お久しぶりです!
いつか書きたいと思ってたバレンタインの話を書きました(もう過ぎてる)。お待たせしておりますしいつも読んで下さっている方々への感謝も込めてです。本当にいつも読んで下さりありがとうございます……! ホワイトデーの話は……書けるか分からないですがとりあえずバレンタインの話をどうぞ(笑)!
ではでは、また次回も楽しんでいただけると幸いです。
<ロゼフィアとジノルグの場合>
「はい」
仕事が始まる前。目も合わさずに腕だけ伸ばす。
そんなロゼフィアに対し、ジノルグは目をぱちくりさせた。
見ればリボンで綺麗に包装されている箱だ。
どことなく、甘い香りがする。
ジノルグはなんとなく気付いたが、ふっと笑う。
そしてわざわざ聞いた。
「これは?」
「…………」
ロゼフィアは渋った顔をする。
どう見ても言いたくない様子だった。
だが、根気比べはジノルグの方が負けてない。
しばらく両者共黙ったままだったが、ロゼフィアの方が折れた。
「皆で作ったの」
「そうか。他にもあげたのか」
その声色は普通だったが、どこか残念な風にも聞こえた……かもしれない。だがロゼフィアは、あえてジノルグの言葉を拾った。
「ええ。お世話になってる人達には皆、ね」
あくまで強調しておく。
こういうところが意地っ張りだ。……なんて、自分が一番分かっている。確かに皆にもあげたが、それでもジノルグのは特別だ。一人だけ別の物にし、きちんと箱にも入れた。リボンも丁寧につけた。
が、別にそれをジノルグに知ってほしいわけじゃない。
ロゼフィアは目線を合わせずに急かす。
「ほら、開けてみて。我ながら上手くできたから」
「ああ」
リボンが解かれる音が聞こえた。
ぱかっと箱を開ければ、そこにはココアパウダーがまぶしてあるトリュフが出てくる。ジノルグは一つ口に入れた。ほろ苦い甘さと、かすかにお酒の香りがした。どうやら大人好みの味にしてくたらしい。ロゼフィアなりに考えて作ったのだと知り、ジノルグは頬を緩める。
「美味しい」
「それならよかった」
ロゼフィアの声が少しだけ高くなる。
隠しているようだが、ほんの少し嬉しそうだ。
「ちゃんとお返ししないとな。何がいい」
「え、別にいいわよ。日頃のお礼だし」
慌てた様子でこちらに顔を向ける。
やっと目が合った。
ジノルグはにこっと笑う。
そっと彼女の頬に触れた。
「俺がしたいんだ。ロゼフィア殿の喜ぶ顔が見たい」
「え、別に……そんな……」
たかがチョコレートを渡しただけでそこまで言ってもらえるほどの事ではない。どうしていいか分からず、思わずしどろもどろになる。とりあえず何か言わないとと思い、咄嗟に言葉に出した。
「じゃあ、ジノルグの作ったお菓子が食べたい」
「……お菓子?」
ロゼフィアは必死に頷く。
剣術もでき、人柄も良く、なんでもできそうなイメージがあるジノルグだ。案外料理やお菓子作りなんかも上手なイメージがある。だからちょっと興味があった。
ジノルグは少しだけ考える素振りをする。
少しだけ首を傾げた。
「お菓子か……あいにく料理はするが、作った事はないな。それに、美味しいかどうか分からないぞ」
「いいのよ。味じゃなくて、気持ちが大事なんだから」
「……そうか。じゃあ来月、一緒に出かけよう」
「え?」
「その時に作ったお菓子を渡す。いいだろう?」
「え、ええ。別にいいけど……」
なんで出かける必要があるのだろう。
そう思いつつ、とりあえず承諾する。
「殿下に呼ばれてるから、今から行ってくる。また後で」
ジノルグが行ってしまった。
残されたロゼフィアは、やはり疑問に思った。
「出かけるって……別に出かけなくても……買い物したいとか?」
むしろジノルグが出かけたい、と言う事自体珍しい。
だが、すぐにまぁいいか、と思ってロゼフィアも研究室に向かった。
ちなみにそんな二人の様子を見ていたサンドラ&研究者達は同じ事を思った。
((((それデート……!))))
