Side:久遠一馬
旧暦の七月十三日。お盆だ。
元の世界ほど庶民に習慣として広まっていないものの、この時代にもお盆はある。
宗教とか迷信じみたことはあまり信じるタイプでないけど、お盆になると両親のことを思い出す。
お盆の三日間くらいは、故人を思い過ごすのも悪くないなと思う。
帰りたいと思うことはないけど、両親の墓がどうなったのかは気になる。
「どう? なかなかの霊園でしょ」
そんな折、島から霊園が完成したと報告があり密かに通信機で映像を確認するが、宗教色を薄めた墓地というより祈りの場という感じだ。
「司令のご両親の名前も残してあるわ。このくらいはね」
アイムの報告に少し感情を揺さぶられる。偽装した多くの先人の名前に父さんと母さんの名前を残してくれたのか。
「ありがとう。なんか嬉しいよ」
「神仏を信じるわけじゃないけどね。奇跡ってのを体験するとね。魂はあるのかもって思える。もしかすると司令のご両親も見ているかもね」
そうかもしれないな。
縁側で少し空を見上げていると信長さんが来た。
「かず、清洲の寺で念仏踊りをしておるぞ。行ってみぬか」
念仏踊り? ああ、盆踊りの原型か。
「いいですね。一度、見たかったのですよ」
この時代で、遥か時の彼方、いや、次元の彼方かな。元の世界と両親に思いを馳せるのもいいね。
エルたちとみんなで行ってみることにしよう。
「いかがした? 今日はやけに神妙な顔をしておるが」
「いえ、特には」
「そういえば盆であったな。そなたの本領にもあるのか?」
最近、察しが良くなったなぁ。普段と変えているつもりなんてないのに。
「ええ、寺社の形とは違いますけどね」
「喜んでおろう。そなたは立派に家を継いでおる」
「だといいですね」
家を継ぐ。信長さんもやはりこの時代の人なんだなと思う。最近いろいろと変わっていたから、少し安心したかもしれない。
まあ、本質は大差ない。子供や孫たちが幸せに暮らせるようにと願うところはね。
なにがあろうと、オレの実の両親は父さんと母さんだけなんだ。
その繋がりは、時間も世界も超えて存在する。
思いは届くはずだ。
きっとね。