• 詩・童話・その他

神さま、ぼくは…あのころから変わってしまったよ…

「ぼくは…今のままじゃ誰ひとり守れないんだ…
ぼくにもっと力があれば…!」

孤独なヴィランはひとり公園にて
晴れ渡る空を見上げた
そのときだった

力が…欲しいか…

ジェレミーは瞬発的に自我を呼び覚ます
天からの強者の声に
思わずベンチから立ち上がって反応した

「なんだよ、この展開!?
父上…?
って、まだ城にいるはず…」

辺りを見渡すジェレミーに
天からの使命が彼の要望に応じるように
光を増して告げた

ヴィランのプリンスよ
おまえに力を授けてやる…!

そうして、闇落ち少年に
新たなひとつの神器が与えられたのだった

「わあ…変わった武器だね」

ジェレミーは5キロある神器
鉄製のダンベルを拾った
ちょうどガラスの靴を手にしたときのように…


これを持っているだけで
おまえは無力じゃない


眩い一筋の光は王国に帰還した彼に
そう言い残して空に消えた

ジェレミーは5キロもするダンベルを
その辺に置いてそっと転がしておきたくなった




思い返せば彼は結婚相手を早く見つけ出さないと
舞踏会の恥を苦に深夜にひとり結婚式の
リハーサルを開始したおかげで
ベイカーさんから呆れ果てた顔をされたショックで
自分から城を出ていったのだった…!

次の満月の夜までに彼の花嫁となる予定の
ダンスパートナーだった金髪の少女を探し出して
自分の城に証拠品のガラスの靴を
持参して帰らないと
王子である彼はなんともうすぐ自分自身と
結婚する身の上だったのだ

天の声に導かれ坂道を下るジェレミーは
鉄アレイといった新たな武器を手にしていたが
案の定転んで倒れた拍子に
鉄アレイを手放してしまった…!

「しまった!」

あまりの重さにバランスを崩したジェレミーは
思わず声に出すのが精一杯だったが
鉄アレイは坂道で加速していき
当然止まってくれるはずないのだ

慌てて追いかけるジェレミーは
通りすがった見知らぬおばさんに
ぶつかってしまい
肩の痛みに耐えて
謝って走り去ろうかと考えたが…

「あら、かわいい坊や
こんなところで逢えるなんて
もしかして…運命?」

「あ、ああ、もう一度
逢えたらそうかもね」

ジェレミーは口から出任せをいって
その場を離れて鉄アレイのあとを全力疾走する

もう考える余裕がない彼は
お店のドアの近くの方で鉄アレイが
差し掛かるかと思ったが
トレイを手にした若い女性店員が
鉄アレイに気付かず足で踏んでしまい
シェフの日替わりランチを
うっかりひっくり返してしまった

「な、なにがあったんだ?」

「店長!
大変です!
うちの店員が店頭で転倒しましたあああ!」

「ばかをいうな!
そんなこと一体誰が…!」

「大丈夫ですか!?
お怪我はな…」

「なによ!
あなたなんなの!?
痛いんですけど!」

駆けつけたジェレミーが
女性店員に声をかけていたが
どう見ても王子として店長から
認識されなかったようだ

女性店員からビンタをくらわれた彼は
店長から反省している表情を見て
この一件は悪気がなかったと判断されて
この通行人の少年が鉄アレイを故意に転がして
遊んでいたことではないという事実は
国民に信じてもらえたのだ

ガラスの靴の代わりに天からの使命を果たした
ヴィランの王子ジェレミーは
明日の記事の売り上げと新聞記者の日ごろからの
働きぶりに貢献した



「…父上、ぼくは…
舞踏会で見たあのひとがまだ見当たらないんだ…」

夕暮れを迎えた彼は心ここにあらずな心境で
ガラスの靴の持ち主である
金髪の少女の指にはめる予定だったものを
バッグから取り出したあとで気付いたが
一度地面に落ちて跳ねた金属製のそれが転がっていき
誰か知らない女性の靴のまえで
それは静止して拾われた

「あ、すみません
ご親切な方
拾ってくれてありがとうございます
ぼくが落としたんです、その指輪」

「あら、あなたお昼にあったかわいい坊やね
また会えるなんて…」

ぺこりと一礼したジェレミーが
目を合わせた指輪を拾ってくれたその女性に
彼は言葉を続けた

「そ、そうですよね…
あなたなんです
ぼくの…愛しいひと」

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