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因果の霊糸あとがき

何だかちょっとよく分からない話になってしまいました。概念的というか、図示的というか、それならそれでもう少しどうにかなったのではという気もしますが、ひとまずこれで良しと致しました。本当はもう少しだけ、数千字くらい、短い予定でした。

気付いている方は気付いていると思いますが、拙作には結構、独創の邪神が登場します。これはクトゥルーでオリジナルを作るのは面白いし、醍醐味とさえ思っていたからです。例えばウルトラマンの怪獣やガンダムのモビルスーツでも、そういうものは作られるかと思いますが、これらについてはいくら素人がオリジナルを作っても、公式というものがあって、普通は有名デザイナーか何かになって正規にスタッフとして採用でもされない限り、いくら勝手にオリジナルで作っても、自己満足の域を出ない。それに対してクトゥルーには広い意味でそんな公式などありませんから、考えようによっては独創すればなんの憚りもなく著名な大系の内に自作の地位を獲得できる気がして、そこが面白かったのですね。それを言ったら邪神ではなく作品自体がそうかも知れませんが、そこはそれ、特に邪神要素が好きだったから、よりピンポイントに邪神でその感覚を味わいたかったというのがありますし、そういった邪神多様性にこそクトゥルーの魅力を感じている身としては、自分だけではなく、他のかたの旧支配者を見るのも好きなわけです。無論、これに反する意見もあるのは承知していますので(例えばTRPGなどでは、既にストーリーの用途にかなった既存の存在がいるのに新たに作る必要はないとか、いざ正体を明かすときにオリジナルでは、プレイヤーの推測や期待の点で肩透かしを食らうのであまり好きではない、という意見を時折うかがったりします)、いずれも個人の見解ということで。

で、話を戻しますと、そういった思いがあったものですから、以前はよく自作して楽しんでいたものです。そして、ふと気づくと、結構な数になっていたのです。

それを見ていたら、先述のものとはまた別の思いが湧き上がって来ました……つまり「一人でこんなに粗製濫造してどうするんだ」と。カレーに福神漬を少量添えればアクセントになって美味しいですけれど、余りに大量に盛り込むのはどうかと思いますし、極論すればカレーやご飯より福神漬が多くなって、自分よがりの福神漬カレー添えにはなれども、本来のカレー(本来のクトゥルー)ではなくなってしまいます。と思ったのです。要は作り過ぎたなと思い、それ以来、余っ程の理由がない限り、作るのをやめました。もう随分昔の話です。

でも実際に作品内で、創作邪神色々出してるじゃん、と思うかたもいるかも知れません。ですが、これらは新たに作ったものではなく、言ってみれば全て過去の遺物なのです。
もう作るまい、とは確かに思いました。ですがここにもうひと思い、関与しておりまして……もう作らないけれど、既に作り出してしまったものについては、無駄にせず、使い切ってしまいたいという思いです。
そのようなわけで折りに触れ、過去作の独自邪神が登場するといった次第です。

まあ、作り過ぎたと言いましても、人によってはやっぱり単身で、しかも私などより大量に邪神制作している方はいるものです。吉田さんとかジョー・パルヴァーさんとかアンブール氏とか。だいたい神話作家の傾向として、ニ、三匹も独自邪神つくった人は、それ以上の数、邪神を作りまくる傾向があるように思いますね。反面、殆ど、あるいは一匹も作らない人はそれ以降も、あまり作らない、場合によっては頑として作らない。とにかく、大量に作るかたは大量に作るから、バランスとしては、個人的福神漬ご飯カレー添えになる心配は、本当はあまりしなくても良いのかも知れません。が、どちらにしても、ラヴクラフトもしくはラヴクラフト・サークルの根源的な創作要素こそが主体であることを好む向きには、そもそも触肢もとい食指の動かない話であるやも知れません。

拙作邪神要素には、そんな思いが込められていたり、込められていなかったりします。
ちなみに私の創作神は、あとの方になるとまさしく粗製の繰り返しとしか言いようがなくなりまして、デザインも名前も、もうどーでもいいようなものが多くなり、こんないい加減なもの、もういらねーよ、などと思いながら適当に生み出したものもありました。そうして生まれたものの一つが本作登場の「イラネー」であります。今回の作品ですら、いらねーと感じて、1度は言及部分を削除していました(カクヨム上げにあたって増加の文字数分は、主にこのあたり)。語源については少なくとも作中では、単に偶然、いらねえという日本語と被っていただけということにしておいてください。最後に出てくるンゲペペイってやつも似たようなもので、塊に触手が2本生えただけみたいなデザインも、鉛筆でノートにラフった幼児の落書き殴りレベルでした。それを無理やり利用しました。
当時のノートは残っていますので、百聞は一見に如かず、描かれた実際のラフ画を貼っておきます。鉛筆の線がくそ薄いので、アップにあたって画像を醜く強調してあります。裏写りなどご了承ください。

ちなみにですが、本作登場のマイノグーラは拙クトゥルフ文芸誌『玉石混淆』にも長らくご寄稿の常連者、アメリカのクト作家にして大コレクター、エドワード・P. バーグランドさんの創作邪神ですが(ヤマンソとかも作った人)、今回そのデザインの細部については、同じく『玉石混淆』にやはり創刊よりご寄稿頂いている作家、新熊昇さんの描写に合わせました。具体的には青心社刊『クトゥルー 闇を狩るもの』に収録の「ウマル王子の天球儀」に登場のマイノグーラです。どのくらい似ているかは、比べてみてください。また、書棚にちらりと登場する『根倉巫女譜』という本は、同じく青心社の日本作家クトゥルーシリーズに寄稿され、また日本初本格クトゥルー映画『龍宮之使』を制作された、浅尾典彦氏が創案し、その映画や小説中で登場させているものを使用させて頂きました。ナラトースの描写についても一部、同映画からのものを採用させて頂いております(甲殻部分)。それから『東洋藝術に於けるオッココク崇拝の手引』は、ジョー・パルヴァー氏の創作にして、新熊さんの『冥王の刻印』などでも頻用されている魔導書です。本作ではいずれもほんの小ネタに過ぎませんが、これぞクトゥルーものの醍醐味ということで、作中に紛れ込ませて頂きました。

この場を借りて、関係者各位に御礼申し上げます。
以上、どうもお粗末様でした。

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