https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054897558414こちらのアフターストーリーです。おまけです。
ここまでいくと、参加企画からの初見さんは訳わかんないのでカットした分です。
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「……うそ」
まさかホントにそのまま寝ちゃうだなんて。宮子さんも寝てるし。
私を膝枕したまま船を漕ぐ継母の寝顔を見上げる。よく寝てる。
ゆっくりと、体を起こす。だるいけど、頭は痛くない。
外の空気は静かに明るく染まり始めていた。
「……水」
立ち上がり冷蔵庫を目指す。二日酔いの体は重たいけど、ちゃんと動く。
ジャスミンティーをグラスに注ぐ。そんな気していたけど、少しもの足りなかった。濃い緑茶が飲みたい。
冷蔵庫を静かに漁ってみるけど、それらしいものは見つからない。
「……ふぅ」
私は冷蔵庫に貼り付けられたメモ帳を一枚切り取った。
「桜子? どこ行くんだ?」
「あっ……」
玄関で靴を履こうとしているところでお父さんに見つかった。
驚きの表情が心配から怒りに変わる前に私は人差し指を顔の前にぴんと立ててお父さんを制止すると、リビングに戻って一枚の紙きれを手渡した。
「宮子さんが、戻れって言うなら……帰ってくるから」
「……そうか」
それからお父さんはいってらっしゃいの一言を残してリビングへと退散した。
渡したメモには『ちょっと気まずいのと、緑茶が欲しいので出かけます。昼前には帰ります。 桜子』の伝言が綴られている。
「いってきます」
途中のコンビニで濃い緑茶を二本買って、通い慣れた道を歩いて運動公園を目指す。相変わらず体はしゃきっとしないけど、気分は軽やかだ。ママとよく来たお気に入りの場所。昔も今も変わらない。それなのに。
なにしてんの。あの人。
泣き面に蜂って言葉が浮かんだ。私の場合だと、二日酔いにイケメンだ。
早朝でも運動公園にはまばらに人はいる。そういう人達は大抵走ったり運動をしている。
なのに、その人は休憩スペースで一人でコーヒー(たぶんそうだ)なんか飲んでいる。イケメンは生活習慣から格好つけなきゃいけないの?
ヤバい。人と遭遇するとは思っていたから変な恰好はしてない。けど、化粧は全然してないし(普段から薄化粧だけど)それ以前に二日酔いで顔はむくんでるし、目元も腫れてるかもだし。というか、なんで会いに行く前提で考えてるの、私?
そうだ。帰ろう。今の春川さんちになら、私は気負わずに帰ることができる。それでいい。そう思い、最後に一目イケメンの澄ました横顔を拝んでおこうとあの人を見つめた。
「……秋田、先生」
その声に応えるようにあの人が私を見た、気がした。
なんでよ。今までずっと、目を逸らしてきた、くせに。
首筋が震えて耳が熱い。
暴れ出す感情が顔をくしゃくしゃにしてしまい、他人様に見せられない顔に磨きがかかってしまう。
私は本当に恥ずかしい奴だ。どれもこれもうまくできない。
「……それでも」
私は前へ進んだ。
踏み出した一歩は頼りなくてふらついて、のろまだったけど、段々と速く、ちゃんと地面を踏みしめた。
こっちを見た気がしたあの人はやっぱり私に気づいてなくて。
それが悔しくて。
私はその人の隣に腰かけた。
駆け引きなんて、私には出来ない。
多分言わないだろうって胸にしまった想い。
それを言ってやろうなんて決意は今もない。
それでも崩れた澄まし顔に『特別』を期待してしまう。
ただ、一言。
「また会えて嬉しい」
それだけ。
敬語でなんて喋ってあげない。
だって、本当に私は――また、あなたに会えて嬉しいから。