「忘却」 昔昔あるところに、人生全てに嫌気がさしていた少女がいました。 視界に入るもの、鼓膜に入るもの、その全てに嫌気が差し、どこかへ逃げたいと感じていた彼女は、列車に乗り込んで旅に出てました。列車は走り出すも、ただ暗闇の流れる車内からは何も見えません。退屈な風景を暫く眺めた後、彼女は静かな眠りに落ちました。 それはただ深く、何も考えられないような、夢のない眠りでした。 小一時間が経ってふと目を開けると、列車はとある山奥の駅に着いていました。 「飛騨一ノ宮」。それがその駅の名前。 ホームに降り立ち、空を見上げると、そこには分厚い雲と空の境界に紛れて、微かな星が顔を覗かせていました。 山奥の無人駅で一人きり。白い息を吐いて、また瞼を閉じます。 なぜだか分からないけど、彼女は救われた気がしたのでしょう。 駅舎の薄暗い明かりとイヤホンの音、首元に巻いたタータンチェックのマフラーを頼りに、彼女は誰もいない夜の中で、伝えたいことも忘れ、ただじっと、次の列車を待つのでした。
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