「蜂蜜を所望する。結晶化しやすいものが好い。アカシアやトチはさらさらなので、それ以外で頼む。ニュージーランド産が美味らしい」
王命(末っ子のおねだり)を賜り、私は蜂蜜を求める旅に出た。
仕事をすると言いながら、買い忘れに気づいた為、外出するついでである。
買い物メモを取ったはずであるが、メモそのものを忘れる失態。
無事、資材を買い求め、次の店に向かう。
蜂蜜売り場に近づくと、足元に蜂蜜のボトルが転がってきた。
私は恭しく片膝を着き、拾ったボトルを売り子の姫に手渡す。
これは運命の出会いかもしれない。
ちょうど良い機会なので、品出しをする姫の隣に立ち、どれがおすすめであるか聞いてみることにした。
「アカシア以外で結晶化しやすいものを……ニュージーランド産はありますか?」
「国産、中国、アルゼンチン、バングラデシュ、カナダしかないです」
「そうですか。この自社開発製品はどうですか?」
「ああ、不味いからそれだけはやめた方がいいですよ」
正直にも程がある。
「おもしれー女」である。
危うく恋に落ちるところだ。
ツボに入り、しばらく笑いの止まらぬ私に、生温かい微笑みを向けた姫は、綺麗な角度でお辞儀をして、次の品出しに向かったのである。
蜂蜜は国内有名ブランドの定番商品(レンゲ蜜)を買った。
王にご満足いただけると良いが……。
城へと続く沿道には、満開の桜が咲き誇っていた。
(続かない)