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スウィンドラーは懲悪せり 《真白に花と懲悪を》【公開プロット】

「第一幕」
~日常の世界~
・貧乏JK《輪花》、いつものように食べ物を万引きし、店をあとにする
・家出から半年――今の輪花には帰る場所もなければ、頼る当てもない。ゆえにこんなことをしてはいけないと多少悩みながらも、やはり背に腹は代えられない(加えて廃棄されそうなものだけを盗んでいるので環境的には悪くない)として、すっぱりと割り切ることしかできずにいた

~冒険への誘い~
・あてどなくただ行き着いた路地裏にて、盗んだ食べ物を開けようとしたそのとき、白髪の男から声をかけられる
・「このあたりで泥棒を見なかったか」という男の問いに素知らぬ顔で見ていないと答える輪花。すると男は手鏡を輪花へ向けて「ちょうどこんな顔をした女の子なんだけど――」とわざとらしく尋ねる
・男が自分の万引きに気づいていると察した輪花は、あたかも男の後ろに警察がいたかのような口ぶりで、痴漢から助けを求めるような演技をする。それによって男を振り返らせた隙に輪花は手にしていたパンを男の顔に投げつけ、一目散に逃走する
・路地の細道という細道を野良猫よろしく駆け抜けて、軽く息を切らしながらも軽快に歩道橋の中程へと駆け込み、後ろから男が追ってきていないことを確かめ、輪花は胸をなで下ろすも、いざ向き直るとあろうことか前方にあの男が立ちふさがっていた
・意外な再会に一驚を喫する輪花に、男はまたもわざとらしく「落とし物だなんておっちょこちょいだなあ」などと言って、輪花が投げつけたパンと、いつのまにか落としていた学生手帳をつまんで見せる
・万引きのみならず身元までばれてしまったと思い、顔面蒼白する輪花。男はさてどうしようかと冗談交じりに前置きしたのち、しかしこの程度のことで、むしろ廃棄されるであろうものをむだにしないファインプレーを警察に届け出るような所業を誰ができようか――と道化た調子で語り聞かせる
・男がぽいっと放ったコッペパンをキャッチしながら詰め寄り、学生手帳を返すよう迫りながら手を伸ばす輪花だったが、男は体を反転させることで伸ばされた手をいなし、「それはそれとして、せっかく親切心から落とし物を拾ってあげたのに、お礼もなしに返すというのは寂しいなあ」とそれとなく返礼を求める。輪花はぐっと怒りをこらえながら、今の自分にできることならなんでもする(だから万引きを見逃してほしい、そして学生手帳を返してほしい)と必死に訴える
・にらむことしかできない輪花に、男は怖がる仕草を大げさにアピールしながら「君は上目遣いの天才だな」などと皮肉る。そして明日の放課後に菓子折でも持ってきてくれとだけ告げ、まるで何事もなかったかのように去っていった
・なにを言っているのだと困惑しながらふとキャッチしていたパンを見ると、真白市内の住所が書かれた付箋が包装の裏側に貼られていた
・そこで輪花はようやく、男が指定の場所まで礼をしに来いと言っていたのだと気づかされ、見過ごされたのではなかったのだと、自分はとんだ早とちりをしていたのだと連鎖的に気づいて「あの白髪ぁ……!」などと歯ぎしりする

~冒険への拒絶~
・翌日。男の言いなりになるのはしゃくだが、かといって警察に知らされるようなことがあってはたまらないとして、渋々コンビニスイーツを菓子折代わりに携え、輪花は指定の建物へと足を運ぶ
・そこはどこか物々しく、人気がないオフィスビルであり、受付もなければポストに明記されててしかるべきであろうはずの社名もなく、学生の輪花ですらわかるほど異常な雰囲気が漂っていた。輪花はきびすを返したくてたまらなくなる

~メンターとの出会い~
・しかし、ここで昨日の出来事を忘れ、男から逃げ出せば最後、自分の悪事が世間に公表され、ただでさえ不安定な生活が完全に崩されてしまう。すなわち今の自分がやるべきことは男に弱みを握られている現状から復帰することであり、具体的には一秒でも早く男との関係を清算することにある(今はただ男の要求に従うしかない)だろうと、輪花はそう判断する

