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multiverse traveler's monologue

犬を見た。それはあまりにも矮小で、知性なく、それでいて悠久に等しい命を持つ。憐れであり、それでいて羨ましい。禁断の果実を食み、全てを暴いて白日の下に晒す猿からすれば、犬のもつ永遠の命というのはなんとも羨ましく、正しく喉から手が出るほど欲しい代物だっただろう。

さて、少しだけ話を変えてみよう。この惑星に住む類人猿の一種は、はるか昔に神と取引を行った。永遠の命と引き換えに一つの原罪を手に入れたのだ。交渉は非常にアンフェアで、類人猿の一種が得られたものと失ったもの、受けた罰を秤にかければ釣り合うはずもありはしない。なのに何故、彼らは交渉に応じたのだろう?
ひとえに頭が悪かった、それだけだ。だが、頭が悪かった彼らでも気づいたことがある。知性というのは、使い方如何でどのようにでも変容する。全てを自分たちの好ましい形へと変貌させるためのツールとして、彼らは禁断の果実をそのように認知して、あらゆるものと引き換えてでも手に入れるべきものと判断した。結果がこの惨状だ。

なんと滑稽な悲劇だろう。誰も予測しなかった、誰も考慮に入れなかった。知恵を得た猿が惑星を殺す癌細胞となるだなんて、考えてもみなかった。また、神はその力を失った。星を運営する存在が、知恵を得た猿に何もできず席を失った。星は自浄作用として地を震わせ、雷を落とし、海を荒らして抗った。それすらも猿は容易く適応した。星の力は猿を滅ぼすに足らなかった。

かくして猿は星を運営する存在へと成りあがった。傲慢にも星の生命活動を幇助すると宣った。堪ったものではないのだが、猿はやがて、星の活動を制御することもあるだろう。そうしていくと、ふと思うのだ。

────この知性を以てすれば、永遠の命を造り出すことも容易いのではないか…と。

さぁ、やがて人はこの星だけでは飽き足らず、他の星、太陽系、その外までを手の届くレベルにまで落とし込み、支配するだろう。神が剝奪した永遠の命をいつ作り出せるようになるのだろうか?

私は犬を撫でながら、あらゆるものが個々に与えられた役を演じるグランギニョルをただ一人の観客として、嘲笑を以て見届けることとしよう。

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