Side:お市ちゃん乳母・冬
姫様ともども無事に年始を迎えることが出来ました。それがなによりでございます。
「ふゆ~ちゃむい」
厠から出ると姫様は風の冷たさに身震いしてしまわれました。
お風邪を召されては困ります。抱き上げて温めて差し上げねば。
「本日は皆様と年始を祝う日でございますよ。お支度を致しましょうね」
まだ年始も理解出来ておられぬ姫様でございますが、お父上である大殿やお母上様であるお方様とお会いになるのを楽しみにされております。
まだ幼い故、そこまで礼儀作法を気にすることはございませぬが、織田家の姫様として恥じぬようにして差し上げねばなりません。
「今日は久遠様も来られるとか。ケティ様でございますよ。覚えておいででございますか?」
「けてぃ! ぱめら!」
少し気になり姫様に問うてみると、薬師の方様や光の方様がなさる診察の仕草を真似て喜んでおられます。
良かった。覚えておいででございましたね。幾度か診察をした際に会われているのですが、何分、まだ幼いので覚えておられないかと案じてしまいました。
何事にも物怖じせぬ姫様ですので、久遠様や奥方の方々と会われても懸念はないと思いますが。
「さあ、姫様。大殿のところへ参りましょう」
楽しげな姫様を抱きかかえると、皆が集まるところへ参ります。本日は他のご子息ご息女の皆様もいるので、姫様にはよきひと時となるでしょう。
久遠様たちが参られました。大殿とお方様以外の皆様は、少し緊張しているようにもお見受けします。
やはり久遠様は別格なのでございましょう。
「姫様?」
ただ、人一倍、笑みを浮かべて、今にも騒ぎそうなほど姫様は久遠様たちを見入っておられます。
ええーと、さすがにまずいですよね。なんとかお控えいただかねば……。
あっ、少し思案していると、するりと抜けるように自ら立ち上がった姫様が、久遠様のほうに歩いて行ってしまわれました。
「けてぃ!」
お止めするべきか迷いましたが、大殿がよいと制されましたので私は静かに見守ります。
何事もないとよいのですが……。