~第一関門~
・そうして自らを奮い立たせようとして、しかして覚悟を決めきれないまま輪花は指定された階層まで進み、ひとつしかない鉄扉のチャイムを鳴らす。数秒ののち、扉を開けたのはサングラスをかけた強面かつ黒服の男。それは少なくとも昨日、自分をここへ来るよう差し向けた白髪男ではなかった
・確かにここは指定された住所だ。であれば男が書き間違えたのだろう、そうに違いない――刹那の内にそう断定した輪花は間違えましたと言いながらに退散しようとするも、黒服の男に肩をつかまれ、コンビニの袋を一瞥して「礼の物は持ってきたようだな」と言いながら無理やり輪花を室内へと連行してしまう
・そこは雰囲気から察するに極道あるいは密売人の領域だった。おそらく自分はたかだか勘違いのせいでろくでもない連中とコンタクトしてしまったのだろうと内心ヒエッヒエの輪花。室内にいたほか複数の黒服のうち、上座であろうソファに座る男がまずブツをよこしなと切り出す。当然輪花は話の内容などつゆ知らず、強いてわかるのは自分の持ってきたコンビニスイーツが件のブツではないであろうということのみ。恐怖と焦りから両手をがちがち震わせながらおそるおそる袋を開けようとする輪花の目からは今にも涙がこぼれ落ちんとしていた
・そのとき、部屋の窓ガラスがはじけ飛び、同時に甲高い破裂音と共に高速の飛来物が室内を突き抜ける。上座の男と輪花のちょうど間に飛び込んできたその飛来物は、もくもくと煙を上げる発煙筒だった
・当惑する輪花に目もくれず、上座の男は部下に外の様子を確かめるよう命令しようとするも、その声は火災報知器のアラートとスプリンクラーによってかき消される
・上座の男は舌打ちをし、取引は中止だなどと吐き捨てながら輪花を押しのけ、部屋の隅に置かれていた段ボールの中身を自ら確かめる。まるで汚損を嫌うように不透明のビニールを一包一包、別の袋の中に詰め込んでいると、今度は消防車のサイレンが近づいてくる。火災報知器が作動したのは確かだが、いくらなんでも通報が早すぎると上座の男は挙措を失う
・状況をまるで飲み込めずにいた輪花だったが、この場から逃げ出すなら今しかないと我に返り、上座の男や黒服がてんやわんやする室内を気づかれないように万引きウォークで飛び出し、誰よりも早くビルの外へと脱出する
・そのまま輪花はビルの脇まで駆け込み、外の空気と街の雰囲気を胸一杯に吸い込み、生の実感に安堵する。そのままふとビルの方へ振り返ってみると、なんとそこには自分をこんな魔境へ呼び出した張本人たる白髪男が立っていた
・一体全体、これはどういうことだと詰問しようとする輪花に、白髪の男は輪花を制するように口を開く。あの場所はブツ(違法薬物)のいわゆる卸売市場であり、あの場にいたのはちょうど今日この時間に訪れるという約束をした卸業者から薬物を買い取るためにやってきた密売グループであり、その卸業者としてやって来たのが君というわけだ――にやけながらもきびきびと男は説明する
・真相を聞かされた輪花は、よくも騙したなと、あんなところによくも呼び出したなと白髪男へとつかみかかろうとする。しかし男はそんな輪花を意に介さないといった調子で学生手帳を突き出して「なかなかの名演技だったよ。泥棒より向いてるんじゃないか?」などとあしらってみせる。輪花はひったくるように学生手帳を取り返す
・男は輪花を騙してあの場(違法薬物の取引現場)へ向かわせたのは仕事の手伝いをしてもらおうと思った――つまりは適性を試したかったからであり、現場に発煙筒を投げ入れたりあらかじめ消防署に通報したのは自分であると打ち明ける。すべては世直し――正義のためにやったのだと――
・とても常人とは思えない男の発言に、いったい何者なのかと輪花は尋ねる。すると男は得意げに胸をはり、自分こそが現代の仕事人《スウィンドラー》であると宣言する
・何のことかと理解が追いつかない輪花に対し、自称仕事人は消防隊のかけ声と遠くから聞こえるパトカーのサイレンに耳を傾けながら「ざまを見ろ」とつぶやいたのち、すぐさま「仕事人の助手としてこれからもよろしく」などと言って輪花の肩をぽんとたたきながら、「これうまそうだねー」などと気安い調子で輪花が持ってきたコンビニスイーツを手に取っていく
・無理やりにすぎる従属契約にふざけるなと声を荒らげる輪花。そんな柳眉を逆立てるJKにスウィンドラーは、仕事を手伝ってくれるならただで自分の事務所に寝泊まりしてもいいと持ちかける。家に帰れず、ネカフェなどでやり過ごしている現状をどういうわけか看破された輪花は思わず生唾を飲み、このまま要求を拒否してお縄を頂戴するリスクを背負うくらいなら甘んじて受け入れるしかないとして、憎たらしい笑顔で手招きする仕事人へとついて行くのだった――

