「ねえねえ、リグマ」
「なんだ?」
酒飲んで温泉入ってだらだらしていたら、暇だったのかピルカヤに話しかけられた。
「魔王様ってさ~、けっきょくレイのこと好きなの?」
「そりゃあそうだろ。お前今まで見たことあるか? あんな魔王様」
「ないね~。でもさあ、だったらどうしてつがいにならないの?」
「それは……まあ、気づいてなさそうなんだよなあ……」
ピルカヤにとっては、ちょっと難しいかもしれないが、あの二人めんどくせえんだ。
レイくんは、全然なんにも気づいていない。
それは、まあいい。よくないけど、まあいい。
問題は魔王様は魔王様で、自分がどういう意味でレイを欲しているか理解してなさそうなんだ。
「聞いてみるか」
「急にそんなこと聞いて、魔王様混乱しそうだね~」
「それもそうだな。……それじゃあ、意識調査ってことにしよう」
「意識調査……?」
「レイくんは、魔王軍にとってとても重要な存在だ。これを機に周囲がどう思っているか聞いてみるのもいいだろう」
これは俺にしかできないだろうな。
四天王や他の魔王軍が聞いたところで、本音ではなく媚を売るような反応が返ってきそうだ。
であれば……適当な人間や獣人に変化してから、いろんなやつに意見を聞いてみるとするか。
◇
《case:人間の従業員たち》
「いや、よくわかんねえよ」
「なんか、よく働いてるなあとは思うな」
「ああ、たしかに俺たちよりずっと働いてるし、休んでる暇あるのかな?」
《case:獣人の従業員たち》
「力だけなら勝てるんだろうけど……なあ」
「ああ、なんとなくだが、戦っちゃだめなのはわかっている……」
「なんというか、猛毒を持った獲物というか……」
《case:ハーフリングの従業員たち》
「金払いがいい」
「労働環境もいい」
「わりと、理想的なトップかもしれん。え、トップじゃない?」
「ロペスのやつ、うまく取り入ったよなあ」
《case:ドワーフの従業員たち》
「俺たち、丁寧な言葉遣いとか好きじゃねえんだが、あの方には勝手にかしこまっちまう」
「技術を正当に評価してくれているな」
「そうなんだけど、たまに俺たちのこと過大評価してる節はあるよな……」
「まあ、断れば理解してくれるから、本当に認識がずれているんだろうよ」
《case:ダークエルフの従業員たち》
「神です」
「女神なんかと比べるな。失礼だ」
「私たちも、あの方のように迫害に立ち向かうべきだったのかもしれません」
《case:勇者の師匠のドワーフ》
「逆らっちゃいけねえってことはわかる。それに、逆らう理由もない。正当な技術評価にうまい酒。悪くない環境なのはたしかだ」
《case:勇者たち》
「魔王様の伴侶ですよね?」
「あれ、まだ違うんじゃなかったっけ?」
「とにかく、ただものじゃない魔族ってことはわかるわ」
「だけど、人間の王たちと違って相談に乗ってくれるし、こっちのほうがいい環境だよね」
《case:獣人たち》
「逆らったら死んじゃう!」
「あんた、まだ選択肢に脅されてるの……?」
「でも、実際逆らうつもりもないから平気!」
「まあ、敵対したら恐ろしいって、よく知ってるからね」
「悪い人じゃないよね?」
「敵を殺すことについて考えると……まあ、このへんは元の世界基準で考えても意味ないか」
「嫌いなの?」
「なんというか……畏怖?」
《case:ダークエルフの女王とハーフリング》
「旦那……いや、なんでもない。オーケー。本心で答えるとも」
「どうしたんだい? そんな冷や汗かいて」
「気にするな女王様。ええと……まあ、怖い方だな。そして、頼もしい方だ」
「それは間違いないね。敵対……と言っていいかわからないが、仲間じゃなかったときよりも、こうして末席に加えていただいたときのほうがわかる」
