『最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる 〜俺って数合わせのおっさんじゃなかったか?〜』
の二巻が八月一日に発売されましたので、その記念として話を書きました!
二巻を買ってもらえれば三巻が出せるし、そこからはWeb版とちょこちょこ話が違ってくる(多分)ので、買っていただけると嬉しいです!
二巻自体もちょろっと話が増えていたり、綺麗な挿絵が載っていたりしているので、楽しんでいただけると思います。
尚、以下の話は今日思いついてパパッと書き上げたので、だいぶ端折ってるし、多分誤字もあるけど気にせず読んで!
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『ニーナとの出会った日』
三年前のとある日
「今日もゲートか……」
冒険者になってからまだ二年程度しか経っていない俺は、『お勤め』のために命懸けでゲートに潜らなくちゃならない。ゲートに潜るのは権利ではなく義務。つまりは強制だ。
「行きたくねえ。でも、行くしかねえか」
正直、命をかけるだなんてしたくないが、自主的にやらなければ国の監視の元強制的にやらされるだけなので、やるしかない。
「俺は、死なない。死んでやるもんかよ、クソッタレが」
そう呟いてから、俺は待ち合わせの場所へと向かった。
「本日はよろしくお願いします。伊上さん、ですよね」
「はい。三級の魔法使いの伊上浩介です。本日はよろしくお願いします」
待ち合わせた場所では、今日初めて顔を合わせる冒険者達のチームがあり、そのリーダーと握手をして挨拶をする。
本来ならこんな急増のチームでゲートに潜るだなんてしない。前もって顔合わせをしたりある程度の実力を確認したりするんだが、今回はそういうわけにもいかなかった。
今回俺たちが潜るゲート。それは市街地の中に突発的に現れたもので、早く処理しないと周辺が大変なことになるってことで、近くにいる冒険者達が集められた。
そしてその中には俺もいて、でも一人でゲートの中に放り込むのも問題なので、ソロで活動している俺みたいなのはどこかのチームに入れられることとなった。
「今回は緊急だったからあれですけど、伊上さんは『渡り』ですよね? 固定のチームには入らないんですか?」
『渡り』とは、固定のチームに入らず、いろんなチームにその場限りで参加する者の事だ。そして俺もその『渡り』だ。
「ええ、まあ。あんまし団体行動が向いていないんで……」
基本的に俺がゲートに潜るときは、いくつか知り合いのチームがあるからそこに混ぜてもらっている。
普通ならそんなことしないで一つの場所でやっていけばいいんだが、どうにも馴染まなかった。
「ああ、もちろん向いていないと言っても、皆さんに迷惑をかけるつもりはありませんよ。俺も、死にたくはないですから」
「それは俺たちも一緒です。今回はよろしくお願いします。生きて戻ってきましょう」
それからはチームのメンバー達と話をし、必要な準備をそろえた後、ゲートの中へと進んでいった。
突発的なゲートといっても、その向こうが異常なまでに強いとか、複雑すぎる造りになっているとかはない。
むしろ、突発的にできただけあって、その造り自体は荒野や平原などの荒く、簡単なものが多い。精々が森のように木々が存在している程度。
モンスターだっていくつもの種類がいるってわけでもない。簡単にいえば、ダンジョン全体が単一種族の縄張りのようなもの。
環境の変化も敵の変化もないため、まともにやればすぐに破壊することができた。——そのダンジョンが『普通』なら。
だが、今回俺たちが入ったゲートの向こうでは、普通〝ではない〟モンスターが存在していた。つまり、イレギュラーだ。
「ふう、なんとか生きて帰ってくることができたな」
「伊上さんのおかげだ。助かりました」
そんなイレギュラーに遭遇しつつも、なんとかチームメンバー全員が無事で戻ってくることができた俺達は、現在ゲートの外へと戻ってきて疲れ果てて座り込んでいた。
「いや、俺も運が良かっただけだ。また同じことを、って言われてもきつい」
「それでも、ありがとうございます」
自分の手のひらへと視線を落とし、じっと見ていると、ようやく生きて戻ってこれたんだと実感が湧いてきた。
イレギュラーに遭遇するのは初めてではないが、それでも何度体験しても行きた心地がしない。
だがそれでも戻ってこれた。
「……やっぱり、まだ戻ってきてない奴らはいるか」
「それは……そうでしょうね。最悪の場合は起こってほしくないですけど、だからってどうすることもできませんし、待つしかないでしょうね」
そう安堵してから、不意に周囲へと視線を巡らせたが、まだ戻ってきていない者達がいるのだろう。周囲から聞こえるざわめきが聞こえる。
だが、は収まらないどころか、より騒がしくなっているようにも感じられた。
「ん? ……女の子?」
「しらがって珍しいな。婆さんじゃない、よな?」
俺達はそのざわめきの方へと顔を向けたが……なんだあれは。
なんだってあんなやばいやつがこんなところに? あれじゃイレギュラーが外にいるような……いや、それ以上の化け物がいるようなもんじゃ——
「伊上さん、どうかしましたか?」
「っ! い、いや。なんでも……っ!?」
チームメンバーの一人に声をかけられ、なんでもないと返そうとしたのだが、その途中で恐ろしいほどの威圧感が襲いかかってきた。