「第二幕前半」
~試練・仲間・敵対者~
・ところ変わってスウィンドラーの事務所。仲間ができたと喜んでいたのもつかの間、がらりと表情をこわばらせたスウィンドラーは、先ほど密売グループにチェックをかけたが、しかし盤面を制するには至っていないと断言する
・まさかこの世すべての密売グループを撲滅するまで終わらないとでも言うのかと冗談交じりに尋ねる輪花に、さすがに「今は」そこまですることはかなわないと返し、一枚の写真を机上にて滑らせる。それは輪花もよく知るほどの有名歌手《サクジ(SAKUJI)》だった
・スウィンドラーは白い粉入りの小袋をひとつ、またひとつと開封しては机上にこぼし、枯山水よろしく文字を書きながら語る――サクジは件のブツを所持していたことで書類送検された過去があり、当時は多額の制裁金を支払い、記者会見を開くほどの一大事となったが、今となってはすっかり風化した事件の主人公にすぎない。しかし実際は所持どころか巨大な密売組織の総締めであり、裏では事件後も変わらず件のブツで弱者を陥れ、私腹を肥やし続けていると――
・そこまで話し、スウィンドラーは切り出す。これ(指先でひらひらさせている小袋)に苦しめられた人々のために、人気アーティストの仮面をはがし、世直しに打って出よう――そう言いながら小袋の中身で「OK?」と書いて輪花に了解を迫る
・まさかこれも件のブツなのかと警戒心をあらわにする輪花。しかしすぐに「ブツだと思った? 残念、ヨーグルトに付いてるお砂糖でしたー!」などとスウィンドラーにおどけられ、怒りのままにテーブルを蹴り上げて道化の仮面に直撃させたのだった

「第二幕後半」
~最も危険な場所への接近~
・後日。とある物流会社の倉庫にて、作業服姿の小柄なバイトがひとり、先輩清掃員おじさんに連れられて清掃箇所の簡単な確認をしていた
・清掃員に扮した清掃員バイト――もとい輪花は冷や汗を流しながらイヤホン越しにスウィンドラーから仕事の確認を受ける。そこは一見ありふれた大型倉庫だが、実際は《サクジ》グループが隠れみのとして使っている件のブツを保管、流通させるためのアジトであり、輪花改めコードネームオウレットの仕事はそのアジトで密売の証拠となるものを手に入れることだった(※ここで「オウレット」の命名理由についてのやりとり描写)
・その実、スウィンドラーの要求とは「正義のために戦う」こと――つくづくそう思い知らされた輪花はいくら自分も悪さをしていたとは言え、犯罪組織を相手取るなどやはり荷が勝ちすぎていると臆病風に吹かれる。だが自分はほかの仕事で手が離せないこと、そして何よりフクロウのごとく音もなくあまたの廃棄食品を救ってきた(盗んできた)輪花にしかこの仕事はできないのだと熱くスウィンドラーに語られ、交代は望めないとして絶望する
・ひとまず適当に清掃を続け、休憩室で《輪花》はようやくひとりになる。その報告を受けた《スウィンドラー》は作戦開始を《輪花》へ告げ、件のブツが保管されているであろう部屋に至る道筋を的確に指示していく

