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三つの願い(超短編ミステリー)

妻は高校時代の女性の友達と一週間の予定で旅に出る前に、
「インコの源ちゃんの世話を頼むわね」と言い残して出て行った。
俺は籠の中の源を見つめていた。
「籠から出してくれないか」切実な声を出して言った。
「えっ!」
「そうすれば、三つの願い事を叶えてやる」
「本当? とりあえず、お金が欲しい」
「分かった。和ダンスの中を探してみろ」
半信半疑、俺は和ダンスを徹底的に探しまくった。思わず息を呑んだ。350万円ほどの現金があった。
「こんなにヘソクリを貯めやがって」目を真ん丸にして独り言を言った。
「お前はすごいな」と言って源を籠から出してやった。
源は俺の左手に乗って言った。
「他に願いは?」
最近、俺は体がだるいので病院で血液検査をした。肝臓に異常値が出た。酒を飲まないので不思議でならなかった。
「体の具合を良くしてくれ」
「好物のみかんを食べなければ、良くなる」
「嘘だ! そんなこと考えられない」
俺はみかんが大好きだったので、箱で買っていた。一日五個くらい食べていた。
「試しに、五日間、食べないでみろ」
俺はとても信じられなかったが、試してみた。二日、三日、四日、みるみる体調が良くなってきた。五日目には元に戻った。
「驚いたな! 最後の願いだ。この理由を教えてくれ」俺は目を輝かせて言った。
「奥さんは女友達ではなく男と旅に行った。これで十分だろう」
冬の冷気に似た戦慄が背筋に走った。俺は会社を辞めた。医療保険、生命保険を解約した。
俺は350万円をポケットに入れ、ノートパソコンを車に乗せ、
「源、ありがとう。青空に向かってはばたけ」と言って源を放った。
「これからどうするんだ?」源が尋ねた。
「一人で自由に生きる」

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