「あ、れは……」
「ゲートを、壊すのか……? ここから……?」
それは先ほどの白い髪をした少女から発せられたもので、聞こえる言葉を拾う限りでは、どうやらゲートの外から中に向かって大規模な魔法を放つことでゲートの破壊をするつもりらしい。
そんなことができるのかどうかと言われたら、無理じゃないかと答えざるをえないようなことだが、実際に破壊できるかどうかはどうでもいい。
それよりも、最低でもゲートを破壊できるかも知れないって思えるほどの威力があるわけで、そんな魔法で無差別に攻撃なんてしたら……
「ゲートを壊すって……おい、まだ中に人がいるんだぞ!?」
「いや、そんなの俺たちに言われても……」
周りの者達は少女を止めようとしているが、それを黒服の者達に抑えられ、逆に止められていた。
あの少女と、その周りにいる黒服の奴らは、本当にゲートに攻撃するつもりなのだろう。
——まだ向こうに残っている人間ごと。
「馬鹿野郎、何してやがる! やるのは構わねえが、状況を確認してからにしろクソガキッ!」
そう考えたら、俺の体は勝手に動いていた。
魔法の準備をしている少女とゲートの間に割り込み、止めるために叫んだ。
「? ……×××××」
だが、少女は俺が言っている言葉が分からなかったのか、魔法の手を止めはしたものの首を傾げ、徐々に表情を険しくしていった。
そして、怒りを滲ませた表情で何事かを呟くと……
「何言って——っ!? なんっ!?」
俺に向かって真っ黒な炎を放ってきた。
突然のことながらもなんとか避けることができたのは、最初からこの少女のことを危険だと警戒していたおかげだろう。
だが、少女は俺がその炎でやられたと思ったのか、あるいはそれ以上の興味を無くしたのか、再びゲートへと視線を戻し、魔法の準備を始めた。
周りの黒服達が俺を止めようと近づいてくるが、俺はそれを無視して行動に移った。
「止めろって言ってんのが、分かんねえのか!」
叫ぶと同時に魔法で泥を生成し、それを顔にぶつけて少女が魔法を使うのを中断させる。
その瞬間、時間が止まった。
実際に時間が止まったわけではない。だが、そう錯覚してしまうほど周囲は静まり返り、誰もがみじろぎすらするのをやめた。
俺を捕まえようとしていた黒服達でさえその動きをとめ、俺を捕まえるどころか、むしろ徐々に徐々にと慎重に退がっていった。
あまりにも劇的な周囲の変化に、ハッと正気に戻った俺は流石にこれはまずいとすぐに理解し、何をやっているんだと自分自身へと心の中で文句を言った。
だが、そんな事で俺のやったことがなかったことになるはずもなく、白髪の少女は怒りをあらわにすると、先ほどとは違い明確に殺意を抱いて魔法を構築し始めた。
それが俺に向けられているのは確実で、この場にいれば周囲を巻き添いにしてでも攻撃してくるだろうことはすぐにわかった。
そのため、俺は咄嗟にゲートの向こうに逃げ込み、少女から逃げた。
逃げた俺の後を追って少女も追いかけてきたが、幸いこのダンジョンの形式は森だったため、隠れる場所はいくらでもあった。
少女が魔法を使おうとしたところで再び泥を放ち、雨に偽装した水で襲い、なんの魔力もない小石を投げて攻撃を行なった。そうすることで、少女の魔力が切れて諦めてくれることを願って。
途中でイレギュラーとも遭遇したが、まあ一瞬だった。一瞬で焼かれ、消滅した。
だが、むちゃくちゃに魔法を使いまくったせいだろう。少女は疲れ果て、攻撃の手が止んだところで俺はこっそりとゲートの外へ出てくることができた。
だが、出てきた瞬間に黒服達に取り押さえられた。まあ当たり前の話だ。どう考えてもあの少女は重要なポジションの人間だ。そんな相手に無礼をしまくったんだから、捕まって当然。
拘束されてからしばらくすれば、少女もゲートから戻ってきた。
これは殺されるだろうな。なんて馬鹿なことをしたんだろう。
そう思っていたのだが、俺のことをに見つめていた少女は、不機嫌そうにしながらもこれ以上攻撃してくる意思はないようで、ぷいっと顔を背けて歩き出した。
どうやら、俺は許されたらしい。
その後は黒服含めいろんな人達に〝説教〟されたけど、最終的には特に何もなく解放されることとなった。
ゲートの中に残っていた人たちも誰も死なずに戻って来れたみたいだし、めでたしめでたし。
——と思いきや……
『明日、迎えを送りますので指定した場所までお越しください』
後日、知らない番号から電話がかかってきたと思ったらそんなことを言われた。
普通ならそんな電話を無視するところなんだが、翌日になって本当に迎えがやってきた。それも、なんかややこしく国のサインがしてある書類を持って。
正直行きたくないし、胡散臭さは変わらなかったが、それでも俺では逃げ切ることはできないとわかったので仕方なくついていくことにした。
そしてやけに警備が厳重な場所へと着き、進んでいくと、先日の白髪の少女がいる部屋へと放り込まれた。
「しんでない」
改めて顔を合わせた第一声がそれだった。
死んでないことを改めて確認するとは、もしかして今度こそ俺を殺すつもりか、と思ったが、どうにも違うようだった。
少女は俺のことをじっと観察した後、自分の座っている場所の正面を指し示した。
ここにくる際、なんの指示も受けていなかった俺は、仕方なくその少女の対面に座り、観察され続けるという居心地の悪い時間を過ごすこととなった。
それから、俺たちの……俺とニーナ、それからついでに政府の関係が始まった。