小話 昨日の痕

「俺、虫に刺されたみたい」
 洗面所で顔を洗い終えたアヤトが、困惑したように首筋をおさえながら報告してくる。
 のどかな休日の、まったりとした朝の時間のことである。
「どれ、見せてごらん」
 俺は朝食のパンケーキを焼く手を止めて、アヤトの首を確認してみた。蚊か何かに刺されたのだろうか?
「……」
 しかし、その紅い痕は虫刺されなどではなかった。うっ血痕である。
「どう? ひどい?」
「いや、……すまない。これは虫刺されではなくて、俺が昨晩……」
 熱情を我慢できずについ吸い過ぎてしまった痕である。痣になるほど吸うつもりではなかったが、我を忘れてやってしまった。
「え? あ……、そっか、昨日の……」
 アヤトも、ようやく紅い痕の理由に気付いたようだ。頬を赤くし、少し照れたように頷く。
「すまない、治癒で治そうか」
「あ、ううん。いいよ。このままにしておく。そっか、昨日の……」
 そう言って、はにかむようにして笑う。
 ……可愛いが過ぎる……。
 ふとした瞬間に何気なく首筋の痕に触れる姿や、洗面所でしげしげと紅い痕を眺める姿。俺が目敏く観察していることなど気付いてもいないのだろうが。……その純朴で初心な姿から目が離せない。
 アヤトの穢れなき肌に痕を残すなど、不埒なことだと承知してはいる。
 だが、これは今夜も我慢できそうにない…。



 (*´ω`)呼び込みのために、とりあえずこの小話だけ限定を外してみました。みなさま読みに気てくれるかな~…。



 
 

1件のコメント

  • ありがとうございます。これでまた読み返さなくても3ヶ月くらい、幸せな気持ちで生きていけます。読み返すと更に延長。
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