「そうなんだよなあ……なんというか、仲間になってからのほうが恐ろしさを痛感するというか……」
「私にとっては、種族の救世主でもあるし、一言では言い表せないかな」
「……マフィアのボスとか? いや、忘れてくれ」
《case:バンシーと吸血鬼》
「好き……推せる……」
「私より早くに意見が言えるほどには、レイ様がお気に入りなんですね」
「魔王様も推せる……二人そろってずっと……なんというか……いちゃいちゃすれば……いいんじゃない?」
「私としては、レア素材を惜しみなくくれる、懐の広い方という印象ですかね?」
《case:リザードマンとアルミラージ》
「できる範囲が広いな」
「うっとりするような、殺意の塊です~」
「上の意見も下の意見も取り入れる柔軟さはある」
「これで強かったら、殺されてでも戦いにいったんですけどね~」
「本人に戦う力がないのは、周囲でカバーできる問題だ」
「ええ、なのであくまで理想です。あ~、いいなあ。ディキティス。レイ様のダンジョンに挑めて」
「……あれは、単なる試しだ」
《case:別人格たち》
「やべえよ、あいつ……」
「でも、それだけ防衛は完璧ってことでしょ? いいことじゃない」
「いいことでもねえぞ。暇だ。リピアネムみてえに暴れてえ」
「僕としては、不満はないかな。なんだったら、全滅する前の魔王軍より強くしてくれそうだしね」
「……ますます暇になりそうじゃねえか! あ~……やっぱり俺もディキティスみたいに、ダンジョンで遊ばせてもらうか」
《case:悪魔とガルーダ》
「魔王軍を救ってくださった方です」
「だが、どうも体を酷使しすぎるきらいにある」
「魔王様を甘やかしすぎるときもあります」
「魔王軍の者たちは、彼の言うことはわりと素直に聞くので助かっている部分はあるな」
「ええ、今の魔王軍には、レイ様を敵視するものはいないでしょうから」
「今後の蘇生対象者たちは、そうとも言い切れんがな……内輪もめで怪我人は、勘弁してもらいたい」
《case:精霊たち》
「ボクの意見いる?」
「ピルカヤ様の意見は、とても重要です!」
「まあ、いいけど……うん。好きだよ」
「最古の精霊であるピルカヤ様に好かれるということは、それだけの力を持っている方ということですね」
「君はどうなのさ?」
「私は、まだまだ蘇生いただいたばかりですが、周囲の方の反応を見る限り、優秀な方だとわかります」
「今はそれでいいんじゃない? どうせ、レイならそのうちなんかやらかすだろうし」
「や、やらかしですか……」
「レイって、常識はずれで面白いよ」
《case:スキュラとドラゴン》
「かわいいよね~。お姉さんのお気に入り。この子たちもね~」
「魔王様の側近だ。非常に頼りになる。しかし、かわいい……のか?」
「弟みたいでかわいいし、やきもち妬いてる魔王様もかわいくない?」
「う~む……私には難しい」
「ネムちゃん的には、もっと強くなってほしいとかかな~?」
「いや、レイ殿の剣であれば、私がいるから問題あるまい」
「切れ味よさそうだね~」
「日々の鍛錬の賜物だ」
《case:魔王とスライム》
「レイですか? ……私のです」
「わかってますって、レイくんの印象の話ですよ」
「う~~ん……う~ん? けっこう好きですよ?」
「けっこう……意外ですね。わりと控えめな表現ですけど、けっこうってどれくらいですか?」
「一緒に寝て、一緒に行動して、一緒に死ぬくらいです」
「……めちゃくちゃ好きじゃないですか?」
「そうですか? まあ、レイは私に懐いてますからね!」
「そこで、マウントとられても……」
「あなたこそどうなんですか?」
「俺……? スライムだからわかりますけど、魔王軍の核みたいなやつですかねえ?」
「ほほう、魔王を差し置いてレイが核ですか」
「う……すみません」
「許します。それは間違いありませんから」