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【環礁編あとがき】30万字を超えました

でも、物語はまだ続きます。

作者が後からつくづく語るのもあまり良くないのでしょうが、普段は出典を書くこともないので、補足やら何やらを残しておきたいと思います。


◆ 鯨類保全研究所
異分野の研究者が小さな研究所にわんさか集まって活発な研究がなされるというのは、複雑系の研究で知られるアメリカのサンタフェ研究所の初期の頃をモデルにしています。モデルと言えるほどきちんと描いてはおらず、なんとなくそちらにイメージを寄せているという程度のものですが……。学際的な研究ってワクワクするので話を聞いてるだけでも好きです。
サンタフェ研究所について知りたい方はミッチェル・ワールドロップの『複雑系』(ISBN:4102177213)という本が新潮文庫から出ていて、絶版ですが古本は安く買えるのでおすすめです。本作の参考文献に挙げるほど引っ張ってはいないものの、複雑系というワードは頻繁に出しますし、今の私の原材料を書名で表現せよと言われれば挙げなければならない本なので影響は多分に受けています。


◆ パレイドリア
壁のシミが人の顔に見えてしまう、みたいな現象のことをパレイドリアと言うらしいです。セイラは注意されていましたが、普通は「こうに違いないよな」って思ってしまいそうですよね。
天文学の世界だとパーシバル・ローウェルによる火星表面での運河の発見という、後に否定された報告は、「見たいものを見てしまった」というふうに言われてたりします。ちなみに私はローウェルとハーシェルがごっちゃになることがよくあるので、そのたびにググらなければなりません。
そう言えば星座だってパレイドリアと同じ仕組みですよね。


◆ 真実を知らないと封じ込めることも出来ない
ここからはハクスリーの『すばらしい新世界』のネタバレが含まれるので、それは止めてくれ!という方は目を閉じてください( ˇωˇ)。一応なるべくぼかして書きます。
私が以前、『すばらしい新世界』を読んだときなるほどと思ったのが、ディストピアの支配者側の教養でした。作中の世界で禁じられている文化的なものを、支配者はこれでもかと言うほどよく知っている。その事に感激した覚えがあります。
文学を知ってなければ、文学が滅ぼされた世界の人々の中に素朴な新しい文学が芽生えたとして、それを摘み取ることが出来ませんから。特権階級による単なる豊かさの独占みたいな概念とは別のものが用意されていたのが読者体験として嬉しかったのです。いや、これも文学的パレイドリアなのかもしれませんが……。
とにかく、そんな支配者の教養を支えるには相応の学術機関が必要なのでは? というお話でした。


◆ マンクルト
耳慣れない響きです。こちらもネタバレ注意でして、アイトマートフという作家の『一世紀より長い一日』(ISBN:4062004380)という作品中の一編から借用した述語です。
10年くらい前にちょっとした手術で入院したとき、同じ病室の入れ違いに退院する方から暇つぶしにでもどうぞともらった本でした。
マンクルトというのは、アンドロイドはとくに関係なくて、作中に登場するある部族が人間に対し拷問じみた手順で洗脳と言うか精神の破壊を行って仕立てられる、意志のないパーフェクトな奴隷のことです。マリアンはどちらかというと哲学的ゾンビのような状態になっていますが、アンドロイドにゾンビという単語を充てるのは生々しすぎて代替手段を検討したかったということです。
随分前に一度読んだきりでマンクルトという単語だけが脳の片隅に残っていたという状態ですから今回自作に借用するにあたって復習しました。こちらは検索してみると古本が高いですね(本稿執筆時点)。SF要素もありますので、図書館に入っていたら読んでみてください。ごつい本ですけど意外と読みやすいです。


◆ 蛇足
ところでここだけの話ですが、40話のラストで出発直前に鳥払いの爆竹を使ったシーン、これは人間由来の硝石をつかって火薬を手作りしたみたいですよ。楽しそうなワークショップですね。

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