぅー! 富士額はなぁ、出世するって言われてるんだぞ!?」
「おいおい血圧高いな。トーホク民と喧嘩してないでこれでも飲んで落ち着けよ」
「一番文句を言いたいのはテメェだよ酒カスぅ!? 鉄拳制裁!!」

 と、飲みかけの徳利を押し付けられてキレたパッチが一切の容赦なく大上段に構えた木刀(霊木製。攻撃に微弱な光属性付与)を振り下ろす! その狙いは酒カスこと迅路の脳天だ。

「あいたっ!? パッチてめぇ仲間に向かって暴力を振るうたぁどういう了見だ!?」
「仲間見捨てて酒あおってるカスに言われたくねー!? 上等だ、ここで会ったが百年目ぇ!!」

:鉄拳制裁と言いつつ木刀振り回してんじゃねえか草。
:なおそれくらいやらないとツッコミにもならないという悲しい現実。木刀でぶっ叩いてるのにタンコブもできやしねぇ。
:Lv.27とLv.5の根本的な地力差がね……。
:ユウキちゃんのLv.12といいデコボコトリオが過ぎる。

「そ、そんなことないですよ!? 私達、とっても仲良しパーティなんですからっ!?」

:それはそう(深々と頷く)
:まあ能力の相性が良くても性格が合わなくて解散とかよくあるからな。
:なんだかんだで仲がいいと俺は知ってる(後方理解者面)
:デコッパチ! 酒カス! ロりJK! ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!
:でも才能頭打ちのパッチが足を引っ張ってるのは事実なんだよなぁ。

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