絵は男5人。
サミュエルの後ろがモテ過ぎたがゆえに女はいいかな……という気持ちになってしまった男クロード=ガンヴァレン。
奥はアリウス=シュレーゲルとフレデリック=ローレンス。
サミュエルとミハエルが前。
プレビュー↓
「やべ、怒った。距離とらないと。でもオデュッセウスの神話より面白い神かもなあ、ケルトのヌアザ」
エウメネスが慌てて東屋から離れながら、それでも書記官としての職業病で興味深そうに呟いた。吹き飛んだテーブルの破片が宙を舞い、お茶の湯気が立ち上る中で、ヌアザの霊力が嵐のように暴れ回っている。
「うわあああああ!」
プトレマイオス、カッサンドロス、オリュンピアスの三人が慌てて後退した。温和だった茶の時間から一転して、まさに神の怒りが炸裂している光景だった。
「神の道に人の心など要らぬというのに、貴様らは私を何だと思っている!」
ヌアザが銀の腕を振り上げると、その周囲に蒼白い光の刃が幾重にも形成された。ケルト神族の王としての威厳が、ついに本格的に現れたのだ。
「おっと、これはちょっとまずいかな」
ミハエルが霊気を体の外に出しつつ軽やかに後退しながら、それでも余裕の表情を崩さない。
「ケツラブくん、そんなに怒らなくても」
「ケツラブケツラブうるさいと言っているだろうが!」
ヌアザの怒声と共に、蒼白い光の刃が一斉にミハエルに向かって飛んだ。しかし、ミハエルは慌てる様子もなく霊波動の膜を展開する。
「まあまあ、せっかく仲良くお茶してたじゃないか」
「仲良く? 茶番だったのか、あれは!」
ヌアザが憤激した。確かに、彼の指摘は一理ある。優しい言葉をかけられて思わず涙を流してしまった自分への怒りも混じっているようだった。
「茶番じゃないよ」
オリュンピアスが勇気を出して声をかけた。
「私たちは本気で、ヌアザ様のお気持ちを」
「黙れ!」
ヌアザが振り返ると、オリュンピアスに向けても光の刃が飛ぶ。しかし、その瞬間—
「おっと、それはいかんぞ」
ミハエルが瞬時に移動して、オリュンピアスの前に立ちはだかった。霊波動で光の刃を弾き返すと、その反動でヌアザが一歩後退する。
「一般人に手を出すのは感心しないな、ケツラブくん」
「だからケツラブと呼ぶなと言っているだろう!」
ヌアザの怒りがさらに増大した。背中の翼が大きく広がり、銀の腕が異様な光を放ち始める。
「この名前にそんなに反応するということは」
ミハエルがニヤリと笑った。
「もしかして、本当にお尻が好きなのかい?」
「違う! 全然違う!」
ヌアザが必死に否定するが、その必死さが逆に怪しく見える。
「アーケツラーブって後に続く名前もあるって聞いたけど」
ミハエルが追い打ちをかけた。
「『アッ! ケツラブ』って感じで」
「やめろおおおおおお!」
ヌアザの叫びと共に、今度は本格的な神の力が解放された。中庭全体が蒼白い光に覆われ、地面にひび割れが走る。
「おおお、すごい力だ」
ナルメルが感嘆した。
「さすがは正真正明の神よ」
「でも」
トトメス3世が冷静に分析した。
「怒りに任せた攻撃は、隙も多い」
その時、中庭の外れから別の声が聞こえてきた。
「何やかんや、面白そうなことやってるじゃん」
天馬蒼依がのんきな声で現れた。その後ろには、ユーナ=ショーペンハウアー、ガートルード=キャボット、アン=ローレンの姿もある。
「蒼依ちゃんたち」
ミハエルが振り返った。
「どうしたんだ? 確か君たちは別任務に」
「任務終了〜」
天馬蒼依が軽やかに手を振った。
「思ったより早く片付いちゃった」
「で、戻ってきたら何だか騒がしいから見に来たのです」
ユーナが好奇心いっぱいの表情で説明した。
「あちらの翼の生えた方は?」
「ケルト神話の主神、ヌアザ・アガートラームだ」
ミハエルが紹介した。
「今ちょっと、お尻の話で盛り上がってる」
「お尻の話?」
ガートルード=キャボットが首をかしげた。
「何でお尻?」
「アーケツラーブって別の呼び方が、『アッ! ケツラブ』って聞こえるから」
ミハエルが説明すると、蒼依たちがクスクス笑い始めた。
「確かに」
アン=ローレンが吹き出した。
「そう聞こえますね」
「やめろおおおお! これ以上私を愚弄するな!」
ヌアザが完全にキレてしまった。まぁ完全に愚弄なので仕方がない。今度は手加減なしの本格的な攻撃を繰り出そうとする。
「あ〜あ、本気で怒っちゃった」
天馬蒼依が苦笑いした。
「ミハエルさん、ちょっとからかいすぎじゃない?」
「そうかなあ」
ミハエルが首をかしげた。
「まあ、確かにちょっと調子に乗ったかも」
「ちょっとじゃないでしょう」
ユーナが呆れた。
「完全に煽ってますよ」
その間にも、ヌアザの力はさらに高まっていく。銀の腕から放たれる光が、もはや殺意を帯びたものになっていた。
「さすがにやばいかも」
ガートルード=キャボットが治癒魔法の準備を始めた。
