• 詩・童話・その他

ハハッ!しょせんギャグ漫画描いてたやつの手腕はこの程度なのさ♪

王国の王子ジェレミークラークは
母親ゆずりの艶のある
さらりとした黒髪に分け目を作られた
額が覗く品格漂う
高貴な生まれに値する
黒曜石のような瞳が神秘的な
本人が知るかぎり
美少年のカテゴリーにギリで入る
中性的で流行りの顔立ちであった

今夜ダンスを踊ってくれた
女性と結婚式を挙げたいという
古き良き時代のハッピーエンドを
心から望んでいた主人公
注(†王子さま




〜壊れたハートに刺さる剣〜


「結婚おめでとう、ぼく」

静寂が占める森の果てに
輝く月下のバルコニー
あらかじめベイカーさんに
セッティングさせておいた
お洒落なテラス風に木製の椅子に腰をかけて
今や皿の上ですっかり溶け切り
スープと化した元バニラアイスに
例の魔女のりんごを添えて
いつの間にか正装に着替えていた
ジェレミーはグラスに注がれた
シャンパンに映り込む自身の瞳に乾杯した





ぼく、もっと強くなりたいよ…!


砂ぼこりが舞う乾いた地を蹴り
戦いに明け暮れる熱き男たちの
魂が燃え交わされる迫力満点のバトルが
西の国の地の果てで繰り広げられていた

わりとスムーズに強敵を倒し
戦いに勝利したジェレミーは
主人公気取りでなにやら
決めゼリフを口にした 

「たった7人とはがっかりしたよ
みんな揃って腰抜けばかりだとはね」

倒れたまま起き上がる気配のない兵士たちの数は
なんと6人しかいなかった
ジェレミーがそれに気付いたとき
辺りを冷たい風が吹き抜けていった

「…はあ、ぼくもう城に帰りたいな…」

空を見上げる戦場の少年兵は疲れ果て
早くもホームシックに陥ってしまったようだ
戦いに勝利した彼とともに祝ってくれるひとは
隣にいない

ここだけ地上最強の彼が
腰抜け隊員の最後の生き残りとして
ジェレミー本人自らが認めてしまったのだ

こうなってしまった彼に残された道はただひとつ

祖国を捨て愛する姫が見当たらないまま
腰抜けの王子ジェレミーはひとり
たどり着いたお菓子の小屋の薄明かりが差す
寝室のシングルベッドに横になり
カーテンを閉ざしたまま
カラスの鳴き声で深夜帯に
目を覚ましたジェレミーは
ダークサイドに堕ちる覚悟で
自らが手にした銀の剣を掲げ
誓いを立てるポーズを取る

「ガラスの靴の持ち主は
ぼくが探し出す…!」


もう誰からも腰抜けなんて
いわれたくないんだ…!





大変見苦しい主人公の王子さまが自国から
見知らぬ土地へ追放されていた模様

シンデレラが元ネタでしたが
やつはこのままでいたくないらしい
次の展開は王道の主役交代で
ジェレミーくんが無事ダークサイドで
クールな悪役に染まりゆくのか
王国追放からの悪役ルートから再スタートなるか
はたまた過去の自分を捨て去り転職活動するのか
ヒロインにもう一度プロポーズするには
彼は自分に足りない部分である
主人公に必要不可欠な真実の愛よりも
大いなる強さを求められてしまうだろう

夢の実は弾けて散った
儚くも永遠に…
そして、少年は旅立ちの誓いを記すべく
邪悪な妖精の女王に代わって
緑色に染まる水晶玉に手をかざし
形だけだった身の丈に合わない
豪華な杖を振りかざすと
黒い礼服に姿を変えて
満月の夜に空を仰ぎ見る
そんな自分を妄想する夢を見ていた…!

このまま目が覚めなければ…


長き眠りに落ちたジェレミーは
母親の王妃からこっそり手渡された
宮廷料理の余った魔女のりんごの効能で
今夜も眠れる森の死者のように
誰もいない寂れた部屋の片隅で
なにか功績を讃えられたあとで
しあわせそうな顔をして
新しい銀の剣を手にしたまま
ひとり静かにそこに横たわっていた



…続けるな、同士諸君

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