時系列は黒天球攻略前になります。
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「最近、副団長の様子がおかしい……」
魔王国騎士団の騎士の一人が溢したその言葉に、訓練終わりの騎士達がたむろしている中庭が静まり返った。
男騎士達は大いに頷き、女騎士達は自分達の好物の話題に目を輝かせた。
副団長、ゼラ。
その美貌と強さから『黒夜姫』と謳われる彼女は騎士達の憧れの的だ。
まだ若くしてその地位に相応しい気品と覚悟、気概から彼女を蔑ろにするものなどこの魔王城には存在していない。
男達は強さと美しさに悶々とし、女達は同性ながらもその凛とした振る舞いに頬を染める。
だが、
「……なんか……訓練にも身が入っていないというか………」
「ああ、それは俺も感じていた」
「だよなぁ……なんか悩みでもあんのかなぁ………よっし!ここは俺が悩みを………!」
「やめとけやめとけ、あの副団長が悩みなんて話すわけないだろ」
「そうか?意外に……ほら、副団長も女の子だし!」
「うーん………そうかぁ?」
すると、男達の半ば妄想とも言える話し合いに割り込む面々が現れる。
「ふふふ、なにもわかってないわね」
「そうね、これだからお子ちゃまは……」
「都合のいいようにしか見れないんだから」
「お……お前達はッ!」
ポーズを決めながら偉そうにそう割り込んだのは三人の女騎士。
人呼んで恋話三人衆である。
男達の脳裏に嫌な予感が走った。
そんなわけがない……あの副団長が……憧れの副団長が……。
しかし、三人衆は無慈悲に告げる。
「副団長はね…―――恋をしてるのよ!」
「嘘だッ!!」
「んなわけねぇだろッ、ふざけんな!!」
「ふーん、まあ、嘘だと思うならいいわよ……」
「ああ、嘘だね!副団長に限ってそんなわけがない……大体そうだったとして、相手がいねぇだろうが!」
「これだからお子ちゃまは………」
「お前それしか台詞ねぇのか!?」
騒々しさを増す中庭は混沌の坩堝だ。
そこに、渦中の人物が姿を現した。
「お前達、なんの話をしている。訓練はもう終わったはずだが……」
「ふ、副団長!」
いつもと変わらないゼラ。
最近は前に増して凛とした様子に見惚れながら騎士達は挨拶を返す。
そうだ……彼女が恋なんて……。
男達は淡い夢を抱きながらそう自分に言い聞かせる。
すると、恋話三人衆が仕掛けた。
「副団長~!そういえばさっき―――執事くんが探してましたよ~」
「そうそう、なんか話があるとかないとか……」
「大切だとかなんだとか……」
「は!?お前らなに言ってんだ!?」
「バカっ!執事……って、あの人族だろ?……副団長に人族の話するなんてなに考え………て………」
突然の三人衆の凶行に騎士達は焦りを募らせる。
ゼラに対して人族の話など禁句中の禁句だ。
男達は戦々恐々としながらもゼラの様子を伺った。
だが、そこにあったのは想像のどのゼラとも違った様子だ。
「リュ、リュートが?そ……そうか、話………すっ、すまない、きゅ、急用ができたので失礼する」
その名前を呟く彼女の顔が、態度や目線が、三人衆のにまにまとした笑顔が、ゼラの気持ちを代弁していた。
そして、場を去ったゼラの背中を見る男達は呆然と口を開け悲嘆に暮れる。
「あぁ……終わった……」
「まじ……かよ……」
「………貯めてた給料……どうしよ……」
「きゃー!副団長ったら可愛いぃぃ!」
「副団長も女の子だしねぇ……」
「執事くん……狙ってたのになぁ」
これは騎士達の公然の秘密の幕間である。