平素よりお世話になっております。月待紫雲です。
ネトコン12入賞&書籍化予定記念で1/1から『ソロ冒険者レニー』を一時的に復活させていただきます。
それに伴って、おまけ話の冒頭部分(1話丸ごとじゃないよ)を先行公開いたします。
ちゃんと書けてますよーという報告と、私がぶっぱマンなのでちょっと我慢できない(おい)ので。
おまけ話では「やっぱりレニーは変わらないんだな」「あの終わりの後でもやっぱり続くんだな」というのを感じて頂けるように変わらず書いてまいりますのでよろしくお願いします。
こちらエピソードが公開されたら削除予定です。
(ところでこういう先行公開ってサポーターにやるものですよね?)
それでは良いお年を。
・冒険者と苦手意識
「相席よろしいでしょうか?」
レニーが酒場で休憩をしていると、柔らかな声がした。目を向けると、修道服を身に纏った女性が立っている。明るい茶髪と瞳を持っており、優しげな雰囲気を持っていた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
おそらくソロの冒険者だ。いろんなパーティーに加わってヘルプをしている様子を何度か見ている。
名前は、
「わたくしはクレラ・デロリスです。カットトパーズのソロ冒険者です。よろしくお願いします」
名乗ってくれたので考えなくても良くなった。
「レニー・ユーアーンだ。よろしく」
「存じております。お食事はこれからでしょうか?」
「注文終えて待ってる」
「では、わたくしも」
店員を呼んで食事を頼むクレラ。店員が気を利かせてくれたのか、レニーの食事と共にクレラの食事が届いた。レニーはパスタとサラダと水、クレラはオムレツとパンとミルクだった。
レニーは軽く祈り、クレラはしっかりと祈りを捧げてから食事を始める。
「レニーさんのお噂は兼ね兼ね」
「噂あるの」
「ルビー冒険者ですから」
笑顔を浮かべるクレラ。
等級が高ければ評判など流れるものだろう。噂になるのも、わからなくはない。
「レニーさんにご依頼がありまして」
「なんだい」
「クロロムダイルの討伐です」
レニーは目をそらした。
「……他の冒険者じゃダメなの」
ダメ元で聞くが、クレラは元気よく頷いた。
「準備にとても費用がかかるでしょう? わたくし聖職者(クレリック)ですが、守れるのは自分の身と、味方一人です」
クロロムダイル……トパーズ冒険者を二人以上含めたトパーズ級パーティーからでないと討伐依頼は受けられない。そして、被害が報告されることは珍しいものの、トパーズ級パーティーで依頼を受けることはほとんどない。
巨大なワニのような魔物だ。湖に住むことが多く、そこの環境を「汚染」する。
毒を持つワニだ。毒性のある白い息を吐き続け、近接戦闘を続ければしびれや吐き気、頭痛を誘発する。さらに霧状のブレスを吐かれれば、麻痺と共に意識混濁に陥り、その場で死に至る。
対抗手段はあるが、解毒のための道具の購入は必須であるし、クレリックのような回復、解毒、浄化ができるロールでなければ非常時にどうにもならない。息に混じった毒こそ、体内の魔力を外へ押し流せばある程度レジストできるが、ブレスはどうにもならない。
毒耐性のスキルでも持っていなければ恐れずに挑める冒険者は非常に少ないだろう。
環境を汚染するため、優先的に討伐されるべき魔物とされている。しかし、冒険者的には戦いたくないため、国の軍で対応することもある。
「ユニコーンの生息区域のようなので、普通の汚染であれば問題ないのですが、クロロムダイルがいるとなると話は別のようで……」
困り顔でクレラが説明する。
「討伐すれば、わたくしでもその場の浄化は行えますしユニコーンも動きやすくなると思うのです」
ユニコーン。
非常に珍しい魔物だ。馬の額に一本、角が生えた姿というのが一般的な認知である。
レニーは遭遇したことはない。伝承では純潔である女性でしかユニコーンは心を許さないと言われている。そう言われるほど珍しい存在であるのか、そういう習性なのかはわからない。ほとんど幻の存在だ。
清らかな場所であるほど、そこにはユニコーンがいるとされる。角に強力な浄化、治癒効果を持っているとされ、それで森を清らかにしていると伝えられているからだ。綺麗な環境であるほど目撃談も多く聞かれる場所になる。
ユニコーンがもし本当に生息していて、湖の浄化ができていないとなると、クロロムダイルが障害になっているのは間違いないだろう。
「……まぁ、解毒薬ないわけじゃないし、どうにかなるか。わかった」
魔物の討伐が苦手で面倒であっても倒せないわけではない。被害が拡大する前に抑える必要はあるだろう。手間と費用を考えて、クレラはレニーを頼ったのだろう。
「ありがとうございます。報酬はほとんどレニーさんにお渡ししますのでよろしくお願いします」
両手を合わせて天使のように微笑むクレラ。クレラの心が軽くなった分、レニーにのしかかっているんじゃないかと考えてしまうほどだった。