• 異世界ファンタジー

没にしたやつを見つけたので

いつもお読みいただきありがとうございます。
男娼王子の序盤を書いていた頃に純粋な第二部としてアレックスとケインを主役にメルシア王国へ戻るまでの話的に書こうと思っていた頃があり、それを別の書き付けを探していたら見つけてしまって、あまりにも現状と違うなと面白かったので載せておきます。
今と設定も違う、名前も違う、ヴィルヘルムとベアトリクスの実の息子の設定で拗ねた少年がボーイミーツガールしてケインを怒らせ赤狼団ブートキャンプされて、祖父のことを知り、報われない異母姉への初恋に破れて大人になる正統派成長物語だったんですが、今の話が降りて来て絶対にこっち!となりました。

ここからどうぞ。

かつてこの国はメルシア王国と呼ばれ、西の端の小国だった。だが若き王ウィリアムは小国を併合し、三十歳を過ぎる頃には王妃の母国であったノーザンバラ帝国を瓦解させ、ディフォリア大陸の半分をその手に収めた。

「殿下、聞いてますか?! リチャード殿下!」
歴史教師の話に大きな欠伸をした少年は短く刈った明るい赤毛をバリバリと掻いた。
「聞いてるよ。一応な。いくらバカでも父親の偉業位は知ってる」
「またそんなことを仰る。貴方は愚かではない、努力が足りないと言っているのです。戦争をして領土を広げる時代は終わりました。貴方は次の王として幅広い知識で、この国を治めていく事が求められるのですよ。貴方はこの国唯一の王子なのですから」
「んなことぁ! 分かってる!」
ただそんな事自分には向かないだけだ。苛立ちを抑えきれずに椅子から立ち上がった少年は机の上に広げられた本を床にぶちまけ、椅子を蹴り倒す。
「親父に子種がないわけじゃないんだから、俺より優秀で血筋のいい後継を今から沢山作れば良いんだ。母上だって文句を言える立場じゃないだろ。ただの妾だからな」
「殿下! お言葉が過ぎますぞ!」
「皆そう思ってるさ。皆が影で俺の事をどう呼んでるか知ってんだ! 出来損ない、乱暴者、馬鹿王子、餓狼の子、まだある! 馬鹿な俺がこれだけ覚えられてるの、なんでか分かるか!? 毎日毎日影で日向でそう言われてるからだよ!」
悔しさに涙が滲む。彼の母は王宮のメイドだった。さらにメイドの中でも貴族の娘がなる侍女ではなく、身分の低い下働きのメイドだったらしい。赤狼団の団長のツテで働いていたのをウィリアムが寵妃としたのだという。
ウィリアムは子供に恵まれていない。廃王妃イリーナとの間にリチャードの姉にあたる娘が一人いたが夭折したという。
手の甲で目元を拭い、ドアを蹴り開けて部屋を飛び出したリチャードは馬を駆って城下へ降り、歓楽街の一角にある豪華な建物へ向かった。



⭐︎この間に私掠船団でリチャードの事を襲うレジーナとの戦いのシーンを考えていたはず…


「王族に対する不敬罪……だと? クソガキが」
剣の鯉口をカチャカチャと弄るケインの殺意を逸らすために様にアレックスは口を開いた。
「ジーナを連れて行った王子について詳しく教えてもらえるか」
「ヴィルは貴方の子に王位を継がせるために自分の子を成そうとしなかった。だがオディリナ様は息子を死産し、ユリアも殺された末に亡くなられた。ジーナをイリーナとの間に作ったのはノーザンバラ帝国を支配する正統性を得るためだ。そして、俺と辺境伯の騎士団がヴィルの汚れ仕事を担う代わりに、シュミットメイヤーの血を王家の正統に組み入れる約定を結んだ。それで産まれたのがリチャード。俺の姉の息子だ」
リチャードが生き延びられたのは赤狼団の守護もあるが彼の母親自身も強かったからだ。
「リチャード……祖父の名前か」
アレックスの目に苦いものが浮かぶ。だがケインはそれに言及せず、話を続けた。
「赤狼団の中核は元フィリーベルグ辺境領の騎士団だ。だが、その事は秘されている上に、各地の裏家業の人間や暗殺ギルドを取り込んだからメルシア連合王国で赤狼団は功績こそあっても一段下かつ危険な集団と見做されている。母親が赤狼団の出ということでジーナとは違う意味で苦労していた。と言っても俺が知るのは四歳だか五歳の時までだが」

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