Side:とある尾張の民
心底冷えるような寒さで目が覚めた。壁の隙間から入る冷たい風だ。こうなっては寝れねえ。囲炉裏に薪をくべて火をつける。
「おっとう。雪だ!」
外に水汲みに出た子が嬉しそうに戻った。ちらついていた雪が積もったらしい。
ここらはあまり飢えることはないが、薪となるものが近隣にないことから買わなきゃならねえ。一昔前なら寒さで大人も子も震えていたんだがなぁ。
近頃だと薪も十分買えるようになった。
「早く暖まれ」
「うん!」
雨だろうが雪だろうが、飯食ったら賦役に行かなきゃならねえ。もう少し稼ぐと年越しの餅と酒が買えるんだ。
賦役に行けねえ幼子は村の爺様が見てくれる。一か所に集めるから薪代も掛らねえしな。
「織田様のおかげで寒くないねぇ」
体が暖まった頃になると、かかあが囲炉裏の鍋に雑穀と塩と僅かばかりの味噌を入れる。あとは小さな干した鰯を火で炙って入れるんだ。これがまたうめえ。
飯椀に盛った雑炊を皆で食う。体の中から温まるなぁ。味噌は安くねえけど、入れると一味違うんだ。
鍋いっぱいの雑炊がすぐになくなる。ただ、腹を空かせることなく日々飯が食えるのはありがたいことだ。
食い終わると、おらとかかあと上の子で賦役の現場に行く。同じ村の者とあれこれと話ながら行くと、近隣の村の者と一緒になる。
ちょっと前まで隣村の奴と話すと怒る奴もいたが、近頃はそんなこともなくなった。狭い入会地や水のことで争うのも禁じられて、それを破った村は双方がお叱りと罰を受けたって話だ。
「雪があるから気を付けるんだぞ」
おらたちがしている賦役は、川の堤を築き、流れを僅かに変えることだ。川の浚渫は罪人どもがやる仕事でおらたちは川舟で運ばれてくる土を盛り踏み固めていく。
差配されておる武士は、雪がある故、休むかと問うたが、皆でそれは困ると願い出た。
仕事出来ねえほどじゃねえ。ちっとばかり寒いが、こんなの慣れたものだ。働いていれば寒さなんてすぐに気にならなくなる。
周囲からは笑い声も聞こえる。正月には酒や餅が買えると皆が喜んでいるんだ。それに織田様の賦役は日に幾度か休めるからな。
ああ、昼に食える飯の匂いがしてくる。この匂いでもうすぐ昼の休みだと分かるんだ。
あとひと踏ん張りだ。おらたちは雪が降っても雨が降っても構わねえ。働いて飯が食えればそれでいいんだ。
あとがき。
書籍版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。
第六巻発売します。
拙作は書店様にあまり並びません。どうかご購入はインターネットやご予約でお願いします。
お手数ですがよろしくお願いいたします。
小説家になろう様の活動報告にも記念SSがあります。
よければそちらもどうぞ