この小説の中には、幾つか私の経験や見聞きしたことを元にしたエピソードがあります。
《1783話》の伊達教授の経験がその一つです。
もちろん本名ではありませんし、脚色はあります。
ある旧制高校の出身の方で、その方から直接お聞きしました。
太平洋戦争で学徒出陣で南方戦線に送られ、そこで地獄のような野戦病院での体験をなさいました。
戦後の日本の優秀な外科医の多くが同じく野戦病院での経験を経た方だということも、その人に教えて頂きました。
薬も包帯もなく、すり減って摩耗した切れ味の鈍ったメスを使うしかない。
出来るのは壊疽した手足や部位を切除するだけ。
麻酔はおろか、消毒薬すらない。
オペによって死亡する人間は多い。
寝る間も無く、疲弊した身体で必死でメスを振るうしかない。
それも地獄ですが、何が一番辛かったかと言えば、野戦病院での兵士たちの態度でした。
薬は戦友に使ってくれと頼まれる。
自分が腕や足を喪って苦しんでいるのに、そう頼む兵士たち。
助からないと分かって、最期に礼を言って死んでいく兵士たち。
実話です。
悲しく辛く、惨めでいて高潔な人間がいた。
戦争反対はそれでいいです。
しかし、地獄のような戦場で、そのような高潔な人間がいたことを知るべきではないか。
戦争を否定するのは自由ですが、私も戦争は嫌いだとしても、それ以上にあのような素晴らしい日本人がいたことを忘れたくない。
物事は視点です。
どこに注視するのか、そういうことが大事なのだと思います。
いつでもどこでも何にでも、幸福と不幸があり、卑しさと高潔がある。
自分の書いた程度の低い話ではあり、その内容に偉そうなことを申しましてすいません。
でも、一言申し上げたく、ここに記しました。
今後も、読み進めていただければ幸いです。
お目汚し、すみませんでした。