• 創作論・評論
  • エッセイ・ノンフィクション

57.5 お土産


「これを私に?」
 差し出された紙包みに、胡乱げな視線を向けるガルタ。
「うん、遠江戸土産だよ」
「土産って……私も一緒にいたではないか」
 まったくこの男は何を考えているんだと、ガルタは呆れる。
「エルナに買ったついでだよ」
「やっぱり、そんなことじゃないかと思った!」
「なんだよ、怒るなよ。じゃぁ、あげない」
「貰ってやる!」
 紙包みをタケルの手から奪ったガルタは、袋を開けて中身を見る。なにやら木製の……櫛か?
「なんだ、これは?」
「櫛だよ。髪を漉く奴」
 櫛を手にしたまま、ガルタはタケルを見つめる。その目には不信感が漂っている。
「……嫌みか?嫌みなんだな」
 ガルタの赤い髪は、硬いくせっ毛だ。毎日エルナの長くしなやかな髪を見て、憧れのため息をついていることは、彼女だけの秘密だ。なのに、|この男《タケル》はガルタのコンプレックスをえぐるような贈り物をしてきたのだ。ガルタに小さな怒りが湧く。
「いや、ガルタの髪は綺麗な色をしているからさ、櫛で毎日すけばもっと綺麗になるかと思って」
「は?」
「これはどうか知らないけど、地球の柘植櫛は、使っているうちに油が出て髪に艶が出てくるんだよ。試してみて。それじゃ」
 そういって、タケルはスタスタと去って行った。
「私の髪が……綺麗?」
 ガルタは櫛を見ながら、知らず知らずに頬を緩めるのだった。



「おお!友よ!わざわざ土産など用意しなくても良いのに」
 クリスは、タケルから渡された紙包みに大げさな反応をした。
「いや、ついでだし。日本風の雰囲気に囲まれたら、なんとなくね」
「そうか。ありがたくいただいておくよ。ところで、これは何に使うのだ?」
 紙の包みから出てきたのは、根付けだった。
「これは印籠……って言っても判らないか。自分の持っている小物に付ける飾りだよ」
「なるほど、この紐で縛るのだな。うむ。ありがとう」
「どうしたしまして」
 土産を渡し終えたタケルは、自室へと帰っていった。残されたクリスは根付けをじっと見つめる。
「飾りなのは判るが、これはなんだろう?」
 クリスの目の前で、カエルに似た生物の人形が、ゆらゆらと揺れていた。


コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する