「小僧……いや、玲司と言ったな」
晴れやかな声で、建造が玲司の名を呼んだ。
「ああ」
短く、玲司が応じた。
「では、玲司よ——わしの乳首を押すが良い」
「…………。…………?」
建造の言葉の意味が分からず、玲司はしばらくフリーズした。
「むぅッ? どうしたッ! 早くわしの乳首を押さぬかッ、玲司ッ!」
眉間に皺を寄せて固まった玲司を、建造が急き立てる。
「——いや待て、ジジイ。……てめぇは一体何を言ってやがるんだ?」
乳首を押す——という言葉の意味も、行為の意味も理解出来ず、玲司は頭を抱えた。
「わしの乳首は殺戮百機夜行《デスパレード・マーチ》の——緊急停止ボタンなんじゃッ!」
建造が高らかに吼えた。
はっとした玲司が、建造の胸部装甲に視線を走らせる。
——たしかに、そこには二つのボタンが付いていた。
「なん……だと?」
玲司が、今日一番の動揺を見せた。
額に、汗が滲んでいた。
「今は他に止める手立ては無いッ! お主のせいでわしではもう押せんッ! お主しか出来んのじゃッ! さぁッ! 早よ押さぬかッ!」
両腕の無い建造が、これ以上ないほど胸を張って、二つのボタンを玲司に差し向けていた。
玲司は——男らしく覚悟を決めた。
建造の元へ一歩踏み出し、床に座った建造の前にしゃがみ込んだ。
右手の人差し指を、建造の左ボタンの前へ——。
「両方同時じゃあッ!」
建造の声に従い、玲司は左手の人差し指を、建造の右ボタンの前へ構えた。
「うむッ! いつでも良いぞッ! さあッ! 全力で押すが良いッ! 玲司ぃッ!!」
建造のやたらと喧しい声が、玲司の耳の上を滑っていった。
玲司は目を閉じ、天を仰いだ。
ゆっくり目を開くと、抜けるような青空が広がっていた。
その空の向こうに、玲司は思い描いた。
妹の歌恋の、満面の笑みを。
にぃに——。
青空の彼方から、歌恋の優しい声が聞こえた気がした。
歌恋……にぃには頑張っているぞ——。
最愛の妹の声援に背を押されるように、玲司は二つのボタンを、同時に押した。
「おほぉッ!?」
「……変な声を出すんじゃねぇ、ジジイ」
現実から目を背けるように、遠い空の向こうへ遠い目を向けながら、玲司はどこまでも歌恋に思いを馳せていた——。
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読了ありがとうございました。
少しでも面白いと思っていただければ幸いです。
というわけで、セルフ没にした部分を公開してみました。
……まぁ、何と言いますか、玲司くんは良く頑張ってると思います。
あと、本編のシリアスな余韻は完全にブチ殺してるなぁと思うのですが、こういうノリそのものは嫌いじゃないなぁと思ったりするのです。
なので、あくまでも本編に無関係の幕間コントだと思っていただければ良いのかなぁと思います。
冷静に考えると殺戮百機夜行の停止スイッチが乳首に付いてる意味も分からないし、そりゃセルフ没にするしかないんですよね。