Side:久遠一馬
大晦日の夜、賑やかな特番がテレビで入っている。
年越しそばをすすりながら、楽しげな父さんと母さんと自分。
当たり前だと思っていた日々、普通の生活。
幸せな……。
「父さん、母さん。家族が出来たんだ」
生きていたのか!? そんな驚きのままに妻がいて子がいることを教えたいと語りかけるも、笑顔のままの両親がすっと消えていく。
「クーン」
気が付くとロボの顔が間近になった。オレの顔を舐めていたらしい。
「ちーち!」
大武丸たちも駆け寄ってくると、みんなでオレの体の上に乗ったりして騒いでいる。
いつの間にか寝ていたらしい。
「お疲れでございますか?」
「いや、ウトウトしていただけだよ」
子供たちの相手をしていたお清ちゃんと千代女さんが少し案じるように見ているが、本当にウトウトしていただけだ。
ただ、両親の夢を見るのは久々だなぁ。
元気いっぱいな大武丸たちを見たら、父さんと母さんはどう思うんだろう。妻がこんなにたくさんいて、子供もいっぱいだ。
母さんは呆れるかな? 心配するかな?
大晦日にカウントダウンと称して騒ぐ人などいない時代。命が軽く、生きるだけで苦労が多い時代。
それでも……。
「みんなおやつ持ってきたよ~」
「おやつでござる!」
「美味しいのですよ?」
パメラとすずとチェリーが、おやつとしてカステラを持ってきてくれたけど、チェリーの口はすでにモグモグと動いている。
子供たちが一斉に駆けていくと、オレは起き上がってまどろみから覚醒するように少し体を動かす。
妻と子、孤児院の子供たち、それとロボ一家。賑やかな大晦日だなと改めて思う。夢の中の三人の大晦日との違いが凄いなと苦笑いが出そうになるけど。
「殿、いかがされました?」
「ううん、ちょっと夢を見ただけだよ。子供の頃の夢をね」
賑やかな中で良く寝たなと我ながら思う。エルはそんなオレの表情の変化に気付いたらしいけど、夢だと教えると多くを聞かずに受け止めてくれたようだ。
いつか、この世界でもオレの両親が生まれるんだろうか。
今もオレのご先祖様にあたる人が、どこかで生きているんだろうか。
「ちーち、はい」
「ありがとう。希美」
久しぶりに元の世界と現実の狭間を考えていると、希美がオレの分のおやつを持ってきてくれた。
受け取ると、みんなでおやつタイムだ。
今日の夜は年越しの御馳走があるから、食べすぎないように量は多くないけどね。
カステラを頬張る妻や子供たちを見ながら、オレも頂く。
美味しいなぁ。熱い煎茶がよく合う。
今年もあと数時間。こうしてみんなで無事に年を越せる。それがなにより嬉しい。
それだけでいいね。
来年も、きっといい年になってほしい。
またみんなで、大晦日を迎えられるように。
◆◆
今年も終わりですね。
即興で短いSSを書きました。
私如きのために、こちらで読んでくださる皆様への感謝を込めて。
皆様、よいお年をお迎えください。