第1話 とある被害者の回想
俺の勝ちだ。マウンドの上でそう思った。
シニアリーグの地方ブロック準決勝。
七回裏、スコアは3対2。
チームのエースだった俺は、決勝戦のためにこの試合では先発せずベンチに控えていたが、一点もやれないこの回に初めてマウンドに上がった。
先頭の一番打者にヒットを許し、二番の送りバントでランナーを二塁まで進められるも、三番を三振に打ち取り二つ目のアウトを奪う。
そしてツーアウト、ランナー二塁の場面で向かえたのは、相手の四番打者、南條。
マウンドから見る南條の身体は、そんなにデカくない。ガタイだけで言えば、こいつの前を打つ三番の方がデカくて、迫力もあった。
体格だけで打者の力量が分かるはずがないけれど、俺は心のどこかでこいつを侮っていて、それが逆に功を奏したのかもしれない。ファールも含めて、ポンポンと2ストライクまで追い込むことができた。
そして投じた最後のボールは、インコースギリギリに決まるストレート。
南條はこの球に手を出す素振りを見せなかった。
見逃しだ。手も足も出ずに見逃し三振。
そう思っていた。
だから、
(はっ?)
相手打者のバットが、いつの間にか振り切られている、その意味が分からなかった。
ミットに収まっているはずのボールがそこにないことに、すぐには理解が追いつかなかった。
答えは俺の視界の左端を一瞬で過ぎ去っていき、そのままスタンドに突き刺さった。
硬質な物同士がぶつかる衝突音が、ここまで耳に響く。
(なんなんだよ、コイツ……)
平然とした表情のままベースを周るそいつを、俺は呆然と目で追うことしかできなかった。