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ちょこまど小話:第3章2話前

※Xに掲載したのですが、最近のXはなかなか届きづらくなっている気がしたのでこちらにも掲載します


『ヤダ! なんで僕だけ行かなきゃいけないの? フレイヤも一緒がいい!』
 王立図書館の館内でオルフェンの声が反響する。
 周囲の来館者らの視線が、白金色の美しい長髪のエルフと、冷徹な次期魔導士団長と呼ばれるシルヴェリオと、見目麗しい第二王子――ネストレに集まる。
 ネストレは件の呪術に関してオルフェンの見解を聞きたいため、自ら彼に話しかけて騎士団の本部に来てほしいと頼んだのだ。
 しかしオルフェンは即座に断った。それも、王族が耳にすることはないような雑な返答で。
 シルヴェリオが溜息をつくとなりで、ネストレは声を上げて笑う。
「あはは、『ヤダ』とか初めて言われたなぁ。新鮮な体験だよ」
「……フレイさんが先ほどの返事を知ったら卒倒しそうだ」
 フレイヤはオルフェンが王族に対して非常にフランクな態度をとるといつも青ざめている。どうかこの状況が彼女の耳に入りませんようにと祈るばかりだ。
「では、ルアルディ殿も我らが騎士団の本部に招待しよう。それでいいね?」
『ん。フレイヤが行くならいいよ』
 そっけなく返事をすると、彼は手元にある本に視線を戻す。
 目の前にいる第二王子のことなんて全く気にかけていない。
 それでもネストレは肩を竦めるだけで咎めない。シルヴェリオも同じだ。妖精とはこのような生き物だと知っているのだ。
「シル、そういうわけだからルアルディ殿を連れて来てくれ」
「かしこまりました。……フレイさんの心労が増えそうで申し訳ない……」
「申し訳ない……か。やっぱりシルは変わったね。いや、ルアルディ殿のためだけに変わったと言うべきかな」
 以前のシルヴェリオならこのような場合、躊躇いなくフレイヤを呼んだだろう。
 目的のために冷静に判断して実行する。そこに雑多な感情を介入させない。
「せっかくだから、話し終えてから食堂に案内してあげたらどうだい? あの子が好きな甘いものがあるから、心労を帳消しにできるかもしれないよ」
「甘いもの……何があるのですか?」
「う~ん……ザッハトルテが人気だと聞いている」
「そうですか……確かにまだフレイさんに出していない菓子だから、喜んでくれそうですね」
 シルヴェリオは顎に手を添え、思案に耽る。
 その脳裏に浮かぶのは数多の菓子と、それを目にしてふにゃりと笑うフレイヤ。
 自然と彼の口元も弧を描く。
 ネストレはそんなシルヴェリオの横顔を見て、クスリと笑った。
「……そう。ならちょうどいいね」
 かけがえのない友人の役に立てたようだ、と満足するのだった。

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