~最大の試練~
・ここを越えれば目的の部屋にたどり着ける――一触即発の仕事からようやく解放されるのだという《輪花》の淡い期待はいともたやすく砕かれる。なんとドアの向こうに広がっていたのは棚という棚がずらりと立ち並ぶだけの書類保管庫。すなわち目的の部屋に通じるようなドアがどこにもない行き止まりだった
・状況を聞かされた《スウィンドラー》は図面に間違いはなく、つまりは棚をどかさなければ目的の部屋にはたどり着けないだろうと分析する
・拝借は得意分野なれど、力仕事はまるでだめ。たとえ自分が束になっても及ばないほどのパワー系女子であっても、この棚を動かすなんて到底無理だと《輪花》は訴え、早急な撤退を要求する。刻一刻と失われていく休憩時間――誰もが手詰まりだと思うような苦境を前に、しかし無線越しに聞こえる仕事人の声は異常なまでの自信に満ちあふれていた

~報酬~
・一方その頃、作曲中の《サクジ》は予定にはないタイミングで鳴った携帯電話に応じる。開口一番、気安くかけてくるなと叱責した《サクジ》だったが、部下の想定外の一報に思わず驚きの声を漏らし、立ち上がった
・取締役としてお忍びでアジトに急行した《サクジ》が見たのは、あの書類保管庫の前で部下たちに入室を要求する消防職員たちの姿だった。随伴していた部下から、内部からの告発により書類保管庫が消防法違反に当たる可能性があると知らされた消防署が立ち入り検査のための人をよこしてきたのだと説明を受け、予想だにしない事態に《サクジ》は怒髪冠を衝きながらきびすを返す(※実はスウィンドラーの指示で輪花が書類保管庫の消火器を適当な場所に隠していただけで、実際は消防法違反には抵触しない部屋だった。この事実はこの時点では描写しない)
・件のブツが悟られないよう立ち回れとだけ部下に指示を出し、ひとりとなったそのタイミングで《サクジ》の携帯電話が鳴動する。非通知でかけるばかりか、ボイスチェンジャーをもって声をも隠す謎の発信者は、「社長の弱みを握った」「間違いだったとして告発を取り消してほしいなら、取引のために屋上へひとりで来てほしい」などと伝え、一方的に通話を切った
・裏切り者の出現ととらえ、怒りの炎をさらに燃え上がらせる《サクジ》は、荒々しい足取りでとある一室のドアを蹴破り、デスクの引き出し――その上げ底の下に隠された黒き凶器をわしづかみにする。刃向かう者を制裁せんと、《サクジ》は不敵な笑みを漏らす


「第三幕」
~帰路~
・屋上へとやって来た《サクジ》。そこに待ち構えていたのは、未だボイスチェンジャーで声色を偽り、顔を隠すように帽子を深くかぶった作業着姿の男だった
・告発したのはお前かという《サクジ》の質問に首を縦に振り、男は懐から白い粉入りの小袋を取り出す。これは自分が仕事中に偶然見つけたもののほんの一部にすぎず、もし今ここで取引に応じなければ告発を取り下げないどころか、さらなる事実が露呈することになるだろうと男は語る(※その場限りの取引というタイムリミットの設定)
・小切手などでこの場をやり過ごし、あとで始末できればベストだと考えていたサクジだったが、ここで自ら手を下すという最終手段に打って出るしかないだろうと悟る
・もうおおむね自分の正体が気づかれている(そうでなくとも、どうせ始末するなら話しても支障は無いだろう)と思い、自分が密売グループを影から動かしていたのだと認め、次いでよもやブツの隠し部屋をかぎつけ、あまつさえ言葉巧みに公権力を動かすことで自分を取引の場に引きずり出すとは恐れ入ったと《サクジ》は男を賞賛する
・すると男はまるで壊れたように失笑する。なにがおかしいと語調を荒らげる《サクジ》に対し、男はたかだか清掃員が管轄外の部屋を掃除するためにわざわざ棚を動かしたと本気で信じているとは思わなかったとへらへら答え、勢いよく帽子と口ひげを外す。《サクジ》の目に飛び込んできたのは、毒々しいまでのしたり顔をさらす先輩清掃員おじさん――もとい、変装していた《スウィンドラー》その人だった