<エマーシャルとヒューゴの場合:少しは仲良くなった頃の話>
「すごい量ですね」
エマーシャルが開口一番にそう言ったのは、ヒューゴ宛に大量のチョコレートが届いていたからだ。普段はよく他国へ行っているが、寮には自分の部屋がある。ちなみに届いたそれをどうしようかと考えていた時にエマーシャルが訪ねて来た。
「……何しにきた」
用事がないと来ない事は分かっていたが、なぜだかこの光景を見られたくなかった。若干顔を引きつらせながら聞けば、予想通りエマーシャルは鼻で笑う。
「あなたの部屋に行けば面白いものが見られると噂になっていたので来たまでです」
「お前もか」
ちなみに他の同僚達も見物に部屋の前まで来ている。
大量のチョコをあまり見た事がないのだろう。面白げに勝手にメッセージを読んでいたりする。
ヒューゴは腕を組んで鼻を鳴らす。
「別に物珍しい事じゃない。ジノルグだって大量に」
「ジノルグ様にはロゼフィア様がいるから今年は誰も送ってないそうですよ」
「…………」
毎年ヒューゴのみならずジノルグにも大量にチョコが届く。この時期になるとよく一緒に数を数えたものだ。ジノルグの方が数が多いならそれは当たり前だと称賛し、ヒューゴの方が多かったらそれはおかしい、見る目がないと嘆く。毎年一緒にそうやって過ごしていたというのに。
今年は自分だけか、とがっくり首を下げる。
こんなにもらっても全く嬉しくない。何を楽しみに過ごせという。
積み上がり過ぎて部屋に入りきらず、扉の外まで溢れているくらいだ。毎年この時期になると、自国のみならず他国からもチョコが届く。伝令役であるからこそ知り合いが増えるのだが、同じようにチョコまで増えなくていいのに。
「それにしてもすごいですね。どうするんですか。全部食べるんですか」
「……他の騎士にも手伝ってもらったり、もらってない奴にあげたりしてる」
「うっわ女性の気持ちを踏みにじってる」
「むしろいっぺんにこんなに食えるか……!」
確かに一年に一度の大切な日かもしれない。
女性側からしても、一生懸命作ってくれたに違いないだろう。
……が、こんなに愛あるプレゼントをされても腹が壊れるだけだ。
「いいから、なんでお前まで来た。こっちは処理で大変なんだ。さっさと帰れ」
「…………」
するとなぜか黙りだす。
ちらっと見ると、目が合った。
エマーシャルは早口に言う。
「そうですね。ちょっとふざけすぎました。帰ります」
そう言ってそそくさとその場を後にしようとした。
「待て」
「……なんですか帰れと言ったり待てと言ったり」
「その手に隠してるものはなんだ」
「……別に、何も」
だが明らかに何かを持っていた。
そして、それを隠していた。
ヒューゴは溜息をつく。
「俺にだろう。くれ」
「自意識過剰ですね」
「っうるさいなだったらなんで隠すんだよ」
「嘘です」
そう言ってすぐに差し出してくる。
袋に入ったそれは、リボンがされていた。
あまりに素直で少し驚きつつ、袋の中を取り出す。
見ればクッキーのようだ。星や丸など、色々な形がある。
「甘いものはそこまでお好きじゃないと聞いたので。あっさりしたものにしました」
「……今日はチョコレートを贈り合う日だろう?」
「別に私はチョコレートを渡しに来たんじゃありません。お菓子を渡しに来ただけです」
どんな屁理屈だそれは。
だが思わず鼻で笑う。
「もらっておく」
「あら。今食べてくれないんですか」
いちいち一言多い。
だが相手の意図も組んで、一つ取り出してかじった。
香ばしい風味にちょうどいい固さだ。
確かに甘すぎず美味しい。
「ああ。上手い」
「そうですか。ちなみにそれ、当たりです」
「?」
「では、お返しは三倍返しで」
「お前、さっきお菓子を渡しにきただけって……」
逃げ足が速いとはこの事か。
いつの間にかエマーシャルはいなくなっていた。
呆れつつも、持っているクッキーに目を向ける。
……なるほど。当たりってそういう事か。
見ればそれはハート型だった。