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【あとがき】北欧社会科見学編

更新に時間がかかり、まさか夏になるまで北極圏の冬の話を書くことになってしまうとは……。どうにか書きおおせたので、あとがきを置いておきます。


◆シャノン・クレイフォード
更新が滞っていた理由の一つが、この人の名前がなかなか決まらなかったからなのです。小説を書く上で、特に固有名詞を考えるのが私にとっては大変な作業です。そういう学芸員がいた、という設定自体はペンサコラの設定を考えた最初期から決まっていたのですが、名前だけギリギリまで考えてませんでした。本当なら29話 航宙船舶工学史で出しても良かった名前です。
クレイフォードというのは天体望遠鏡を持っている人なら聞いたことがあるかも知れませんが、接眼部を動かす方式の一つです(私はラックピニオン式の方が好きです)。てっきりクレイフォードさんという人が発明したのかなと思い込んでいたら、実は違うみたいです。
シャノンという名前は環礁編で登場した脳みそのシャールとシャ被りなので躊躇いがありましたが、まあいいやの精神でOKとしました。


◆幻のアステリズム
博物館に展示されていた船の名前のブルダヴァリーという単語、これは以前に短期バイトで同僚のネパール人から聞いた単語です。夜、屋外で休憩していると星が見えるので、その彼と星や星座のことで話をしていたところ、ネパールの星の話題になりました。彼の地元は電力事情の関係で夜に電気の供給がストップするため、夕食は外に出て星明かりの下でするとか、北斗七星はネパールでも知られているとかそういう話です(野尻抱影をよく読んでいた時期だったので、この手の話題には前のめりです)。気になったのがブルダヴァリーと彼が言う星列で、話を聞く限りはケンタウルス座とみなみじゅうじ座の一等星が集中するあたりのことなのかなと思いますが、ネパールの緯度ではギリギリ見えなさそうなのでよく分かりません。彼は星にそれほど関心がなかったらしく、説明がどの程度正確かは謎です。もはや名前がブルダヴァリーだったかどうかさえうろおぼえすぎて曖昧もいいところですが、私の脳内ではそういうことになっています。北斗七星を指すネパールの呼び名は忘れました。


◆宇宙論的
「天文学的数字」みたいな表現があるように天文学は大きな数字を扱いますが、一口に天文学と言ってもさまざまな研究分野があり、それぞれ扱うスケールが異なります。近い、軽い、遠い、重たい、熱い、冷たい、などの表現も場合によって大きな隔たりがあります。太陽系内での「ご近所」なら月、金星、火星あたりでしょうか。複数の恒星系を視野に入れたご近所であれば数光年から数十光年というところでしょう。銀河系スケールなら数千光年程度はご近所と言えます。銀河群や銀河団の話になると、同じ局所銀河群のメンバーであるアンドロメダ銀河やさんかく座銀河などはご近所ですが、数百万光年彼方です。宇宙全体を取り扱う宇宙論的スケールであれば、1億光年程度なら近傍宇宙でしょう。
本作での宇宙論級跳躍というのは数億ないし十数億光年くらいのワープと考えてください。ヴェーガが実際それくらい跳べたかどうかわかりませんが。もしかしたら数千万光年程度に留まっていたのかもしれません。


◆ペンサコラ最初の蔵書
くるみがシャノンの研究室から本をパクったエピソードですが、研究者の周りにはどうしても本が堆積するもの。私の大学の先生の部屋は「本の山」ではなく「本の渓谷」でした。数を数えるなら何冊、とするよりフォークリフトで何杯かという単位にするのが適切でしょう。
それはともかく、市場に流通しているときは安価に買える割に一度絶版になったらなかなか復活するのも難しい本という代物。電子書籍なら絶版にならないのではとか、電子書籍はデータ消失のリスクや保存メディアの寿命が云々などの論点はありますがそれはさておき、中東研究者の保坂修司さんによるニューズウィーク誌のコラムが興味深かったです。
“研究者の死後、蔵書はどう処分されるのか”
https://www.newsweekjapan.jp/hosaka/2019/07/post-30.php
価値が分かり、適切な保存を実施できる人に受け継がれた、という点でシャノン氏の蔵書は幸運なケースだったのかも知れません。


◆北欧の参考書
執筆に先立っていろいろな資料を調べました。中でも一番良かったのはカレル・チャペックの『北欧の旅』(ISBN:4480424989)という旅行記でした。何が良いのか説明すると野暮になりそうなのであまり言いませんが、とにかくノルウェーでは干した鱈が臭いという話が繰り返し出てきて笑えます。興味があれば地図片手に読んでみてください。


◆ニーロングイヤーベン
ロングイヤーベンという街が現在、スバールバルで一番大きな人間の居住地です。カナ表記が多様で、ロングイールビュエンとかロングイェールビーンとか、発音も入力も難しい表記があるようです。命名の由来となった炭鉱経営者ジョン・マンロー・ロングイヤー氏の名前を残しながら、なるべくシンプルにロングイヤーベンと、私は書くことにしました。
作中は頭に「ニー」(ノルウェー語で“新しい”)と付いている通り、今のロングイヤーベンではなく別のところにあります。ヨークとニューヨークみたいなものです。場所はピラミーデンという集落の近くにある、スフィンクセンという場所を想定しています。何かあって遷都(?)されたのでしょうか。ピラミッドとかスフィンクスとか、あの辺りの地名を調べるとエジプト由来のものが多くて面白いです。


◆山の名前
スバールバルの最高峰がニュートン山で、スフィンクセンから北東の山地にあります。周辺にはラプラス山とかマクローリン山とか、物理学者・数学者の名前から命名された地形が多く存在します。よくわかりませんがこちらのシリーズも面白いですね。



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