~復活~
・ここで取引を持ちかけた男が物流会社として雇っていた清掃員ではなく、すなわち外部――取引ではなく、自分を陥れようとせんがために潜り込んだ敵であると認識した《サクジ》は、はめられたことで自制を失い、隠し持ってきた拳銃を《スウィンドラー》へと突きつける
・弱みを握っていた《スウィンドラー》に対し、今度は命運を握り返すことで形勢をくつがえしたと確信し、片笑む《サクジ》。だが命の危険に直面したはずの当人は依然として笑い続ける。続けてなにがおかしいとまくし立てる《サクジ》。そこで《スウィンドラー》は見え透いた盤面すら見誤る姿は実に劇的だと前置きし(さらにここでボイスチェンジャーをオフにし)、そしてぴたりと笑いを止め、ただ冷徹にチェックメイトを宣言する
・その言葉を皮切りに、《サクジ》はとうとうこけにされた怒りから引き金を引く。――だが、拳銃は撃鉄(厳密には銃内部の撃発装置)の乾いた音をむなしく発するのみで、金色の弾頭は放たれず。想定外の事態に一驚を喫し、目を丸くする《サクジ》。その一瞬で間合いを詰めた《スウィンドラー》の重たいリュックで頭を強振され、たまらずよろめき、うつぶせに倒れる(※ここでサクジをいったん気絶。場面転換後、サクジは縛られており、目の前にはスウィンドラーと、その後ろから顔をのぞかせる輪花がいる)
・そこで《スウィンドラー》は種明かしと言わんばかりに嬉々として声を作り、取引に際して持ち込むであろう拳銃の弾は小さなフクロウにあらかじめ抜いてもらったのだと語る。とはいえその子はわりと臆病だから、今頃は屋上の隅でがたがたと身を震わせているだろう――そんなどうでもいいつぶやきに《サクジ》はふさけるなと言わんばかりに《スウィンドラー》を疾視する
・そんな《サクジ》にわざとらしく、ふと思い立ったように《スウィンドラー》は「そういえば――」と言って白い粉入りの小袋を取り出す。そして書類置き場に消防法違反の可能性(開かずのドアと、消火器などの設置義務をクリアしていないという事実)があることは確認したものの、肝心の保管庫には入れなかったので件のブツについてはぶっちゃけ未確認であった(つまり「書類置き場の消防法違反」という揺さぶりのための手札しか持っていなかった)と打ち明ける
・ならばその小袋はなんだと尋ねる《サクジ》。まるでその言葉を待っていたかのように《スウィンドラー》はにやりと顔をほころばせ、「ブツだと思った? 残念、ヨーグルトに付いてるお砂糖でしたー!」と言って小袋を開け、中身のそれをぺろりと賞味してみせる
・こんなふざけたやつに――そう唾棄しようとした《サクジ》の意識は、鈍痛と屈辱の炎に燃やされていった――


~宝を持っての帰還~
・乗用車の車窓から慌ただしく連絡を取り合う消防署員を眺めながら、《サクジ》との始終を収めた動画をネットにアップロードする《スウィンドラー》。自分が撮らされたその動画が衆目にさらされる瞬間を目の当たりにしながら、《輪花》はあんな危険を冒してまでたかが悪人ひとりをやっつけることに一体何の意味があったのか、到底割に合うとは思えないなどと訴える
・対して、あたかも偉業をやり遂げたように満足げな仕事人は、社会貢献は社会人として当然の義務であり、少なくともこういった仕事に報酬を求めるつもりはないと誇らしげに答える
・まるで正義のヒーローのような対応に《スウィンドラー》を見直しかけた《輪花》だったが、「――ただ、こうして感謝されるだけで充分さ」などと言いながら《スウィンドラー》が見ていたノートPCの画面を目の当たりにさせられ、ただただあきれ果てることしかできなかった
・「ざまを見ろ」――それは誰よりも早く懲悪動画に書き込まれた、およそ感謝には値しないようなコメントだった――

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