2月14日。この日付とバレンタインをイコールで繋ぐ人も少なくないだろう。
それはなにも、知識的な話に限らない。
テレビをつければチョコレートの宣伝をやっているし、少し街をあるけばこれまた宣伝をやっている。その中を歩くカップルを見てバレンタインを思い出す人もいないとは言い切れない。
遥斗はスーザ、ガルムと共に街中を歩きながら、そんなことを考えていた。
「でも良かったんですか? こんな街中歩いてて」
遥斗の右側を歩く二人を見る。
遥斗にとっては何の変哲もないただの2人だ。しかし、周りを歩く人にとってのそれは、【テレビで見る人】に早変わりする。
街行く人はあからさまに2度見をする人もいる。明らかに隣を歩く男性と付き合っているような女性なのに、スーザのイケメンっぷりに思わず目線が吸い込まれている人だっている。
その度に相手の男性が奪われた視線の先にいる人を睨みつけようとして、スーザだと気付いたときの表情にガルムは何回笑ったことか。
「ま、視線を感じてちょっと歩きにくいけど、しょうがないからね……」
「去年もやらかしたんだが、今年もそのこと綺麗さっぱり忘れてたぜ!」
「『忘れてたぜ!』じゃないですよ……」
それは今日の朝まで遡るという──。
★
前日はテレビの収録が終わった後すぐに寝てしまったスーザとガルムは、そのおかげなのかいつもよりも1時間ほど早く起きてしまう。
普段は各々の家で暮らしているが、この4人ともなるとダンジョン帰りに尾けてくる人もいるのだ。
そのため、4人はルームシェアという形で、別に一軒戸建ての家を買っている。こちらの家はバレてもなんの問題もないように、必要最低限の物しか置いていない。そもそも、警備が厳重すぎて忍び込むことすらほぼ不可能なのだが。
この日は、ミュウとリアから『こっちに泊まってて』と言われたため、理由は分からないが収録帰りに来ていたのだ。
このところは特に忙しかったこともあり、昨日の記憶があまり残っていなかった。
「ふわぁ……っふう。さすがに疲れが溜まってきたねぇ……」
「んっ……ふぅ。最近は近場のダンジョンに行く時間しかないから、そろそろ飽きてきたわ……」
「なんか考え方が戦闘狂の人みたいになってきてるよ」
他愛もない話をしながら朝食をとるため、階段を降りリビングへと繋がる扉を開く。
「「……え?」」
するとキッチンでなにか作業をしているミュウとリアの2人が、困惑した様子で顔を上げる。
──スーザとガルムは昨日の記憶が急速に蘇ってきた。
そして、そっと扉を閉じた。
すると、向こうから扉が開けられ、ミュウとリアが満面の笑み──目はまったくもって笑っていなかったが──を浮かべて腰に手を当てていた。
「昨日、朝8時なるまではリビング来ないでって、言ってなかったっけ?」
「え、えーっと……」
「『今日は疲れたし、9時なるまではどうせ起きないだろ』って言ってたのどこの誰でしたっけ?」
「ッスゥー……」
スーザとガルムは目をそらす。
「「ごめんなさい、は?」」
「「ごめんなさい……」」
☆
「ま、10:0でお二人が悪いですからね」
「「その通りでございます……」」
約束を忘れていた罰として、2人は変装なしで街中を歩いているのだ。遥斗は1人でぶらぶらしていたが、運悪くガルムに見つかってしまい、巻き込まれたわけだが。
「それにしても、遥斗くんも相当早い時間から外に出てたっぽいけど、どうしたの?」
「ほんとそれ。今はもうすぐ3時になるくらいだからまだしも、あんな時間に外いたってどこの店も空いてないだろ」
「え、いや、バレンタインデーは毎年3時頃まで外でぶらぶらしてますよ?」
遥斗はさも当たり前のように言う。
「あ、遥斗も妹ちゃんからなんか言われんのか?」
「いや自分の意志で」
「自分の意志で?!」
「は、8時間くらいない……?」
「それでも、紬が頑張って俺のためにチョコ作ってくれてるんで、1人で集中させてあげたいからに決まってるじゃないですか」
「それでも自分の意志で動けるのはすげーわ」
ガルムは感心したように言う。実際、遥斗のように考えない人の割合のほうが多いのだろう。
「それによって、お兄ちゃん大好きぎゅーが復活したらいいなって」
「「やっぱりシスコンだった……」」
☆
「ただいまー」
3時になり、遥斗は帰宅した。
「あ、お兄ちゃん! おかえりー!」
少しドタドタと足音がしたかと思うと、紬はリビングの方からひょっこりと顔だけを出す。いつもはそのままおろしている髪をポニーテールに束ねており、エプロンをつけていた。
ぎゅーがなかったことを悲しみつつも、遥斗は紬に尋ねる。
「あ、まだ早かったか?」
「んーん。ちょうど終わったところ! ふふん、今年は力作だよ?」
紬は腕を組みドヤ顔をする。するとそのエプロン姿がすべて目に入った。ところどころにチョコがついているのが離れていても分かった。
「その分苦労もした、と」
「んえ……あっ」
紬はすぐに体を隠す。そして、ムスッとした表情で顔だけをのぞかせる。その表情も可愛かった。
「ま、その分頑張ってくれたってことだしな」
「そ、そういうこと! それじゃ、手でも洗って待ってて〜!」
紬はエプロンをひるがえし、またドタバタと足音をたてながらキッチンへと戻っていった。
(ん。やっと紬の可愛い様子も見れて満足っと)
あとがき
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また、↓のイラストは知り合いの方に描いてもらったものになります! そちらの感想もしてくださると幸いです! 紬可愛い……。